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屋上へ行き、五十嵐さんに貰ったお弁当を取り出す。
今日は先輩は屋上には来ていないようだ。

この前一応母親に弁当を頼んでみたのだが忙しいから無理と言われた。
俺が中学2年生の時に仕事を再開したというか元の職場に復帰したらしい。
小さい時に母親が家にいないのはダメだという夫婦会議の結論の元、小学生のうちは仕事をしていなかった。
中学1年の時に仕事を探してはいたがこの不況の中、なかなかうまく見つからなかった。
もう働くのはやめたらどうだと言ってみたがずっと家に一人なのは寂しいというかつまらないからヤダとのことだった。

そして元職場の友人に相談したら丁度人手の足りない部署があるから来たらどうだと声がかかったのだ。


母が家にいるのは寂しいというのと五十嵐さんが言うのとではなんか違うなーと失礼なことを考える。
天真爛漫な母の気質と深窓の姫気質な五十嵐さんでは全く違う。
まぁ、別に母が嫌いなわけじゃないけれどね。


お弁当箱の中には柔らかな卵焼きやら唐揚げやら定番的なものが入っていた。
小学生のお弁当かと言いたくなるようなタコさんウインナーまで入ってたがあの人が作っている姿を想像する。
すると、むしろこういうのを作っている姿しか想像できなくてひとりで笑ってしまった。
少女のようなあの人は、俺より確実に20歳ぐらいは年上なのだろうけれど年下のように思ってしまう。


「…ん、うまい」

口の中に優しい塩味が広がる。
砂糖で卵焼きを作るより塩の方が好きなので良かった。

一口一口噛み締めながら食べる。
予想以上に早く食べ終わって、体は満腹を知らせるけれどもっと食べていたい気がする。


本当は午前サボりすぎたから午後はしっかりと授業に出ようと思ったのだがこの幸福感のまま寝てしまいたい。
そんな思想が脳内を埋め尽くし、結局今日は部活もあるから休もうということになった。



           ********



「おー、時雨…って寝癖ひでー」

指差しながら笑う先輩を少し睨みながら髪の毛を抑える。
それでもちょっと手を離すとすぐにピョンっと跳ねてしまう。
その髪の毛を見ながらさらに笑う先輩。うざい。

「こんにちわー…って、あら凄い寝癖」

「こんにちわ、藤堂先輩」

「ふふ、こっちおいで、ワックス付けてあげる」

「ありがとうございます」


なんとか寝癖は治まった。
これでもうからかわれまいと先輩を一睨みしてからロッカーへと行く。
後ろで笑ってる藤堂先輩に軽く頭を下げると手を振ってくれた。相変わらず可愛い。

後ろから先輩が追ってきたけどもう無視しよう、そうしよう。



           ********


部活が終わる。
練習中はいつものおふざけ感は3分の一ぐらいには減っている。
それでもたまに頭撫でてきたり、ちょっかい出されてボールを投げつけたけど華麗にキャッチされた。

「お疲れ様でした」

あの霧ヶ峰先輩は、いつかのミーティング以来何も話さない。
こうやってお疲れ様ぐらいは言うけれど個人的にというか雑談というかそういう類のものをしたことない。
他の一緒に入部した奴等とか諸々の先輩とかとは話すんだけど。

なんか目をつけられてそうだからとちょっとだけ警戒していたので拍子抜けだ。

「お疲れ」

目も合わさずにタオルで汗を拭いながらロッカーへと向かう霧ヶ峰先輩。
一年は後片付けやらなんやらあるから他の奴に何すればいいかと反対方向に足を向けた。




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