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般若もとい先輩は痛みで顔を顰めていた為か腕は放してくれたけど両手を俺の顔の横につき顔をよせて囲むようにする。
勿論軽いパニック状態になるというか、やっぱ先輩の顔かっこいいだとか違う!!
「っ・・・」
思考がおかしくなってきたところで壁を殴るような鈍い音が聞こえてきてようやく意識を戻す。
「・・・あ、」
「何を考えてたのー?」
「ぅあ、いや、何も!!」
普通に壁に手をついていた筈の先輩の左手がグーパンチの形になってて本当に少しだけど壁から塗料のくずみたいなのが剥がれ落ちていた。
そんな状態で先輩のこと考えてたとかそんな、軽く事実であっても言ったら本気であの壁のようにされることは間違いない。
死にたくない死にたくないって、思うけど目の前の先輩の背後にいらっしゃる般若さんは今もご健在で。
「だよねー、俺との会話中に他のこと考えるなんてねー?」
あるわけないよね?と続ける先輩に全力で首を縦に振るととりあえずは満足したようだった。
「とにかくさー、俺は迷惑なんて思ってないのを前提にして考えろ。それからの言い訳ならーまあ、聞いてもいいかなー?」
先輩が迷惑って思ってないなら言い訳を考えるも何もない。
だって俺の中での一番の大前提が先輩の迷惑になることはしないだったのだからそれが消えたら言葉に詰まるのは仕方ないだろう。
後強いて言うのなら先輩といるのが心臓に悪いというか普段のスキンシップがちょいと今の俺には過激だとかそうゆうのもある。
でもそんなのは言うわけにもいかないし、ってことなので俺には反論することも言い訳もなにもないのだ。
「・・・ない、です」
「んー、やっぱそうだよねー」
「はい・・・」
壁から両手を離すとやっと般若は消えてくれたけどまだ気まずい感じはぬぐえない。
どうすればいいのかわかんないけどとりあえずもう帰ろうそうしよう。
「あの、じゃあ帰りましょ!」
「んーそだね」
無言で歩き出す。
俯きながら先輩に手を引かれてきたので道がわからないので先輩の後ろをとぼとぼと。
兎に角最近おかしいだなんだのとは言われなかったのでそれだけはよかったことにしよう。
先輩としてはきっと聞きたいというかどうしたんだコイツとかそんな風に思ってるんだろうけど。
それでも男に好きだなんだ言われても困るだけだし。
俺も男に好きだなんだ抱いて抱かせて言われても生理的嫌悪を感じるしかない。
「時雨ー?何考えてるの?」
「いや、何も・・・」
「ならーそろそろ気づいて欲しなー、お家に到着したよ?」
「へ?うわ、すいません!」
ぼーっとしていた為か何時の間にか家についていたことに気づかなかった。
目の前で少し屈んで手を振る先輩との距離が思ったよりも近くて思わず飛び退く。
「時雨がね、最近変なこと知ってるよ?」
「そーでしょうね・・・」
「でも、俺は何も言わない」
「へ?」
練習に支障を出すから早く解決しろとか相談しろとか言われると思っていたので拍子抜けした。
そして頭をなでてから俺を取り残して早々に去って行った。
「・・・・」
離れなきゃいけないと思いながら、心は近づいていく。
そして先輩は、俺を惹きつけて放してはくれない。
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