淡い期待


お大事にーと、あまり感情の無い淡々とした口調で看護婦に送られ、待合室に座った。
骨折した左腕の調子は順調で来週にでも完治するらしい。

薬品の独特な匂いのする院内で少し影のある少女を見かけた。
歳はきっと同じくらいであろう。
しかしどこか大人びた雰囲気を持っている彼女は触れれば壊れてしまいそうなくらい美しかった。
手すりをつたい、ゆっくりと歩く彼女の左腕にはファイルが抱き締められていたのだがスルリと滑り落ちファイルの中身が床に散らばってしまった。
それを見てあー、等と傍観者のようにしては居られずファイルから飛び出した紙を一生懸命拾い彼女に手渡す。

『ごめんなさい、ありがとう』

彼女もまたゆっくりと大事そうにファイルに紙を入れながら謝罪と感謝の言葉を述べた。

「これで全部やろか?」
最後の一枚であろう紙を彼女に渡すと柔らかいがしっかりとした声で
『ありがとう、本当にごめんなさい』

と、鈴を転がしたような声で応答した。

「かまへん。早よ元気になりや」

病院に居るのだから少なからず元気ではないだろう。
そう安易に思って声を掛けたら丁度「石田さーん」と陽欲のない声で呼ばれその場を離れた。

彼女をまず立たせてやるべきだったか…少し後悔してから処方箋やらなにやらを終わらせると彼女は既にそこには居なかった。
少し期待した自分が悲しい。




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