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それから約1時間ほど話し込んでしまいいつの間にかお昼の時間だった。
あまり遅くなると五十嵐さんに迷惑がかかるからそろそろ行きたいところだ。
「…天宮、なんかお前の解釈の仕方っていうかなんていうか、宇月蒼に似てないか?」
そんな時にふっとかけられた声。
やばい、ここの高校バイトとかなんかとにかくいろいろダメだったんだ。
金銭をもらうようなことはルール違反だから怒られる。
なんとか誤魔化さないとと気持ちを落ち着ける。
「そうですかね?確かに彼の作品は好きなのでよく読みますけど」
「あれ?宇月って男だったのか?」
あ、やばい、死亡フラグ。
まだ学生だからってことで全部秘密にしといてもらったんだ。
サイン会とかやってる人たちいるけどそういう関係で俺は一度もやったことがない。
ファンレターではお会いしてみたいとか書かれていることもあるけれどすいません、きっと貴方より10歳ほど年下です。
とかいつも思って、終わってた。
「え、えぇ。この前サイトでそのような事が書かれてました…よ」
やば、家帰ったら1週間前の記事に一人称「俺」とか書き直して男アピールしとこ。
基本バレないように「私」で書いてたんだよな…私なら男でも女でも使うものだし。
「へぇ。さっきこんな文章入れたらもっとわかりやすくなるのに…って言ってたのも似てたきがするけど」
「…そうですか」
「そうですよ?」
なんかいい人だけど性格悪いなこの先生。
先輩よりはマシな人だけどなんかヤダ。
「何が言いたいんですか?」
「いやぁ?年齢不詳の謎の作家…正体が気になるじゃねぇか」
「そうですね」
「だからー、お前だったらーとかちょっと考えただけだよ」
「…ったく、一介の高校生が著名な作家って考えすぎですよ」
「だよなー。てかお前も本気になってんじゃねぇよ」
「なってませんよ」
「まぁいい、そろそろ昼飯の時間だろ」
この話は終わりだというように手を振る。
いや、あっち行けというような仕草だ。別に苛立ったりはしない。もっとウザイ人を知ってるから。
「ふぅ…じゃあ、そろそろ行きますわ」
「おぉ、じゃあな」
そのまま立ち上がってドアまで行くと一応失礼しましたと声をかけといた。
というかあの部屋のソファーめちゃくちゃ座り心地が良かった。
あぁ、甘いもの買ってまたすぐにでも行こうかな。
でもまた変な詮索されたら面倒だし。
あれこれ考えながら購買へと歩いていく。
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「こんにちは」
「こんにちは」
柔らかく微笑む五十嵐さんに心が落ち着かされる。
「今日はね、お弁当作ってきちゃった」
少女のように笑う五十嵐さん。
優しさがありすぎて、溢れて零れ落ちてしまいそうだ。
「え!いいんですか…?俺は凄い有難いですけど」
「勿論よ。育ち盛りなのにあんなものばかり食べてたら不摂生だわ」
「…ありがとうございます」
そっと手渡されたお弁当箱。
愛が詰まっているような、そんな気がする。
実際にものすごい愛が詰まっているんだろうけれども。
「いいのよ、私がしたかったんだし。主人と息子に作ってるもの」
「そうなんですか」
「えぇ。それに、夫婦仲は悪くないと思うし、親子仲も悪くはないけど…やっぱり家に一人ってのは寂しいんだもの」
「だから購買で?」
「えぇ。お弁当が足りない時とか購買に買いに来るの。私が居ると友達の前だからか素っ気ないんだけど、お疲れって声かけてくれるの」
「優しい息子さんですね」
「ふふっ、私の自慢の息子よ」
「五十嵐さんの息子さんなら凄く優しくていい人ですよね」
「でも、主人に似てちょっと意地悪なのよ?」
今、家族のことを考えているからかさっきよりも凄く優しい笑みをしている。
どれだけ優しいんだろう、この人は。
あぁ、この人みたいな母親が欲しかったな。(自分の母親への嫌味)
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