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結局お昼寝といいつつ一睡も出来ないまま時間が過ぎる。
目の前の大きな胸板を数回叩いてみたけれど起きてくれるはずもなく。
いい加減暑苦しくなりもぞもぞと動いてみるけれどすればする程腕の拘束が苦しくなった。

一息ついて上を向けばいかにも女ウケの良さそうな顔。
そのままぼーっと眺めていたら睫毛が長いことに気づいた。
そこらへんの女の子よりもきっと長いのではないだろうかと思う。
今度藤堂先輩と比べてみたらやはり失礼に当たるのだろうか?気になるのだが。

「せんぱーい・・・」

呼びかけてみても返事が来るはずもなく。
まぁ、元から返事が来ないことはわかりきっているのでいいが俺だって寝たいんだ。

抱き枕がないと寝れないのならば俺なんかじゃなくて朝周りを取り囲んでいた女の子に頼めばいい。
いや、まずそれならば学校で寝ようと思うなといいたい。

「俺も寝たいです」

願望を率直に口に出してみる。
それは空気に溶けてしまい先輩に言ったのに先輩の耳に入る前に消えていく。

「聞いてくださいよ」

適当に言葉を紡ぎ出す。
そうでもしないとこの暇な時間をやり過ごす方法がわからない。





暫くそうしていたら俺にもようやく眠気というか睡魔というかが襲ってきた。
もう時刻は5時限目を終える頃なのだろうが、ただ眠いという願望を持つ俺には関係ない。

相変わらず屋上は春の冷たい風と微妙な太陽の熱で包まれている。
お昼の時間なので暖かいといえばそうなのだが如何せん風が冷たい。
そんな風の寒さを打ち消してくれる先輩。
打ち消されすぎてむしろ暑くなっているのには気づいてくれない。

「・・・、っぁ」

小さなあくびが出る。
あくびをすると少し涙が出るのだが両腕を拘束されている中雫を拭く術を持ち合わせてはいない。
そのためにしょうがなく目の前の白いシャツに目元を擦りつける。
少しの水気はすぐさま布に吸い込まれてシャツの色をほんの少し変色させた。

「・・・眠い・・・」

今の気持ちを言葉に出すと、言霊はなんちゃらかんちゃらという風に俺を眠りの世界へと誘ってくる。
勿論寝たいのは今の己の気持ちの全てなので躊躇なんてせずその誘いに手を伸ばした。





すっかり日も落ち、授業も1時間ほど前に終わり部活のある生徒以外はほとんどいない。
そんな薄暗い空に包まれ、目の前の温もりだけでは肌寒くなった。

「ん・・・ぅ・・・」

髪の毛を触る温もり。
それは眠りを誘うようで起きろと言われているようだ。

そしてその手の誘いのままに目をそっと開ける。

目の前にはオレンジ色の丸い夕日と、元々染めているのか色素の薄い髪色が更に光に当てられ色の薄い髪を風になびかせる先輩。
まるでドラマのワンシーンを眺めているような気分にさせられる目の前の光景。
寝起きでまだ頭が回らなく、目をこするとぼやけた視界が少しずつ鮮明に映し出されていく。

「おはよう」

「お、はよう・・・ございます」

少々つっかえながらも返事を返す。
さっきの光景は夕日が完全に沈んでしまったおかげでもう終わってしまった。
あんまりにも綺麗なのでもう一度見たかったのに。

ぼやけた頭。しっかりと考えることができない。
そのためか先輩の髪の毛にそろそろと手を伸ばしてみた。
きっと先輩も酔っ払い宜しく意識のしっかりとしていない者の軽い悪戯だと思うだろう。

そっと髪の毛に触れ、その柔らかさに頬を緩める。
まだ寝ていたい気分と、今この瞬間の異常さに対する危機感に心が揺れる。

幻想的で、蠱惑的な先輩に俺も知らない間に引き寄せられていたのだろうか?
口ではなんだかんだと言っているが魅力に気づいていることもまたひとつの事実。



あぁ、これも夢ならば良いのに。





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