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お疲れ様ですの言葉で一斉に解散。
ようやく終わったと煌々と輝いていたお日様が沈みかかっている空に目を向けた。
今十六時なので夜ご飯を食べて帰るのには早すぎるし今食べたら家に帰って食べれなくなる。
でも食べたい奴だけ勝手にしとけというような感じで俺は帰宅組である。
先輩はそちらのほうに参加するということで今日は一緒に帰らない。

なんだか珍しいけれど実質半年ぐらいしたらそれが普通になっていくのだ。
非日常といえどもそれを繰り返していけばそれが日常になるのは当たり前のことだろう。
それでも当たり前にしたくないから人はもがくのだろう。

俺はもがくことなどしたことがないからどうすればいいかなんてわからない。
それでも否定したいところではあるが先輩がいなくなるのは、どうやら寂しいのである。
どうすればこれから先も関わっていけるのだろうかだなんて考えてしまうのだ。

「・・・・帰ろ」

スポーツバックはよく先輩に持って貰っていた。
行きにも自分で持っていた筈のそれが妙に重く感じて、不思議でたまらなかった。


一人で帰路につくのは随分と久しい。
とぼとぼと歩きながら考えるのは先輩と小説のこと。
今まで脳内は小説のみで埋め尽くされていたので自分自身のことがよくわからなくなってきた。


夕日が眩く光る。
久しぶりに一人で歩くその道に少女はそっとため息をつく。
いつだって傍にいたはずの長身の性格が非常に悪い男がここにいない。
そんな違和感が少女の思考を狂わせるのだ。
こんがらがった頭の中を整理しようとするけれど感情だけでコントロール出来るはずもないのだ。
少女はいつも自分のことだけを考えて生きていたから他人のことなど何もわかりやしない。



「・・・わかりは、しないんだよ」

唐突に脳内に浮かんできた文章をそっと心と脳みそに刻み付ける。
自分自身のこの状況を小説にしてみたら、恋愛小説なるものがかけるかもしれない。
少女と自分を置き換えてみて少し顔をしかめる気分だけれど状況的になんていうか女々しい自分。
存外似合ってるんじゃないかと自分で納得してしまったので出るのはため息だけだ。

いつの間にか目の前にあった見慣れた扉の鍵穴にポケットから鍵を取り出し差し込んで扉を開く。

俺が鍵を開けると先輩がいっつも扉を開いたままにしてくれたんだよなあ。
そんな些細なことで先輩の思いがわかるわけでもないけれどそれなりに大切にされていたんだと思う。
最初に足を怪我したときとか、不良と喧嘩したときとかいろんな傷痕を見せてきたから。

そう考えれば先輩の行動の原点にあるものは同情、それに尽きるのかもしれない。
なのにこうも優しさに酔いしれて自分のポジションを見誤っていた。
一人になって考えてみればこの当たり前、今の状況の大前提自体がおかしいものだったのだ。

当たり前を当たり前にしないように人はもがく。
もがいてこなかった己の弱さがこの状況に陥らせたのか。
勘違いなんてしてはいけないのだ。

なにが先輩がいなくなるのが寂しいだ。
これは結局自己満足、自分自身だけの思いなのだ。
先輩にとっての当り前の生活といえばきっと、そこに俺はいないのだろう。
大前提が違うためにすれ違った互いの見方が狂ってしまった。
俺はいったい何を当たり前としていたのだろうか。

呆けながら足を進めていたためにそこで階段の手すりに腕をぶつけてしまった。
もう一応治ったとはいえぶつけるとそこにあった傷が疼くのだ。
手に力が入らなくなり抱えていた荷物をパッと放してしまえばそれは音を立てて下へと落ちていく。

「・・・俺って、馬鹿だな」

呟いたその言葉は空へ放たれてそのまま消えていく。
それでも心の中には今の自分の状況を嘲笑う仄暗い感情が生まれてきてしまった。

さっと荷物をもう一度抱えなおして自分の部屋に行くと先輩に貸したために空いた本棚のスペースがある。
そこにもう一度本が埋まったとき、それがきっと俺と先輩の終わりなのだろうか。

ベッドへ倒れこみ、一日の疲れと滑稽な自分への思いで目を閉じるとすぐに頭の中に霞がかかってきた。
最後に脳内に浮かんできたのは、やっぱり憎たらしい笑みを浮かべた彼の顔だった。



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