「鳴狐!朝ですよ!起きるのです!」


もそもそと布団から出て大きなあくびをする鳴狐。まだ眠たそうに目をこすっております。鳴狐の寝起きの悪さには困ったものですなあ。そういえば自己紹介が遅れました。私は鳴狐のお付きの狐でございます。本日は皆様に鳴狐のお話をさせていただきます。しばしお付き合いを。


「さあさあ顔を洗って着替えましょう。今日は馬当番ですぞ!」

「…うん」


鳴狐はのんびりと服を着替え始める。ああ…それでは裏表が逆ですぞ…!私めはお手伝い出来ないのでこうして見守っております。何とか服を着替え終わり、私は鳴狐の肩に乗る。


「鳴狐、どこへ行くのですか?」

「…主のとこ」


ほうほうなるほど。鳴狐は主殿のところへ向かっているようです。毎朝の日課ですな。


「主」

「おはようございます、主殿」

「おお、鳴狐と狐か。どうした」


主殿は何やら机に向かって何かを書いておられるようでしたが、鳴狐の声に反応して手を止めてくださいました。


「…来てる?」

「いや、今日は来てないよ」

「……ありがとう」


これは何の会話かと申しますと、鳴狐が主殿に咲子殿は近くに来ていらっしゃるかどうかお尋ねしたのであります。主殿は、この本丸の近くの公園の様子ならばすぐにわかってしまうのです。さすがです!


「今日は馬当番、頼んだぞ」

「うん」

「行って参ります主殿!」


そして私達は馬小屋へと向かいます。出陣していない馬の手入れや馬小屋の掃除などを行います。私めはお手伝いすることは出来ませんが、鳴狐が頑張ってくれるのです。


「鳴狐、お馬さんが鳴いておりますぞ」

「お腹空いてるのかな」

「さあさあ、主殿のために働きましょう!」


そして私達は主殿に頼まれた仕事を一生懸命こなしました。主に鳴狐と一緒に当番だった獅子王殿が。私は他の獣との相性がよろしくないようですので…。


「ふー、終わったな」

「…疲れた」

「鳴狐は頑張りました!主殿の元へ報告に参りましょう!」

「お、報告行ってくれんのか。よろしくな」

「かしこまりました、獅子王殿!」


獅子王殿は伸びをしながら自室の方へと歩いて行ってしまわれました。私達も主殿のお部屋へと向かいます。ですが、その途中で鳴狐が足を止めてしまいました。


「鳴狐?どうかしましたか」

「桜…」


鳴狐の視線を追うと、本丸の中庭に咲いている桜が目に入りました。風に舞う花びらがとても綺麗でした。そして私と鳴狐は、あの方の言葉が頭をよぎりました。


「そう、なんですね。満開の桜…見てみたいなあ」


鳴狐は中庭へ降りて、花びらを1枚拾いました。


「咲子殿に見せてあげたいものですなあ」

「…うん」


そう頷いた鳴狐の横顔は、とても幸せそうに微笑んでおりました。
























(たくさんたくさん集めたら)
(君の望んだ景色になれるかな)


























あとがき

狐くん視点で短いお話でした。もう桜咲いていますね。

少しずつ小話みたいな短いお話も挟めたら良いなあと思っております。読んでいただきありがとうございました。

2015年03月29日 羽月