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背中にまわされた腕が、指先が背骨をそっとなぞる。
少しの悪寒とこの状況に対する羞恥で頭が痛い、そして先輩嫌い。
「先輩、母さんたち…悪ふざけが過ぎますよ」
「ふざけてないわよっ!!」
「何処がだ馬鹿野郎」
「時雨ー、女性にそんな口聞いちゃだめだよー」
そう俺以外はなんというか和気藹々としているが脳内は怒りで埋め尽くされている。
俺を抱きしめる腕の強さはいぜんとして弱まらず、背骨を撫でる指先はたまに首も撫でてくるのでむず痒い。
別に腕は拘束されているわけではないので胸元をドンドンと叩いたり髪を引っ張ったりするけれども効果がない。
「・・・・・・」
本格的にムカついてもともとひん曲がってた精神がポキッと折れそうなぐらいに曲がった頃合いに解放された。
キャッキャ騒いでいた従姉と母はこれを見てブーイング。
女性の精神力というか母は強って言うかなんて言うか、もう完敗だ。
「んー、これ以上はいくらお母様と従姉さんといえ見せらせませんねぇ?」
「これ以上!?」
「くっ・・・!!きょ、今日泊まってく?」
ついに暴挙にでた母さんを睨んで笑っている先輩のシャツを握ってひっぱる。
それに拗ねないでーとかまた更に笑う先輩が恨めしい。
「じゃあそろそろ失礼します」
「・・・・・・・そうね」
諦められないのか知らないけれど物凄い溜めの後に聞こえるか細い声。
何ていうか、毎日送ってもらっているんだから先輩が来たいって言ったら明日もまた会えるのに。
あの力漲る声で先輩つれてこいとか言われたら悔しいけれど絶対に連れてくると思うし。
荷物を取るために部屋へ来る先輩の前を歩いて扉を開ける。
「あ、これ本です」
「さんきゅー」
スポーツバックを肩にかけ、学校指定の鞄も持った先輩に差し出す。
手で持つのは大変そうだけれどパンパンに膨れ上がった鞄にこれ以上詰めるのは無理だと思われる。
「いつまでに返せばいー?」
「いつでもいいですよ。いつも一緒に帰ってるんですから」
「ん、そだね」
それを合図に部屋から出ていく。
リビングでいまだに騒いでいる母さんたちに声をかけて玄関まで送る。
「じゃねー、また寄させてもらうよ」
「はい。母たちも・・・喜びますから」
若干自分でも自覚するほどに顔が歪んだ気がするけれど気にしない。
そんな俺の顔を見て笑う先輩にもムカつくけれど。
「いやー、時雨の母さんと香苗さんすげー面白いなー」
「・・・そうですか?」
「っ、怒ってるー?」
憎々しげに返答した俺に噴き出して笑いをこらえながら首を傾げる。
答えはイエスとしか言いようが無いので無言で肯定。
いくら相手が先輩と言えども、香苗さん達のリクエストだとしても。
恥ずかしいものは恥ずかしいし未だに触れられた背中やら腕やらが熱を持っているようで気持ち悪い。
「ごめん、ね?」
そしてご機嫌をとる様に腰を曲げて下から――と言ってもこれで同じ目線ぐらいだが――上目づかいにね?のところを強調。
イケメンの無駄な破壊力に上がりそうで上がらない体温に安心しながら溜息。
「もういいですから。・・・あまり遅くなるとだめですよ」
「あ、そういえばもう結構暗いねー」
「暗いねーじゃなくて帰ってください」
「はいはーい」
ようやく外へ出た先輩が手を振る。
それに俺も振り返しながらそっと星で埋め尽くされた空を見た。
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