12



何とか沢山の人が居る中を潜り抜け、靴箱まで辿り着いた。
しかし、校庭ではさらに多くの先輩方がスタンバイしているの。

外履きに履き替えて、さぁ、いざ家に帰ろうとしていると


「あ、この前の強い子だ」

俺に話しかけてるんじゃないと思って無視して帰ろうとすると腕を掴まれた。
何するんだコイツ。警察でも呼んでやろうか。

「無視すんなよー」

「…何の用ですか、先輩」

この見事に着崩した制服は確実に先輩であるのだろう。
それに手に部活の勧誘のポスターを持っている。

「俺のこと覚えてる?」

「知りません」

俺の記憶力のなさを舐めるな。
それに、さっきの俺を見た奴なら10人中10人がコイツが覚えているわけないだろうと言う筈。
医者は最悪、眉を寄せながら首を振るのだろう。


「えー、俺は運命感じたんだけどなぁ」

一体なんの話なんだろう。
どっかの占い師に占ってもらってたら何時の間にか変な風に洗脳でもされてて頭がおかしくなっているのかもしれない。
俺は優しい子だから口が裂けても「あんた頭大丈夫?」なんて言わないさ。
・・・・・・母さんの溜息が聞こえた気がした。

「で、誰ですか?」

「この前本屋で会ったじゃん。てか荷物拾ったよ、俺」

・・・・・確かに最近本屋に行った。
そこで俺は―――

「あ、何かゴミを片付けた後の…」

思い出した。
うん、荷物拾ってくれたよこの人。

顔を見るために首を上げるのが辛い。
この感覚も前と似てる。

「思い出してくれたー?」

「はい」

いろいろといい人だった。
まさか先輩だとは思わなかったけれどね。


「さて、俺の名前は五十嵐義之」

いがらし、よしゆき。
流石に先輩だ、名前を忘れると目付けられるかもしれないから頑張って覚えよう。
この人に限ってそんなことしないと思うけれど。

「俺は天宮時雨です」

彼も同じようにあまみやしぐれと繰り返し言う。


その後

「忘れたらごめんね。俺人の名前覚えるの苦手」

そう、何か眩しい笑顔をしながら言った。

俺もだから、お相子ですね。
なんて言って、俺も少し笑った。



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