人間は、いつかは死んでしまう。その原因は様々だけど、最期に待っているのは皆平等な死。どうせ死ぬのならその時まで、綺麗に生きていたい。
私はいつも1人だった。 家族も兄弟も、友達もいなくて。一緒に話したり、お弁当を食べたり…そういう子はいたけど、本当の気持ちを言い合える友達はいなかった。
「いつか、見つかるかなあ」
今日も帰り道の公園を通りながらそんなことを考える。すると…視界の隅に、いつもと違う光景が飛び込んで来た。
「狐…?」
公園のベンチの下で狐が倒れていた。慌てて駆け寄る。様子を見てみる限りは、怪我はしてないようだ。よかった…。
「君は…どこから来たの?」
この狐はとても綺麗で、とても野生とは思えなかった。でも首輪もしてないし、飼い主さんを見つけるのは大変そうだった。
「あ…!」
狐をじっと見つめていたら、その目が開いた。ぱちぱちと瞬きをするその目はとても可愛らしくて。口をぱくぱくとさせている。
「お家に帰れる?」
「コン」
狐はそう鳴いて、こくりと頷いた。なんだか会話が出来ているような気持ちになる。狐って賢いんだなあ。
「気をつけてね」
狐は起き上がってとことこと歩いて行ってしまった。でも、公園を出る前に一度だけこちらを振り向いて、ぺこりとお辞儀をした。なんだか不思議な狐だった。
「げほっ、こほっ…」
いけない、いけない。ちょっと外にいすぎたかな。私は体があまり強くないから、寒い季節には長く外に出られない。そろそろ家に帰ろう。
次の日も、同じように公園を通った。ベンチの下を覗いてみるけど、あの狐さんの姿はなくて。やっぱりいないか…なんて思ってると、がさがさと音がした。音のする方を見てみると、ぴょんっと茂みの中からあの狐さんが飛び出して来た。
「わっ…!」
私の方にめがけて飛んできたので、驚いて尻餅をついてしまう。でも狐さんを見ると、少し汚れているのがわかった。
「ちょっと待っててね」
私はポケットからハンカチを取り出して、公園の水道で濡らす。それを持って狐さんのとこに戻り、汚れているところを拭いてあげた。
「こんなに綺麗な毛だから、汚したらもったいないよ」
大体汚れが落ちたと思ったら、狐さんはくるりとこちらを向いた。そして、ぺこりとお辞儀をして、なんと話し始めたのだ。
「私の体を拭いて綺麗にしてくださりありがとうございました」
「え…!」
思わず周りを見渡す。でも私の周りにはもちろん人なんていない。
「驚かれるのも無理はありません。私は所詮狐なのですから」
「あなた…喋れるの?」
「はい!主殿のお力のお陰でこうして話すことが出来るのでございます!」
「主殿、ってことは飼い主さんがいるの?」
「私の飼い主は鳴狐でございます!主殿は鳴狐の飼い主といったところでしょうか」
なるほど。この狐くんは中々難しい境遇にいるらしい。そしてその表情はなんだか嬉しそうに見える。主殿も、鳴狐という人のことも大好きなんだろう。
「その飼い主さんは?早く戻らないと、心配してると思うよ」
「そうでございました!私は鳴狐を探しているのでありました」
そう言って狐さんは少し慌てた。少し、可愛い。そして狐さんはこちらにぴん、と向き合ってお辞儀をした。
「それでは私は失礼致します。このご恩は忘れませぬ」
そして狐さんはとことこと去って行ってしまった。これが、私の少し不思議な日々の始まり。
何かが終わる冬の午後(狐さん、狐さん) (次はどんな出会いが待っているの) あとがき
鳴狐くんの長編を始めました。どう展開するのか、完結するのか、何もかも未定です。温かい目でお付き合いいただけると幸いです。読んでいただきありがとうございました。
2015年03月14日 羽月
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