22

あの日、先輩に家まで送ってもらった日から何かがおかしい。
夕飯も相変わらず母にからかわれながら先輩を招いて食事をして本の話をした。
いつも通り部屋に二人っきりの状態が異様に気恥ずかしかったというかなんというか意味わかんない。

「傷まだ痛むの?」

「いえ、そんなことは・・・」

いけない、透子さんと食事中だった。
今日もお弁当を作ってきてくれてその味に舌鼓を打っているところだ。

「でも災難だったわねぇ。部活もできないんでしょう?」

「まあ。でも利き手は無事だったのでよかったです」

殴りすぎて皮がむけてたけれどガードとかは専ら左腕だったので被害はそちらのほうにいった。
後日病院へ行くと骨折などはしていなかったがもうそろそろで危ない状態だったらしいし指を脱臼してたらしい。
不完全脱臼だったからセーフだったけど完全脱臼だったら結構時間が必要だったらしい。
指は固定されていて日常生活が不便で仕方ない。パソコンも上手く扱いにくいし。
ブラインドタッチ出来るんだぜーとか前誰かに自慢していた頃が懐かしくて仕方がない。

「息子も、バスケの上手い後輩が来なくて残念だーって言ってたわよ?」

「いやいや俺は上手くないですよ」

もうこの前透子さんに先輩のお母さんですよねーって聞いた。
案の定と言うかそうだけど何で知ってるのってきょとんとされたので可愛いと思ったのは秘密だ。

「あ、夏の大会には応援に行くからね」

「ありがとうございます」

実の母に来られるよりも透子さんに来てもらった方が嬉しいとかそんなこと思ってしまう。
先輩が来るって言った日にいつもより早く帰ってきて化粧し直して普段より豪華な食事を作る母だし。

「写真もいっぱい撮るからね」

義之に何円で売れるかしらと無邪気に笑う透子さんは可愛い。
でも流石にゼロ円でしか売れないと思います。

「ありがとうございます」

「義之の写真もあげるわね」

「は・・・はい」

流石に親の前でお宅の息子さんの写真?いらねぇよだなんて言えない。

「普段アレだけどバスケ中はなかなかカッコいいわねぇ」

うちの旦那に似て、だなんて惚気る透子さん。おかげでスルースキルが更に高くなりました。
ただでさえ先輩のおかげでスルースキル高くなったのに、家族ぐるみですごいなぁとおもう。

「そう、ですね。・・・カッコいいと思います」

「女の子に好かれそうな顔だものねぇ」

バレンタインとかチョコレート凄かったのとか言うけれど・・・一体どれだけ貰ったんだ先輩。
バスケ一筋何ですよとか適当にフォローしておいたけれど確かに先輩程のイケメンなら彼女が居ないのはおかしい。
付き合っていた気配はするものの何時の間にか消えているらしい。
ちょっと付き合ったらすぐ捨てるのか、最悪だな。

「大学に入ったら一人暮らしするって言ってたし、いつお嫁さんを連れてくるのかしら」

やっぱり先輩と俺の関係はこの一年間のみ。
いくら推薦で決まっているとはいえ実質的に活動するのは二学期の半ばまで。
後は部活に来るのも少なくなるのだろうし来ても次期部長に仕事を伝えるとかそんなんだろうし。

大学に行ってしまったらもう、先輩と後輩の関係なんて消えてなくなる。
そのことがただ、悲しくて堪らなかった。


その日、家に帰ったらパソコンをたちあげた。
担当の中川さんから例の恋愛系の話を書いて欲しいと再度お願いがきていた。
なんだか今ならかけるような気がして。


私には好きな人が居ませんでした。
恋だなんて、愛だなんて、空想上のものでしかなかったんです。
でも貴方と出会ってから少しだけ、分かったような気がするんです。


其処まで打って消す。
なんだこれ、なんていうか先輩の事みたいじゃないか。
まだ文章にするわけじゃなくて大まかな流れを書こうと思っていたのだけど。

少しだけ分かった気がするとか。
これ、本の紹介文にするかと矢印を押して戻す。
今しがた消した文章が画面に表れてボーっと眺めてみる。

片思いの、悲恋小説になりそうだ。
これは俺じゃない、もしもの話だという前提で進める。
ただちょっと、残り一年のうちの数か月を参考にしてみてもいいかなと思っただけだ。



[前へ 目次 次へ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -