13

透子さん――先程五十嵐さんは他人行儀だから透子と呼んでと言われた――はあの一言の後は楽しそうに主人の話をしていた。
だから俺も相槌を打ったり学校での話をしたり最近の従姉と母の様子を話した。

そんな風に近状報告やら何やらして時間になったので別れた。
あの一言でよくある恋愛小説みたいにもう何も考えられないなんて事態には陥らなかった。
それでもあの言葉はずっと胸中に残っていてムズムズしている。

「・・・・・・」

空が視界に入って屋上へ行こうと教室へと行こうとした足を止めて方向転換。
そして屋上には先輩がいる可能性があるという事でそのまま立ち止まる。
いつの間にか本鈴は鳴ってしまったから途中で教室へ行くよりは6限目から行った方がいい筈。

ならば屋上以外の何処でサボろうか。
最初はサボリ場所を探してウロウロしていたのだが屋上を見つけてから毎回そこでサボっている。

「中庭は・・・体育してるから見つかりやすいか」

ふと思いついた場所は結局没。
グラウンドの脇に生徒の憩いの場所とベンチやら小さなテーブルを置いている場所がある。
其処は木が多くて影があるので涼しくて昼寝にはもってこいの場所だ。
だけどグラウンドの方からは開けていてばれる。

安眠第一なのに見つかって指導室行きは避けたいものだ。

ならば他にはどこがある。
校舎裏は人気は少ないけれどガラの悪い生徒の溜まり場として使われているらしいから駄目だ。
設備など整っていてこの県内だと一番大きい公立高校だけれどやはり場所は限られている。

うーんと唸りながら考えていると足音が聞こえてくる。
これが教師だったら大変なこった。どこかに隠れよう。

そっと階段を上ってすぐの空き教室に入って身を潜める。
てかもう昼寝の場所此処でもいい気がしてきたんだけど。
今度枕でも持ってこよっかなーと呑気に考えながら身を竦ませて床に座る。

ボケーっとしていると足音が再び聞こえた。
もしかしたらこの足音の人達もサボリ場所を探してうろついているのだろうか。
でもそれにしても大きな足音だな。
まるでわざと、自分が此処に居るとみんなに宣言しているようだ。
自意識過剰な奴かナルシだろう。

此処に来なければ別にいいやと寝そべる。
屋上も硬かったけれどやっぱり教室の床も硬いなぁと思う。
てか、先輩に抱きしめられながら寝ることが多いから痛みは半減されているのだけれど。

あぁやっぱり先輩だ。
ふとした時に出てくるから本当に困る。
一時は収まったと思われていた胸中のむず痒さが再び生まれて、思わず胸をかきむしる様に己のシャツをぐしゃりと握りしめる。

それでも当たり前に痒みは取れてくれる筈もない。
溜息をつきながらもういいやと思考を放棄して目を閉じる。


その瞬間、扉が開いた。


視線を扉へ向けると驚いたように目を開く相手。

「お、まえ・・・」

一体なんなんだと眉を寄せると一緒に居たであろうもう一人の人物が入ってくる。

「おせーよ、どうし・・・」

言葉が切れてもう一人もこちらを見ながら目を見開く。
どんだけ驚いてんだ、てか一体こいつらは誰なんだと怪訝な目で見る。

すると扉が閉まる。
そこに居たはずの存在は居なくなっていた。
先約が居たからとゆずってくれてのであろうか。優しい人たちだ。

それにしても、あの薄暗い銀色と鈍く明るい赤色を見たことがある気がする。
それは本当の気のせいかもしれないけれど、たぶん見た。

こんなに確証が持てるなんて、普段の俺からしたらただの勘だなんだと言われるかもしれないけど。

俺があいつらの事を覚えているのは。
あの時、きっとあいつらの後に先輩と出会ったからだったんだ。


本当に気に入らない、俺にとっては嫌な話だけどね。




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