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何処かの木に止まっている、やっと地上に出てきた蝉が鳴いている。
そうして蝉は死ぬまで鳴き続けるのであろう。たった七日間に命を総て使い切る様に。

そんな鳴き声が辺り一帯に響く中、少女は先輩の男の隣で歩いている。
いつも通り緩いの喋り方で、少しどうでもいい話題を話しているので適当に相槌を打った。

どうして蝉は七日間しか生きることができないのだろう。
蝉は、そんな己が人生をどう思っているのだろうか。

先輩の気配を隣に感じたまま、それが何故か気恥ずかしくてどうでもいいことを考えてしまう。
嗚呼、でも蝉にとってはどうでもよくないのだろうけれど。



「しーぐーれー、返事してくれないとこの場で―――」

「すいませんでした、俺が悪かったです」

ああ怖い怖い。
この場での次の言葉が怖くて遮る様に謝れば満足したように軽やかに笑った。
そんな先輩の笑顔が太陽のせいか分からないけれど妙に輝いて見えて、よく分からないけれど直視できない。

ふと、誰かの庭にある小さな木にとまっていた蝉が目に入りあの日少し考えた恋愛小説の続きを考えてみた。
担当さんが声をかけてくるほど読者の人達が望んでいるから恋愛小説を書いてはみようとは思う。
けれど隣に感じる先輩の存在が邪魔をして、俺の物語にまで強引に入ってくる。
でもそれもいい感じの文章になっているようで何だか気にくわないけど。

「もー、これから練習試合なのにボーっとすんなよー」

「わかってますよ、熱いんでちょっと」

「水飲めー」

そう言ってそっとスポーツドリンクを手渡してくるあたり先輩ハイスペックだなと思う。

今日は近くの私立高と練習試合。
来週には体育祭もあるというのに疲れるものだ。
夏の大会のスタメンはもう決まっているので補欠を今回決めるらしい。
お前は絶対入るから練習ちゃんとしろよと言われても普通にしてるから別にいいだろう。

「三年は、夏で引退ですか」

「まーね。俺はちょくちょく来るつもりだけど」

ああ、痛い。
胸がズキズキズキズキ。
こうして年が離れているし、特別な繋がりもないから別れは必然だ。
もし同学年だったとしても大学はスポーツ推薦で行く先輩と普通に勉強でいこうと思っている俺では絶対に別だろう。

「後、何日先輩に会えるんでしょうかね」

「さあ?」

こうやってはぐらかす先輩とこんな会話をするのは後どれだけなのだろうか。
時間にしてみればほんの少しであろうことは分かっているけれど。

「おーい、お前らこっち!!」

「よー、お前早いなー」

「おはようございます」

「はよー。今日は頑張れよー」

「わかってます」

気の良い三年生にこっちだと手招きされたほうへと向かう。
昨日手渡された地図をもとに対戦校へと向かい、実際にたどり着けたので一安心。

もう他のメンバーも結構来ているようで俺らの後にも続々と来てすぐに揃った。
最初の数分ミーティングしてすぐに着替えてウォーミングアップ。
先輩達三年生は今回の試合に出ないらしいのでストレッチの手伝いをしてくれたりした。

そしてブザーの音と共に始まる試合。
ボールが床にたたきつけられる音、誰かがジャンプして着地する音。
全てがもう慣れた音でも場所が変わるだけで何かがかわるなーと思いながら見学中。
何回戦かやるようで最初は二年生のみのメンバーで戦うらしい。
次の試合には俺も出るようで今は見学しながらも適当に手足を動かしてはいるところだ。

あ、点が入った。
隣の名前を忘れたがよく話す奴とやったなーとか会話する。
でもすぐに敵さんも点を取ってどちらが勝つかわからない状況である。
やっぱり負けるのは癪だから頑張ってください先輩達。
普段は声をあげるのも面倒だけどどうやら夏の熱気にやられてしまったらしい。



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