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髪の毛から手を離す。
自分で決めての行動なのだけれども、寂しく思ってしまう。

半開きの両目はずっと先輩の瞳に釘付け。
綺麗だな、あぁ綺麗だな。
なんだか小学生の作文並みの言葉だけれども、まだ靄がかかっている頭。何も考えられない。
いや、まだ寝惚けているふりをして先輩のことを眺めていたいだけなんだけど。秘密。

「時雨、どーしたの?」

「何でもないです、よ」

少し首を傾げながら返事をする。
すると先輩は小さく笑う。

「甘えん坊だな、今日は」

「そんなこと無いですよ・・・」

呆れながら言うといや、絶対そうだと切り返されて胸に抱き込まれる。
目の前にある硬い胸板に顔面をいきなり押さえ込まれたのでびっくりした。

寝る前にあくびの涙を擦りつけたのもここら辺だっただろうか。
真っ暗な視界の中ぼんやりと考え込む。

他人の体温はそれはそれは暖かいもので。
人肌はやはり心地よいなと少々見当違いのことを考えて目を瞑る。
目の前の大きな温もりに安心というのだろうか、よくわからないけれど心がホワホワする。
グリグリと頭を擦りつけると後ろから大きな手が押さえ込みにかかった。

「擽ったいんだけどー?甘えん坊な時雨ちゃん?」

「だから、甘えん坊じゃないって・・・」

「いやいや、こんなにデレデレしちゃってー。あ、今流行りのツンデレー?」

「なんですかそれ、あと馬鹿なことばっか言わないでください」

「あー、ツンに戻っちゃったー」

ツンデレなんて知ってると言えば知ってるけれど明らかに俺に当てはめる言葉じゃない。
先輩の感性が人とは少し違うのはもう出会った時から散々教えられたから気にしないけれども。

「先輩・・・また眠くなった・・・」

「家までおぶってくか?」

「いいんですか?」

「いーよ。可愛い可愛いお姫様のためだから」

「可愛いって・・・女の子に言ってあげてください」

そう溜息をつきながら押さえ込まれながらも視線を上にあげる。
すると意地悪そうな目をしてる先輩と視線がかち合う。

「せん、ぱい・・・」

そっと呼びかけるとより一層深まる笑。
嫌な笑ではないけれど、なんだか怖い。

ちょっと身構えながら先輩の行動を待っていたら。

「それでも、俺が一番可愛いって思うのは時雨だよ」

そんな馬鹿みたいに甘い台詞を口から吐き出した先輩の目は相変わらず意地悪で。
明らかに俺の反応を少し期待しながら待っている。

そんなことわかってはいたのだけれどさ。
意地悪そうな目だけど、相変わらずなびく髪にこの整った顔立ちで俺を惑わせる。
でも、何よりも俺を惑わせるのは毒みたいに体の奥まで浸透する先輩の言葉とその目。

甘い台詞と俺を真っ直ぐ見る目。
からかっているのは丸分かりすぎるんだけど。

そんな先輩の企みにまんまと乗ってしまう俺は、きっと大馬鹿者だ。





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