7

せめてもの反撃にと少し見つかりにくそうな隅にでも隠れて居ようと移動する。
ところで先輩がやってきたようだった。

「時雨」

何回も何回も呼ばれてきた名前が、今日はなんだか違うようで。
それは俺の心境の変化なのか実際に先輩の声音がいつもと違うのか判別がつかない。
もし俺に原因があるのならやっぱり一緒に帰るのはいろいろ辛いし先輩に原因があるのならばどうすればいいかわからない。

片手をあげていつもみたいにはい、と返事をすればいいのに中途半端な位置で止まった右腕と間抜けに開かれた口。
一瞬固まってからの続きの動きをして不審がられるのは当たり前だけどとりあえじ動くしかない。

「っと、帰りましょうか・・・」

「そーだね」

時々先輩のふざけた言葉に棒読みの台詞で返答した俺の口調みたいだ。
それも更に確実に二三倍は感情なしにした感じでこれは俺結構やばいことしたのではないだろうか。
もう結構前だけど出会い当初に怒らせちゃやばそうな人だって思ってたのに。

隣に立つのもなんかちょっと怖くてそれでもこれ以上挙動不審な態度をとれば確実に何か言われる。
そして言われる言葉は恐ろしいものに違いないと被害妄想は拡大していく。

「・・・・・」

「・・・・・」

いつもは何かしら話しかけてくるし俺も話すのにそれをする雰囲気ではない。
そういえば今日シュートが全然入らなかったんだよなと思う。
なんかのミスが多かった時などアドバイスを貰うのだが、そんなことを話せるわけもなく。


電車に乗り込めば帰宅ラッシュということもあり距離は縮まる。
いつものことなのにやっぱりいつもじゃない雰囲気にやっぱり俺が原因なのかと心当たりを探す。
答えはちょっと考えただけじゃ簡単には出てくれずにモヤモヤだけが残る。
先輩がイラついているのは試合のことかと思ったけど今まで順調に勝ち進んでいるのを考えればそれもおかしい。
これから当たる学校がいきなり優勝候補のとこだったかと首をかしげるがいずれにしろ当たるのは当たり前だ。
もう次の試合で?と思うけど確かスケジュールを見たところそんなこともなく。

「時雨、降りるよ」

「・・・・」

「時雨」

「うぅー・・・」

「しーぐーれー?」

腕を引っ張られてやっと既に目的の駅についていたことに気付く。
そして先輩の怒りメーターがさらに上昇していることにも悲しきことに気付いてしまった。

「その、えと・・・すいませ、ん」

「行くよ」

腕は離れずにしっかりと俺の手首を握りしめられていた。

二人で暗い道を通るのはやはり気まずい以外表現するものなどなくて困る。
もちろん他にも通行人はいるけれどまったく関係ない人たちなのでこちらの雰囲気などお構いなしに通り過ぎていく。

俯きながら歩いていれば、帰り道と少し違うなあと思えば辿り着いたのは狭い裏路地。
ここらへん一帯は住宅街で狭い道も結構ある。
そのどこかに押し込められたと理解するも状況に困惑を隠せないのは仕方がない。

「先輩・・・?どうしたんです?」

「どうしたって?時雨の方こそどうしたの、右腕」

「え・・・っぁ、」

握られていた手首からいったん手を放すと肘らへんを思いっきり掴んでくる。
不良さんが途中で金属バット的なので殴ってきて、思わずガードしたのがそこであった。
既に何発かお見舞いしてやっていたのでそこまで威力はなかったものの痛くないわけもなく病院でも暫くは云々言われた。
そしてその場所から近すぎず遠すぎずな場所に怪我というかなんというかを負ってしまったので相乗効果があり痛さは倍だ。

「っぅ・・・せんぱ、痛い、ですっって」

「昨日の試合中にだよね?」

「そうですけど、っ、やめ・・・!!」

何故か腕を握る力が強くなって痛さに呻くけど先輩はただ何も言わずにこちらを見ていた。
いつものふざけた笑みもなく、からかうような顔でもなく。
意地悪な光を宿していたその目にはただただ不機嫌そうな怖い光が宿っていた。

その全てに恐怖を抱き、背中に伝う冷汗に体が震えた。



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