サボタージュ
おはようさん、と謙也に声をかけて席に着く。
そのまま校庭を見つめて昨日のことを思い出す。ああ、ため息しか出そうにないわ。
「白石?なんかあったん?」
「んー?別になんもないでー。」
適当に返事をすると閃いた!みたいな顔した謙也が懐いた犬みたいに近寄ってきた。
「白石、自分あれやろ、テニス部今日朝練無いから元気ないんやろ!」
頬杖をしていた手から顎を滑らせそうになった。
朝練無いからって、お前やあるまいし。
これにも適当に返事を返して一時間目をぼんやりと過ごした。
前に座る謙也のふわふわした金髪を眺めながらこいつみたいにアホやったらどんだけ楽なんやろって思った。
二時間目の準備をしてたら知らない女の子から屋上に呼び出しをかけられた。
タイミング悪……
屋上に行くと先に来とった女の子がもじもじしながら来てくれたんだ、とか言うとる。
悪いけど、って言おうとしたら遮るように一方的な想いを伝えられて困った。何、なんで半泣きやの。
そう思っていたら扉の方がガタ、と小さく音がした。
え、誰か居るん?
多分目の前に居る女の子は泣くことに必死で気付いとらんとおもう。
「どうしても・・・だめ、なの・・・?わたし、二番目でもいいからっ・・・!!!」
「すまんなぁ、気持ちだけありがたく貰っとくわ。」
「っ、っらいしく・・・っ・・・」
ぼろぼろと大粒の涙を瞳から零す女の子。
あーあ、化粧崩れてんで?
「堪忍な?」
「っ!!!」
そう言うと諦めてくれたのか屋上から飛び出して走り去ってしまった。
「はぁ・・・」
自然とこぼれた溜息にやっぱり女の子は苦手やなと再認識する。昨日のはなんかの間違いやって思いたい自分がおるのが分かる。
さて、そこで盗み聞きしとるんは誰やろか・・・
扉に近づくと控えめに顔を覗かせたツンツン頭の黒髪君がおった。
「財前、なにしとるん?」
やべ、と顔に書いてあった財前の手首を捕まえて屋上に引っ張り出した。
誰が逃げてええと言うたんや?逃がすわけないやろ。どうせ自分もサボりに来たんやろ
?ならええやん。
とりあえず貯水タンクの乗っている壁へと二人で背中を押し付けて座った
「せやな、もう少し考えてみるわ。…財前は好きな子おらんの?」
「いきなり何スか」
「最近喜怒哀楽がな、こう…」
あきらかにムッとした表情をする財前。
あ、こいつ結構眉毛の形綺麗やな。いや、ちゃうちゃう。今ソレ関係あらへんし。
「好き…?」
「おん(まさかこいつ気付いとらんとか言う?)」
最近の財前はウキウキした感じがするっつーか、なんちゅーか、まさに恋した子のテンションやったから絶対だれかそういう女の子居ると思っててんけど・・・。
「1人虐めてやりたくてしゃーないやつなら居りますけどそういう感情や無いですわ。」
「ほんまに?」
「?はい」
沈黙に耐えられなくなったのか空を見上げた財前は溜息と共に話を逸らした。
「……早よ部活したいっスわ」
「せやなぁ……」
あ、そういえば今日教室で千歳のファンの子が騒いでたんを聞いたんやけどなんや千歳が学校中をうろうろしとるらしい。いつもフラフラしとんのにうろうろはおかしない?
「せや、財前。」
「はい?」
「今日千歳がなんやおかしいらしいて聞いた?」
「あの人が可笑しいのは元々のもんとちゃうんですか?」
まぁ、そうなんやけど。
「今日部活来るんかな思っただけや。」
「そういえば、」
次にハッとして言ったのは財前やった。
「最近皆おかしないですか?」