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コンコンとノックをすれば中から気の抜けたような声。
それを合図にドアノブを回せば相変わらず棒付きキャンディを食べている人がいる。

「どうも」

「帰れ」

「酷いです」

挨拶をすれば挨拶が返ってこなかった。
そればかりか帰れの悲しいお返事が返ってきた。

「生徒のサボり場じゃねぇんだよ。てか俺今から大事な用があるから」

「・・・そうなんですか?」

しっしっとまるで蚊でも追い払うような仕草に眉を寄せたがどうやら用があるらしい。
これは本格的に無駄足となったようだ。不貞寝しよう、そうしよう。

「おー、すっげー大事な用事」

棒読みだが顔は結構深刻そうだ。
仕方ないと思ってとりあえず何時空いているかと聞く。

「じゃあ、何時なら暇なんですか?」

「あー・・・30分後」

「随分と速くで済む用事ですね」

「おー」

ため息をついて鼻から息をすると甘い匂いがした。
甘党の嗅覚を舐めてもらっちゃ困る。

「・・・先生。そこの冷蔵庫の中にケーキ入ってませんか?」

「お前っ、なんでわかった!?」

声に出すと急に慌てる先生。
これは、誰がどう考えてもあれだろう。

「大事な用事って、糖分摂取ってことですか?」

「そうだけどなんだ」

「俺にもください」

「やだ」

「今度キリアの新作持ってきます」

「よし来た、天宮お前最高」

交渉成立。
ちなみにキリアってのは近くにあるデパ地下にある洋菓子店だ。
駅の本屋に立ち寄って、その後見付けてからもうあの店のケーキの大ファンだ。
もっと長い名前だったけれど何かを略してキリアだった。
英語の頭文字をとったらしい。

「おい、お前そこの冷蔵庫からとってこい」

「了解です」

室内に入ってドアを後ろ手に閉めると直様指示が飛んでくる。
ちなみに先生は棚からフォークと皿を取り出している。

「あ、これ・・・!!」

中から出てきた箱に目を輝かせる。
最近できた海外に本店を置く有名店を示すロゴが入っている。

「おう!そこに昔のダチがパティシエでいてよー、特別に譲ってもらってんだ。まぁ金は払うけど」

先生のお友達に是非とも会いたい。
てか友達がパティシエだとか羨ましすぎる。

「いいですね、それ」

「休日は試作品の味見係してるんだぜ?」

ドヤ顔されたけど今はそんなこと気にならない。

「今度、今度俺も連れてってください!!」

「おぅ、いいぜ」

「先生最高、担任が先生で本当に良かった」

快い返事に思わず目を輝かせて笑う。
すると先生も笑った。


当初の目的など完全に忘れていたなんて気にしない。




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