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目覚めたのは夜中の二時。
風呂にも入らずに寝てしまったので頭が少し痒くてムズムズする。
はやく風呂に入ろうと思って着替えを用意していれば枕のすぐ隣にあった携帯が光っているのが見えた。
誰かからメールか電話でもきたのだろうが、この時間に返信しても迷惑だと思いそのまま放置することにした。

夜中なので明日も仕事の両親を起こすようなまねはしたくないので烏の行水の如くさっと終わらせた。
俺は明日は休みなので少し仕事をしてから寝ようということにした。
担当に昨日連絡をしたので返事があるはずなので携帯を開きパソコンの電源をつけた。

メールは全部で四通。
内訳は先輩二、担当一、母親一であった。
母親に関しては遅くなりそうという連絡であったので、まあ気にしない。
家に帰って俺が寝てるのを見て笑ってそうだ。怖い怖い。
先輩は一つは今度の練習試合校の情報。
そしてもう一つは試合お疲れ様の無駄に優しい言葉の羅列であった。

「・・・天然だからって何でも許されると思うなよ」

“今日腕痛めてないよねー?時雨がいないと困るから俺のために体を大事にしてね”
だなんて何ていうか妊婦さんとその旦那さんみたいだ。
その場合は腕ではなく体全体を示すのだろうが。
てか本当に俺のためにってどういうことだ、俺がいないと困るって。
期待しちまうじゃないか。

「・・・、だからダメなんだ俺は」

先輩の言葉全てを信じて、鵜呑みにしてしまいそうになる。
こんな言葉は先輩にとって日常で使うものの一つだろうし無駄に優しい先輩は全員に送っているのかもしれない。
大勢の中の一人でしかないことを知らねばむしろ自分が壊れてしまう。
壊れるっていったいどういうことだと思うけど兎にも角にも大事なものが壊れてしまいそうだ。

首を数回横に勢いよく振って担当からの返信を見る。
恋愛小説とやらを書けそうだと報告すればとりあえず大まかな内容だけでも教えてくれとのことだった。
出版社のブログみたいなとこでちょっとだけ情報公開みたいなのをしたいそうだ。
曰く今年発売された本も売れ行き好調の中、先生がファンの要望に答え恋愛小説を書くそうです!的な感じらしい。
俺としても売れろ、印ぜ・・・なんか下世話なことを言ってしまった。

兎に角大まかでいいから内容を考えなくてはいけない。
少年と少女の一年間の恋物語とか絶対にそれで満足してもらえないだろうし・・・

「・・・いやでも少年と、少年の、恋物語」

それってまるで
俺が先輩のこと好きみたいじゃないか。
言葉にして紡ぎだしてみれば背筋になにかゾワッとしたものを感じる。
何ていうかもうダメだ。
認めればいいのだろう、そういうことだと。

「先輩が、好きなのか」

嗚呼ダメだ、なんて不毛な恋だ。
書いていこうと思った矢先に失恋だとかもう何といえばいいのかわからない。
でも失恋ものとか悲恋ものも需要・・・あるかもしれない。
内側にたまったこの先輩への思い、とかいう重たいものを書くことで発散できるのならば有効活用しようじゃないか。

担当への返信メールにとりあえず単語を並べていく。

悲恋 失恋 片思い 卒業 勘違い 

思いが、とまらなくなる。

隣にいたその存在が眩しくて堪らなかった。

少女の葛藤をえがいていきたい。

そんで最後に出来上がるのは来年になりそうだと付け足しておく。
先輩が卒業したとき、きっと笑って見送るから。
そのときに先輩に言えなかった想いを全部、全部綴って想いを吐き出していきたいのだ。
どこまでも自己満足というか自己中心的というかだけど仕方がないと諦めてもらおう。


春に出会って仲良く?なって
夏に自覚して悟って
秋には何が起こるのだろうか
冬にはどんな関係になっているのだろうか

そして春には、どんな終わりが待っているのだろうか。

そこまで考えて、結局何も書いていない真っ白なそれを画面から消してパソコンの電源を落とした。




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