「狐さん、鳴狐さんいますか?」

「はい!ここにおります」


今日もこうして声をかける。するとお2人は何処からか現れて、私の隣のベンチに座ってくれた。


「今日は、この間の写真を持って来ました。遅くなっちゃってごめんなさい」

「おお!これはすごいですなあ、いつでも咲子殿のお顔を拝見出来…むぐ!」


鳴狐さんが狐さんの口を塞いだ。前にも見たことがあるような…。


「ありがとう、咲子」

「とんでもないです。私も一緒に写真が撮れて嬉しかったです」


鳴狐さんと狐さんの写真は中々よく撮れていて。少し驚いたような表情の狐さんと鳴狐さん。どこがよく撮れたんだ!って言われちゃいそうだけど、それぞれの気持ちが表情に現れてるから。


「そういえば鳴狐さん、農業をされてるんですよね。何を作ってるんですか?」

「農業…」

「鳴狐!作ってる作物を答えれば良いのですよ」


鳴狐さんは少し考え込んでしまったようだ。あれ、農業やってる方じゃないのかな。たしかこの間畑を耕したって言ってたような気がしたんだけど…。


「作物…。お揚げの、元の元を作ってる」

「お揚げの元の元…大豆、ですか?」

「そう、大豆」

「へえ、すごいですね。国産の大豆って珍しいって聞きました」


結構本格的な農業をやっているお家なのかもしれない。確かにこの辺りは畑も多いし、納得。もしかしたら近くの畑でお仕事してる鳴狐さんを見られたりするのかな。


「お仕事、大変ですか?」

「…うん。でも、主のためだから」

「鳴狐は主殿にとっても感謝してるのですよう」

「主さんに恩返しするために働く鳴狐さんと狐さん…素敵な関係ですね」


なんだか羨ましくなってしまう。信頼出来る人のために、毎日を使えて。鳴狐さんと狐さんの表情が生き生きしていて。それに比べて私は…なんて、考えてしまう。すると頭の上にぽん、と優しい感触が。


「…そんな顔、しないで」

「鳴狐さん…えと、私…」


私の頭の上には鳴狐さんの手が乗っていた。優しく頭を撫でられると、心地良いのと同時に少し恥ずかしい。


「あの…手…」

「…嫌?」

「い、嫌なわけじゃないです…!」

「じゃあ、このままがいい」


そう言って目を細める鳴狐さん。いつもより、自分の鼓動が早い気がする。どうしたんだろう、私。何だか恥ずかしくなって俯く。顔が赤いような気がする。風邪でも引いたのかなあ。


「鳴狐!鳴狐も咲子殿にお渡しする物があったでしょう」


私が何も言えないでいると、狐さんがそう言った。渡す物…?


「…うん。咲子」

「え、あ…はい!」


鳴狐さんの手が頭から離れた。そして鳴狐さんは私の顔を覗き込むようにしていた。わわ、近い。


「少し、目を閉じてて」

「…わかりました」


言われた通りに目を閉じる。すると何やらかたかたと音が聞こえる。何だろう…何か忘れ物してたかなあ。


「…目を開けて」

「はい」


目を開けると、鳴狐さんが立っていて。狐さんはその肩に乗っているのは変わらない。何だろう、そう思っていると鳴狐さんは両手を上にあげた。それと同時に降り注ぐ、桃色の花びら。


「わあ…綺麗…!」


鳴狐さんが両手を上げるたびに舞う花びら。まるで満開の桜の中にいるような気持ちになる。


「すごい…すごいですね、鳴狐さん!」

「咲子に、見せたくて」

「え…もしかして、この間の…」


鳴狐さんはこくりと頷いた。私が言った言葉を覚えていてくれたらしい。出会ったばかりの私のために、こんなに桜を集めて来てくれるなんて。言い表せない気持ちがどんどん溢れてくる。


「鳴狐さん、狐さん」


足元が桃色で、私や鳴狐さんの髪や肩にはたくさんの花びらが残っている。こんなに綺麗で、温かい場所なんて…きっとここだけだろうなあ、なんて。私は鳴狐さんの両手を取った。


「本当に、ありがとうございます。桜が見られて…幸せです」


上手く笑えていたかな、きちんと伝わったかな。鳴狐さんは少し驚いてたけど、狐さんはとっても素敵な笑顔で。


「喜んでもらえてよかったですなあ、鳴狐」

「…もっと、ある」


鳴狐さんは私の手を引いて歩き出す。ベンチの後ろには色んな箱とか籠が置いてあった。どの入れ物にも溢れそうなくらい桜の花びらが入っていた。


「わあ!すごい!」


たくさんの桜。きっと集めるのも大変だっただろう。こんなに集めてくれるなんて、鳴狐さんと狐さんはとっても優しいんだなあ。


「咲子」

「何でしょう」


鳴狐さんの手には、まだ散ってない桜がお花の形で残っていた。そして鳴狐さんの手が私の髪へと伸びてくる。優しく耳に髪をかけられて、そこへ桜をつけてくれる。


「咲子は桜が似合う」


そう言って微笑む、鳴狐さん。私より少し背の高い鳴狐さんの後ろには真っ青な空。すごく近くに鳴狐さんを感じて、中々見られない笑顔も見られて。私の心臓は持ちそうになかった。



















(もう少しで届きそう)
(いつか、この手で君を)
























あとがき

前回の更新から間があいてしまってすみません。桜の時期は終わってもう初夏ですね…。
ちょっと仲良くなってきた鳴狐くんと夢主ちゃん。いかがでしたでしょうか。

読んでいただき、ありがとうございました。

2015年05月06日 羽月