※捏造、というか独特な設定を加えています。なんでも許せる方のみお進みください。


























鳴狐さんのジャージに着替えた私は、これからのことについて考える。鳴狐さんも目が覚めたし、私がここにいる理由はなくなってしまった。かと言って、勝手にここから出て行くわけにはいかない。一晩お世話になった分、何かお返しをしないと。


「…でも、誰に聞けば良いんだろう」


ここに来てから出会った三日月さん、獅子王さん、主さん、そして鳴狐さん。主さんに聞くのが一番良いんだろうけど、これだけ大きなお屋敷をまとめる主さんはきっと忙しいだろう。それに他の3人もどこにいるのかわからない。まずは部屋から出てみるのが良いかな。そう思った私は立ち上がって、部屋を出る。


「わー…良いお天気」


部屋から出て縁側に立つと、すごく暖かいお日様の光が入ってくる。天気が良くて気持ちが良い。少し外を眺めていると、足音が聞こえる。誰か来たのかなと思ってそちらを向くと、ぱんっと破裂音がした。


「えっ…!」

「どうだ、驚いたか!…ん?」


そこには真っ白な髪、真っ白な肌、真っ白な服を着た男の人が立っていた。何だか眩しい。


「君は…誰だ?」

「あ、えっと…昨日からお世話になってる咲子です」

「ほう…俺は鶴丸国永だ。てっきり鳴狐だと思ったが、違ったな」


どうやら鶴丸国永さんは鳴狐さんのジャージを着ている私を見て、鳴狐さんと勘違いしたらしい。髪型も体型も身長も違うのに…。不思議な人だなあと思っていると、彼の後ろから歩いて来る人に目がいく。


「鶴丸、また迷惑かけてるんじゃないだろうね」

「おやおや、主がこんなところにいるとは珍しい」


私が今、一番会いたいと思っていた主さんだった。やはりこの人も、主と呼んでいる。主さんは私に、付いてきて欲しいと言うと踵を返して歩いて行ってしまう。私は鶴丸国永さんに軽くお辞儀をして、主さんの後を追う。

主さんに通されたのは、恐らく昨日とは違う部屋。人の気配が感じられない、静かな場所にある部屋。私は主さんと向かい合って座る。


「鳴狐と会えたそうだね」

「はい。お気遣いいただき、ありがとうございました」


主さんはにこやかに笑ってくれる。でもきっと雑談をするために私を呼んだわけではないことを、わかっている。


「雨宮さんには、話しておかなければいけないことがあるんだ」

「はい」

「此処にいる間、鳴狐以外にも何人か会ったと思うけど…、どう感じたか教えてくれるかい?」

「えっと、皆さん親切にしてくださって…突然お邪魔したにも関わらず、快く接してくださったと思います」


主さんの質問の意図がわからなくて、正直に答える。部屋を案内してくれた獅子王さん、私のことを心配して様子を見に来てくれた三日月さん、初対面でも普通に接してくれた鶴丸さん、そして鳴狐さん。皆さんはとても親切だった。


「それはよかった。でもね、彼らは人間じゃないんだ」

「え……?」


主さんの言葉が、理解出来なかった。人間じゃない…?私と普通に会話して触れた人達が、人間ではないなんて。


「彼らは刀として過去を生きてきた付喪神なんだ。私の…審神者の力で彼らを人の形としてこの世に降ろしている」


言葉が出て来なかった。刀。付喪神。審神者。1つ1つの言葉は理解出来ても、それらが結びつかない。でも主さんの目は真剣で、ここで嘘を言っても何のメリットもないことは明らかだった。


「1つ、聞いてもいいですか」

「もちろん」

「どうして、私にその事実を教えてくれたのですか」


どうして付喪神という神様が集められているんですか。刀ということにこだわりはあるんですか。鳴狐さんは…どうしてあんな怪我をしていたんですか。聞きたいことはたくさんあったけれど、私の口から出たのはこの疑問だった。私に彼らが付喪神だという事実を教えなければならない理由、それが知りたかった。


「君は初めから鳴狐と供の狐の姿を確認していたね」

「…はい。初めて出会った時は、狐さんの言葉はわかりませんでした。でもそれ以降は言葉もわかりました」


「それが、問題なんだ」


主さんは私に言う。付喪神である彼らを、現代の世で確認出来る人間はまずいない、と。ここの本丸のように主さんの加護の中であれば話したり触れたりすることは出来るが、ここの本丸自体が隠されているのでそれも難しいそうだ。


「現世でも稀に見える人の例はある。例えば…幽霊を見たとか、ね。でも君は違った。何故か鳴狐達の姿を確認し、会話もした」

「その原因は…何か原因はあるんですか」

「…君は少し病弱な体質だろう?恐らく、だがその事が関係しているのかもしれない」


主さんは少し言いづらそうだったが、私にきちんと事実を教えてくれた。病弱、つまり病気でいつ死ぬかわからない人は、普通の人よりも神様に近いところにいる。だから付喪神である彼らが見えたのではないかと。


「他にも、小さい子は神や精霊が見えやすいんだ。その頃に干渉したことのある子は、成長してからも見えやすいという例はある」

「そう、だったんですね。私…何も知らなかったです」

「…怖いと思うかな?」

「いいえ、思いません。ただ…体のお陰で良いこともあるんだなあ、って思えました」


主さんは少し驚いた顔をする。意外、だったのかな。でも普段から人との交流をあまりしない私は、皆さんと出会えたことはすごく貴重な出来事だった。


「……そうか。そこで、提案があるんだ」

「何でしょうか」

「ここで、暮らしてみる気はないかな」

「ここで……?」

「君は本丸の秘密を、望んではいなかったとしても知ってしまった。そして、此処にいる間は私の力で多少、病弱な体質を改善出来る」

「秘密を守る代わりに…病気を治してくれる、ってことですよね」

「取り引きのようなことをして、申し訳ない。…でも少し考えてみて欲しい」


私は主さんのお部屋を出た。此処で暮らす。それは私の頭の中で考えられる範囲を大きく超えているような気がした。鳴狐さん達は、神様で。主さんも特別な力を持っている人で。そんな中に普通の人間でしかない私。 どう考えてもすぐには頷けなかった。かと言って長居するわけにもいかない。考えながら歩いていると、あっという間に自分の部屋の前に着く。こうして1日いただけの部屋を"自分の部屋"と思ってしまうくらい、違和感はなかった。そして、その部屋の前には。


「鳴狐さん…」

「待ってた」


鳴狐さんはそう言うと私の手を取り、ゆっくりと歩き始める。歩いて来た廊下を少し戻り、違う場所で曲がる。それから何度か曲がって辿り着いた場所。


「わあ…綺麗…」


そこはお屋敷に囲まれた中庭だった。中庭の中央には、満開の桜。綺麗な桃色の花びらが舞っている。


「もしかしてこの桜って、あの時に鳴狐さんが持って来てくれた花びらの…?」


鳴狐さんはこくりと頷いた。そうだったんだ。本に挟まっていた桜。それからたくさん集めて持って来てくれた花びら。それはここにあった桜だったんだ。


「私が言ったこと…覚えててくれたんですか?」


満開の桜が見たいと言った私に、一緒に見ようと言ってくれた鳴狐さん。それが今、こうして叶った。私と鳴狐さんは中庭を囲っている縁側に座る。足元も桜がたくさん落ちていて、桃色で埋め尽くされていた。


「…咲子と見たかったから」


鳴狐さんの、微笑む表情。最初はあまりわからなかったけど、鳴狐さんは表情がよく変わる。


「嬉しいです」


だから私も精一杯自分の気持ちを表情に出す。というよりは、鳴狐さんといると笑うことが多くなったような気がする。


「…あの、鳴狐さん」


鳴狐さんはこちらを向いて首をかしげる。もう私だけでは決められないから。


「もし私が此処に…此処に住むことになったら、どうしますか」


鳴狐さんは表情を変えない。もしかしたら驚いてくれるかも、なんて思ってたけどそうではなかったみたい。


「…ごめん。さっきの話、聞いてた」

「それって…私と、主さんの…?」


鳴狐さんは頷いた。そっか、聞かれてたんだ。鳴狐さんは少し沈黙を続けた後、また口を開いた。


「咲子が一番、望むことは?」

「私が…望むこと…」


今の生活。高校に行ったり、病院に行ったり。2つとも頻繁に行くわけではないし、親しい人もあまりいない。縋り付くほど、このままでいたいと願うほど、この生活に望むものはなかった。それなら…?それなら、此処で、鳴狐さんと、皆さんと、何かお役に立てることを探して居場所を見つけられたら。それは。


「皆さんと、鳴狐さんと暮らせたら…楽しいだろうなって、思います」

「…そう」


鳴狐さんは目を細めると、私の頭を優しく撫でる。そしてゆっくりと立ち上がり、桜の木へと近づいていく。


「咲子とこの桜を見られて、約束は叶った」


舞い散る花びらを拾い、手のひらに集めていく鳴狐さん。私はその姿を見つめる。


「…だから、新しい約束が欲しい」

「約束…」

「咲子が笑って暮らせる、約束」


鳴狐さんは花びらを私の手のひらに乗せる。そして私の腕を引いて、桜の木の下に立つ。向かい合って立つ鳴狐さんは、私よりも背が高い。


「その約束を、一緒に決めよう」


鳴狐さんは、微笑む。手のひらに乗せた花びらが空に舞い上がっていく。鳴狐さんが願う約束、それは私のためのもの。ずっと、探していたのかもしれない。私のことを考えてくれる人、私と一緒にいてくれる人。私はどうしようもなく、誰かに頼りたかった。だから、鳴狐さんの手を取る。


「まずは、最初の約束です」


花びらを持っている手を、そっと閉じて胸に当てる。もう片方の手は、鳴狐さんの手を取り、小指を絡ませる。


「ずっと、一緒にいてください」












(血で汚れた僕らに)
(君の見ている世界を見せて)

























あとがき

お待たせ致しました。ようやく夢主ちゃんが本丸で暮らせることになりました。鶴丸が驚かせるために使ったのはクラッカーという、どうでもいい設定があります。誰かと夢主ちゃんを絡ませたかったのですが、誰にするか3日間くらい悩んで鶴丸にしました。その割にはあんまり会話してないですね。

途中で捏造して色々話をさせましたが、どういう感想を持たれるのか不安です。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

2015年10月10日 羽月
2015年10月11日 加筆