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いつもよりも凝った料理と異常なまでに笑顔な目の前の女性二人に頭が痛くなりながらも食事をする。
視線が嫌すぎて、早く食べたら食べたで喉に詰まらせて先輩に背中を軽く叩かれたらにやりと笑い視線が更にきつくなり項垂れる。
どうしてこんな目に合わなくてはいけないんだと思いながらも、イケメンが居ることで存在を忘れられている父さんに同情。

そんなこんなで終わった食事に疲れたと自室へとこもる。
ちなみに先輩は香苗さんと母さんに捕まってきっと暫く戻ってこないだろうな。

疲れたから本当は寝たいところなんだけど。
汗でベトベトなことにはきちんとタオルで拭いているし藤堂先輩に制汗剤などを貸してもらっているから大丈夫だけれども。
それでも風呂にも入っていないから気持ちが悪い

先輩早く来てくれないかなー、そして帰ってくれないかなぁと先輩の荷物を眺める。
それから暫く呆けていたけれど自然と眠気が襲ってきたのでやばいとベッドに横たえていた体を起こす。

疲れた。眠い。
今の俺の中の感情はもうそれだけで。
でも先輩を待たなくてはいけない現状にちょっとの苛立ちも生まれる。

駄目だ、これではただの八つ当たりだと先輩に貸すと約束した本を袋に詰めようと立ち上がる。

「…これと、あとは」

手に取り、表紙を確認して袋に入れる。
確かこれは読んでいないと言っていたはずだ。

俺の作品は読んでくれているのだろうか。
自分で言うのもなんだけれども初めて出した本は賞を取ったこともありかなり売れた。
結構有名な賞であったにもかかわらず無名の新人がとったからと有名になった。
それはあちこちで売り切れがおこり、予約も凄い数となったらしい。
書くのが俺の仕事であって売るのは俺の役目ではないので気にもしていなかったが疲れた担当さんをみて俺すげーなど思っていた。

「これ、手に入れるの当時は難しいだろうからなぁ」

持っているだろうか。
今ではそれなりに落ち着いたけれど新たなファンが俺の本を全部集めたいと買っていってくれている。
先輩もこっちが恥ずかしくなるほどに俺の作品は好きだと言っていたのできっと全部もっているのだろうけど。

「…まぁ、先輩に聞いてからいれればいっか」

そう思って他の作品も見ていく。
俺の好きな作家でも先輩は知らなかったりしたからその人ので一番おすすめなのを読んでもらいたい。
この人のはこれが一番だったよなぁと考えながらまた一冊手に取る。

結果決まったのは五冊となった。
最初は先輩が借りたいと自ら言ったもの二冊とおすすめ一冊の計三冊にしようと思っていた。
けれど久しぶりにじっくりと本棚を見ていたらこれも、これもとなり結局五冊となってしまった。
本当はもうちょっとあったけれど流石に持って帰るのが大変そうだし俺のおすすめだと言っても先輩は気に入らないかもしれない。
そう思って今日の話題に出てきた本の作者の別の作品で俺が気に入っているものを選んだ。

「まぁ…いっか」

いつも部活で一緒だし帰りも一緒だからいつでも返せる時間はあるだろう。
そう結論付けて隣に本を詰めた袋を置いてベッドへ座る。

それにしても先輩は遅い。
どんだけあの二人は先輩と話したいんだ。
溜息をつきたいけれどもし盛り上がっているのならば邪魔しちゃ悪いしとあげかけた腰を下ろす。

本当は眠いとかじゃなくて先輩が俺じゃなくて香苗さん達を構ってたからイラついたのだろうか。
まぁこのさいどちらでもいいかと結論付けるが本当に先輩は遅い。
辺りももうけっこう暗いしいくら男子高校生と言っても部活帰りで疲れている中変なのにあったら大変だ。

なに先輩のことばかり考えているのだ、俺。
正気に戻れと暗示を己に掛けるたびに先輩を思い出していてもたってもいられず下に降りる。



「…先輩」

「時雨ー、ほらこっちおいでー」

「どうしたんですか」

「香苗さんがー時雨とどのぐらい仲良いのか聞かれてなー」

だからなんだと思いながらも相も変わらず語尾を伸ばす先輩になんだか気が抜けて近づく。
母さんはもう目がハート状態であるというかなんというか。
しかし何故か分からないが俺が先輩に近づいて行くと目がキラキラとなっていく母さんに悪寒がする。
それ以上に目が輝いている香苗さんにはもう何も言えない、というか視界にも入れたくない。

ぐったりしながらも近づいて行くと先輩に腕を引っ張られもう何が何だか分からない。
とりあえず先輩の胸へダイブしてしまったことは理解してはいる。
でもなぜだ。
香苗さんにどれだけ仲良いのか聞かれてって、言葉で説明すればいいではないか。ただの先輩と後輩だって。
ちょっと賭け事みたいなことはしているけれどそれだけだ。

「先輩!何するんですか」

「やっぱ実際に目で確認したほうがいいもんねー、…俺と時雨の仲」

最後は耳元でそっと囁かれる。
からかうにも程があると睨むのだがいつもより低かったあの声に顔が熱い。
そしてきゃーきゃーと叫んでいる女性二人はもう気にしないことにしようと思うけれど存在感がありすぎて無視ができない。

「えっとー、まぁ抱きしめあうのは日常茶飯事ですね」

「そうなのー!まぁ素敵!!」

「素晴らしい…貴方は素晴らしいわ!!」

キャラが崩壊してますよと言えない自分が悔しい。
だって、何か先輩が俺の事向かい合うように太腿に乗せてきて額にキスされる。
これは冗談にしてもあり得ないと睨むけれどやっぱり涼しい顔。

確かにこの前屋上で抱きしめられながら寝たし、それ以降も一緒にお昼寝するときは先輩の腕の中だ。
それでも風がちょっと冷たいからとかそんな感じで抱き合うのは仕方ないからで―――あぁ、自分の頭なのに上手く働かない。



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