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家の中に入るとテンションの高い従姉がイケメンご招待!!だなんて騒いで、母さんが目を輝かせる。
母さんが断るわけもないよなぁと淡い期待すらも抱かなかった。
そしてそんな顔も出来たんですねと思うぐらいの輝かんばかりの笑顔でのいらっしゃい、ゆっくりしていってねだった。


只今俺の部屋に先輩がいる。
夕食ができるまでごゆっくりと無駄に意味深な声で囁いた従姉に少々恨みを抱く。
先輩とは部活だけの関係だし帰り道も話すのはクラスのことやバスケのことだけで共通の話題などそれだけだ。

先輩をソファーに座らせて母に持たされた麦茶を渡す。

「なんか、すいません」

「いやー?今日は母さんが友達と食事だって言ってたからむしろ良かった」

「そうですか」

「とーさんも俺も料理できないからねぇ。カップラーメンになるとこだった」

何はともあれ迷惑にはなっていなかったのでよかった。
とは思うもののなんていうか家に先輩が居るのが違和感ありまくりだ。

今から夕食を作り始めたので少なくとも30分近くはかかるであろう。
そして香苗さんは足りない食材を買いに行こうとしたところで鉢合わせしたのでさらに時間がかかる。
ここから一番近いスーパーは10分程かかるので行き帰りで30分。

ということは一時間近くは先輩とこの部屋で会話やらなんやらをしていなくてはいけない。
更に残念なことにあまりゲームはしないのでせいぜい持っているのはPSPぐらいだ。

暇潰しの策は考えても何も思いつかずに、時間は過ぎていく。
が、こういうときは時の進みが異様に遅くなると言う悲しきことが起こる。


あぁ、どうしようかと本格的に頭が痛くなったところで先輩が口を開く。
案外と時間はたっていなかったようで先輩は静かだったというよりただ麦茶を飲んでいただけであった。

「時雨って本いっぱいもってるねー」

「あ、はい」

一瞬つまったけれどなんとか返事する。

「俺も本好きなんだけどさー、皆信じてくれないんだよねー」

独り言のように愚痴る。
時雨は信じてくれる?とあざとく首を傾げて聞かれる。
男がそんな風にしても気持ち悪いだけだと思うのだがイケメンだから様になっている。

「信じますよ」

本当にそういえばだけど思い出した。
最初に先輩を見たのは本屋でへんな不良さんを追い返した時だった。
俺が生で見た初めての宇月蒼の愛読者?であって、学校で会った時もそういえばと思い出した。
しかし忘れやすいのが取り柄?の俺なのでまたまた今まで忘れていた。

「わお、時雨ちゃんやっさしー」

「そりゃ俺ですからね」

懐かしいなーとか其処まで時間もたっていないのに思う。

話は自然と本の話になると、いつも通りの会話の様に話は途切れない。
俺の好きな作家をお勧めしたりさり気無く俺の本の感想を聞かせてもらったり。
こんなに近くで意見を聴けるのはとてもうれしい。


「あそこの主人公のセリフカッコいいですよね」

「あ、それ俺も思ったー。ついでに五章の主人公が敵に叫ぶとこあるじゃん」

「わかります、確か銃を向けられていたところですよね」

「そーそこ。あれ良いと思う」

「確かに。でも、ちょっとセリフが子供っぽいなぁと」

「あー…そだねぇ。設定上はクールなーとかだったよね」

「ええ」

「あ、そう言えばこの本の作者の最新作買ったんですけど」

「いいなー、貸してよ」

「いいですよ」

「あらすじだけちょっと教えてー」

「はい。えっと――――――」

なんやかんやで先輩とは本の趣味が物凄く合う。
感じたことを口に出せば同調してくることもあるしそこはと先輩の感じたことを話してくれる。
好きな作者の本で持っていないのがあれば貸すと言い、今度また来るとなった。


そこで従姉が食事の用意ができたと呼びに来たのでまた飯の後と、顔を見合わせて笑った。



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