5

俺の欲しい言葉はただひとつ。
たぶんだけど、俺の初恋は敗れる。
少しの期待に縋りながらも、怖くて怖くて耳を塞ぎたい。

早く返事が欲しい。

忘れられるわけなどないし、ここで途切れる縁を悔やむことはあるけれど。
それでも告白したこと自体は否定などしたくない。
だからこれから告げられる言葉が、どんなものであろうと永遠に覚えているだろう。


「時雨」

先輩の視線を感じる。
先程先輩がゆっくりと近づいてきたので数センチしか離れてないだろう。
それが辛くて、どうしようもない感情が溢れ出る。

最近はもう俯くのが癖になったみたいで、すぐに視線から逃げてしまう。
逃げたくなんかない、なんて言ってもやっぱり怖くて堪らないんだ。

「時雨、好きだよ」

「ど、ゆう意味・・・で?」

この前の帰り道でそんなものは聞いた。
笑いながら、余裕で、からかうように。
俺が望んでるのはそれじゃない。


「もちろん、時雨が望んでる方」

顔を上げる。
目が合う。

そして、
それから

「好きだよ」

「っ、ふ、ぅ」

視界が歪む。
欲しくて欲しくて堪らなかった。

作家としての自分、後輩としての自分。
どちらも好きと言ってくれる。
それだけで俺は十分幸せ者だとゆうのに、俺はそれ以上を望んだ。
それだけじゃ満足できなかったから。

好きと言ったら好きと返ってくる。
同じ意味の好きで。

なんて奇跡なんだろうか。
なんて愛おしいのだろうか。

思わずそっと手を伸ばせば、俺の手を握ってくれる。
温もりに、涙でいっぱいの瞳からついに雫がこぼれてしまったのが自分でもわかる。
やはり俺にはこの奇跡は、心のキャパをあっさりとオーバーしたらしくて止めどなく流れてしまう。
でも、幸せだからとめようなどとは思わない。

「時雨」

自分の名前を呼ばれる。
よく呼ばれてるくせに、今のは何かが違う。
なんで、こんなに、それだけで、嬉しくて堪らないの?

先輩が笑う。
涙の所為で視界は揺れっぱなしだけど、その綺麗な顔だけはよくわかる。

そして、その顔が近づいてきたのも。

「せん、ぱっ・・・」

驚いて声をあげるけど、時すでに遅し。
俺の唇と先輩のが触れ合っている。

どうやら俺の涙腺は本格的に壊れてしまったらしく、大洪水状態だ。
もう、止め方などわかりやしない。

そしてそっと離れる唇。
悪戯っぽく笑う先輩。

抱きしめられて、その背に手を回す。
幸せをかみしめるように、ゆっくりと目を閉じた。


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