17

校舎をうろついてちょっと遠回りしてから教室へ向かう。
勢いよく扉を開くと授業中の先生と目が合う。
扉を開く音に一斉に生徒が振り返る。

驚きの目を向けるもの、周りの音に目が覚めるもの、授業の邪魔だと顔を顰める優等生など。
さまざまな視線を受けて先生も遂に口を開く。
しかし、その前に近くにいた生徒の小さな悲鳴があがる。
視線は勿論俺の血に汚れてしまったワイシャツ。あぁ、女の子はこういうの耐性ないよな。
今更ながら真っ先に保健室へ行かなかったことを悔やむ。

「あー・・・その、不良にいきなり喧嘩ふっかけられて授業出れませんでした」

「わ、わかった。・・・はやく保健室へ行きなさい。不良は今どこに?」

「空き教室の一つに居ます」

それに若干青褪めた教師が頷く。
後で事情聴取に担任を行かせるといったので分かったと言って教室を出た。



保健室へ向かうとワイシャツを見た先生がはやく見せてと言うので脱ぐとすぐに消毒やらなんやらしてくれた。
湿布やら包帯やらまかれてやっぱりあいつらもっと殴っとけばよかったなぁとしみじみ思う。

「・・・意外と傷は少ないね」

お久しぶりに会った佐藤先生。

「意外とって・・・大変だったんですよ、逃げるの」

「何人居たの?」

「十数人です」

「その割には傷は少ないけど」

十数人!!と驚きの声をあげてからのもう一度俺の傷の量について評価。
それに対し昔武道を習っていたと告げる。

「とにかく酷い怪我はないけど、手が暫く痛むと思うよ」

「はい。あ、部活はどうしたらいいですか」

「んー、そうだね。とりあえず二週間は安静にしておいた方がいいよ」

「わかりました」

「体育も控えた方がいいと思うよ。あと、家に帰ったらちゃんと病院に行ってね」

「・・・・」

「行ってください!もしかしたら骨に異常がみられるかもしれないでしょう?」

それでも返事を渋っている俺に溜息。
そんな顔をされても面倒臭いんですよと言いたい。

「もしかしたら熱出るかも知れないし」

重ねての説得にとりあえず了承を告げる。
その後少し言葉を交わせばいつのまにか授業終了のチャイム。

「てか、もう帰ってもいいですか?家に」

「次で終わりだもんね。頬の怪我を見たら女の子怖がるだろうし」

そう言ってガーゼの貼ってある頬を苦笑交じりに指差す。

「じゃあ」

「うん、帰っていいよ」

そんな言葉に思わずガッツポーズをしたくなるけど我慢。
とりあえず帰る準備を急ごうじゃないか。

「クラスメイトに準備してくるように言うからここで待っててね」

「はい」

そのまま保健室を出ていく佐藤先生。
寝てしまおうかと真っ白なシーツが敷かれた清潔なベッドへ向かう。
靴を脱ぐために腰かけた其処は思った以上に良質な存在を使っているようで優しく体を受け止めてくれる。

どうせすぐに帰ってくるんだからと寝ては駄目だ、なんて思いながら眠くなってきた。
一つ一つの動作が遅いからこれだけで結構な時間がかかっている。
そろそろ帰ってきちゃうなぁと思いながら既に微睡のなかに沈み込んでいた。


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