12

あれから先輩はちょくちょく家へと遊びに来ることが多くなった。
たまたま、を強調させる先輩にさよならと手を振ろうとするたびに家の扉を開けて偶然ね、あがっていかない?と声をかける従姉。
この従姉は確かに今までもうちに遊びに来ることは多かった。
大学生となり一人暮らしをしているのだが、実家が遠いらしいのでたまに夕飯を食べに来たりしている。
付き合っている人がいるらしく花嫁修業と母さんに料理を習っているらしい。
まぁ、それはいいとして明らかに前よりも家へ来る回数が上がっている気がするのは気のせいだろうか。

そして従姉が居ない時でも今度は母さんだ。
何故かあの時間にゴミ捨てやらなんやらの要件をつけて従姉と同じように扉を開き偶然ね、あがっていかない?と声をかける母。

ここまでされるともう俺には抵抗するすべなど持ち合わせてなどいないのだが先輩に毎回期待の視線を向ける。
だがことごとく期待は裏切られいつもの三割増しの笑顔で喜んで、とあがっていく。

まぁ本の話もできるし楽しいと言えば楽しいけれど。
母さんたちと先輩が話した後は毎度のお約束とでも言うように先輩から悪戯される。
もううんざりして抵抗をやめたときはあったが耳を噛まれた時から警戒レベルを10ぐらいは上げたと思う。

そんなこんなですっかり従姉と母に気に入られ、先輩自身も二人を気に入ったようだった。
更に厄介なことに父も本が好きで――本好きは父からの遺伝だ――たまたま早く帰ってきたときに意気投合してしまった。
それから本好きな息子がいるにもかかわらず五十嵐君は今日は来ていないのかと帰ったら声がかかってくる日々。

なんだか先輩の掌の上で踊らされているというか自分の全てが先輩に掌握されているようで気に入らない。
それでも現状は何も変わらないので反抗とも呼べぬような反抗をして先輩に絆されて終わるというのを無限ループで再生中だ。




「最近息子が夕飯をあんまり食べてくれないのよね・・・」

ただいま五十嵐さんとお食事中。
一人はさびしいから一緒に食べないかと可愛らしくお願いされて気付いた時には頷いていた。
確証はないけどあの先輩のお母さんだ。
だって、人を意識せぬうちに引き付けるという魔性の魅力があるのだから。

「そうなんですか」

「そうなんですかって!時雨君、これは深刻な問題なのよ?」

「はぁ」

だって、原因は間違えなく母たちのせいであろう。
家に帰って温かい家庭と食事が待っているのにあれよこれよと引き留めて夕飯を食べさせる。
一分一秒でもイケメンを眺めていたい気持ちは正直理解に苦しむのだがとにかくそういうことだ。

「やっぱり寂しいのよ!!」

「複雑な親心ってやつですか」

「そうなんですー」

あ、今の話し方先輩に似てた。
だなんてふとしたことで思い出すほど心の中は先輩で埋め尽くされている。
気に入らない気に入らないというけれどこの状況を甘受していてもいいのかなぁと時々思うから困ったさんだ。

「まぁ、仕方ないとは思うんだけどね」

「そりゃ将来は親元を離れるときは来るものですからね」

「・・・、時雨君の意地悪」

「すいません」

寂しそうに笑う彼女に畳み掛けるように言うと頬を膨らませる。
それに笑いながら謝ると彼女は凪いだ瞳に変わり目を閉じる。

「別れは、来るものだとわかっているの。もうあの子は大学も決まっているし社交性もあるからちゃんとした社会人になるとわかってるわ」

「はぁ」

「だから想像するよりも早くに私たちの庇護から離れて誰かを守ることになると思うの」

「でもあの子、意外と繊細だから守りたい人を掴みとるのが出来なさそうで・・・」

その言葉にはあんまり信憑性はない。
いつもふらふらとして、掴みとれないというよりとるきが無い気がする。
誰の者にもならない自由な存在は多くの者を引き寄せる。
そのなかから気に入った人が居ればすぐさま手に入れられるのであろう。

「大切な存在が居るのに、へんに誤魔化そうとするから悲しいのよね」

「・・・そう、なんですか?」

大切な存在――その言葉に心臓が強く鼓動を刻みだした。



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