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自分は、自覚してしまえば行動に表れてしまうタイプらしい。
そんな新しい自分の一面に気付けたのは良いことなのか悪いことなのか。
少なくとも物心ついてから自分の感情をコントロール出来なくなることなんてあまりなかった。
勿論全くなかったと言えば嘘になるが精々小学生の低学年の頃ぐらいだったと思う。

周りの人達にも少し冷めた子、大人びた子など言われてきた。
それは自分でも感じていたことでもあったし、子供ながらにそう言われているのなら、そうした方がいいのかと少し自分を抑えたこともあった。
結果として今の自分が出来上がったことを特になんとも思わないのは、本心なのか自分を抑えているのかも気づかなくなった。

別に今更今どきの若者さながら騒ぎたいわけでもないし(静かなのが好きなのは本当だと思うし)。
それでももっと喋ることが出来たなら、先輩も俺と居て少しは楽しいとか思えることが出来たのかもしれない。

「時雨ー、次の試合お前出てもらうからー」

「・・・はい」

「・・・・しっぐーれちゃーん?」

「・・・」

先輩が何かを言っているのはわかるけど顔が合せられない。
何ていうか考えていること全てが先輩に関わることで後ろめたいことしかなさすぎる。

「どしたのー?熱中症?予選突破しないと本選でれないんだからさー」

「わかってますよ。今日は暑いですからね、ちょっとぼーっとしてしまいました」

そう、今日は夏の大会の地区予選。
まだまだ試合が続くからこそ、今負けてしまったらだめなのだ。
そんな試合に俺を出そうとしてくれているのだからしっかりと集中していかなきゃいけない。
先輩と、あとどれだけいれるかも係ってくるものだし。

すらすらと口から零れ出る言葉が、決して本心からのものでないことなどわかっているのだろう。
それでも少し挙動不審になってしまう俺を見て見ぬふりしてくれる先輩。

体育祭でも暇なときは一緒にサボろうよなんてメールもきたけど、無視をしてしまった。
なるべくクラスの席にいるようにして、時々話しかけてくる奴や白木と過ごした。
トイレに行ったときとか、男子全員の競技のときとか、会わなかったわけではない。
でも、何も言わなかったし言われなかった。
それで少し心が痛むのは自分勝手すぎる。

「あー・・・」

「どーしたー?」

「いや、何でもないです」

「まーいいや、水分補給はしっかりね」

そういって渡される直前まで先輩が飲んでいたペットボトル。
人数の多い部活はこうして回し飲みすることなど珍しくもなんともない。
別段潔癖症なわけでもないしいろんな奴が飲んでいるわけだから気にする必要など、ない。
それでも先輩が飲んだ直後のやつっていうのはなんというか。
今まで気にせずに飲んでいた自覚がなかったころの自分に戻りたい。

「・・・大丈夫ですよ」

「そー?」

「はい」

後輩だからという義務ってことも、きちんと心配してくれていることも知っている。
厚意を仇でしか返せない自分に腹が立っても結局今の俺にできることはとりあえず次の試合に勝つこと。
午前中の試合は先輩方が主で、午後はあまり有名でないとこだったので最初は一年とか二年を主に出して実力を調べたいといったとこだ。
負けるわけにはいかないし、なるべく長く出て先輩たちが休めるようにしたい。
地区内ではトップを争うところとだったので先輩たちも初っ端から本気モードで汗がやばかった。

俺まじでいい後輩。
そんなバカげたこと考えなきゃ、やってらんない。




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