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「あぁ、美味かった…」
「あのモンブランは最高でした」
「お前もそう思うか!?」
「もちろんですよ!」
さてさて、こんなふうに会話しているのは俺と先生。
ちなみに今は思いっきり授業の真っ只中だ。
「いやぁ、お前とは甘味ではすごい意見が合うな」
「そうですね」
俺自身、某馬鹿な先輩のせいで日々鬱憤の貯まる毎日を送っていたから糖分摂取で凄く癒された。
先生も先生でやはり日々丸付けやらなんやらプリントも作ったりで大変らしい。
だから与えられた個室はもう完全に私物やらを持ち込んで授業がないときはひとりスイーツを食っているらしい。
「あ、そういえば先生の友人さんて誰っすか?」
「日向湊」(ひゅうがみなと)
「…!!それめちゃくちゃ有名な人じゃないですか…」
サラっと言われたが凄い有名な人だ。
そんな人が昔の友人だとか羨ましすぎる、変わってくれもしくはクラスにいないだろうか。
「湊もすげぇよな、日本の支店長だぜ?」
「っ!!今度、本当についていきますからね!?」
「おう、甘党仲間が増えるのは嬉しいからな」
そう言って笑う先生。
やっぱりこの人めちゃくちゃいい人だ。
てか、やっぱり男子で甘いもの好きって少ない。
まぁ好きだけど隠してるって人とかも多いけれどさ。
だから趣味というか好きなものが一緒な人が少ないから甘党仲間は確保しておきたいらしい。
それから数十分雑談していた。
「また今度来いよ、てか俺の授業予定の紙渡すから暇なときサボって来い」
わお、普通にサボれとか教師が言ったよ。
でもそういう緩いところが多くの生徒から人気な理由の一つらしい。
「わかりました。お土産もって行きますよ」
と言って立ち上がって―――
「先生、今日の授業の質問です」
「あ?…あぁ、お前何か用があってきたんだよな」
今更だけど用事を思い出して座りなおす。
これが本当の目的だけどほかのことで盛り上がりすぎた。
「はい、今日の物語の内容で…」
「あー…これか」
と、机の上をあさって教科書を開く。
ちょうど籠の中のカナリアが挿絵に描かれているページだ。
「この物語なぁ、終わりも微妙だからな」
「えぇ。で、物語では鴉は幸せ、カナリアは不幸せで終わったじゃないですか」
「そうだな。一般的にはそう言われている」
一般的のところで声を強くするので顔を上げた。
先生も、やはり違うと思っているのだろうか?
「鴉は、幸せじゃないですよ。不幸でもないけれど。カナリアも不幸ではないですよ。幸せじゃないけど」
「そうだな。きっと作者はそれが言いたかったに違いない」
「じゃあ、なんで授業で言わなかったんですか?」
「そうは言ってもなぁ、教科書に書かれてることをやんなきゃいけないのが教師だし…な?」
そう言って笑う先生。
本当は先生だって自由に解釈して見たいと思うのだろう。
文学に関わっているものならば自然と出てくる欲求を隠さなくてはいけないだなんて可哀想だ。
「…カナリアは鳴くことができれば少しは幸せですよ。飛べないのは不幸ですけど」
「そうだな」
「さえずりは、とても美しいものと書かれています。美しい鳴き声を出すことができるのに、絶望には染まっていないのに」
「あぁ、一般的な解釈では確かにそこの表現を説明することができない」
ぼそぼそと呟いていると先生も同調してくる。
やっぱり先生とは気が合うようだ。
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