『げほっ、げほん…ん゛ん゛っ』

「なん?風邪?」

『分かんない…』

「でも風邪っぽい咳やなぁ?熱は無いん?喉は?寒ない?」

『そういうんは無い…ただだるい』

「なんやいつも通りやん」

『うん、だから心配しなくてええで。』

私はよくだるいだるいて言うてるから、蔵もよく分かってくれとるん。
でも今日の怠いはいつもと違った。


授業中、あんまりにも体がおかしいので保健室に行かせてもろた。保健室に行く前に友達に大丈夫なん?めっちゃ顔色悪いでと心配された。

大丈夫やろ、なんとかは風邪引かないって言うやん?あ、私はなんとかとはちゃうで?そんな事無いわ。
むしろ頭良い方やもん。
そんな事考えたら保健室の前に来とって、ちょっとふらふらする足で保健室に入った。

『先生?おる?なんか調子悪いねんけど…』

「あれ、名前やん。今日は先生いないで?」

『あ、蔵…ちょお怠くて、熱計らせて?』

保健室を開けるといつも先生の定位置である机に彼氏の蔵が座っとった。

「ほんまに大丈夫なん?めっちゃしんどそうやで?」

『んー…多分…あ、ありがと』

近くの長椅子に腰掛けて蔵から渡された体温計を脇に挟む。

「で、体調は?頭痛いとか寒いとか無いん?」

『ちょっと頭痛くて気持ち悪いっていうか怠い…』

「完璧に風邪やんか…今日はもう帰った方がええで?」

『うち帰っても一人だからギリギリまで学校に居るー…』

「はぁ…ちょい待っとき。熱計り終わったら体温計机の上に置いといてな?」

『うん…げほっ、ごほっ…』


そう言って蔵は眉をしかめて保健室を出て行った。
あかん、体が重い…
私は座っとった長椅子に横になりぐったりとする。
体温計が鳴り自分の脇から体温計を引っ張り出す。そこに表示されとった数字をぼんやりと見つめていたんやけどいつの間にか視界は真っ暗になってしもた。













「机に置いとけ言うたんに…」

俺が職員室から帰ってくると長椅子でぐったりとする名前がおった。だらりと垂れた腕に握られた体温計の温度を確認する。
38.6
今はもっと上がっとるかもしれん。早いとこ起こして帰さなあかん…

「名前、名前?帰んで?早よ起き」

『あ、蔵…熱あった…』

「知っとる。ホラ、早よ帰んで?今謙也が荷物持ってきてくれるから、一緒に帰ろな」

『なんで…??』

「学校居ってもなんも出来ひんやろ。せやから俺も一緒に帰って看病したるから。」

『だめだよ…蔵にも蔵の家族にも迷惑かかるし…』

「安心しぃ。オカンにはもう連絡したわ、俺の心配より自分の心配しぃや?」

私の頭を優しく撫でる蔵の手が冷たくて気持ちよかった。

ガラガラと荒っぽく開かれた保健室のドアの前には謙也くんが私と蔵の荷物を抱えて立っとった。
私を見た謙也くんは眉をしかめて蔵に大丈夫なん?と聞いていた。私そんなにひどい顔しとるんやろか…

荷物を持ってきてくれた謙也くんにお礼も言えずただぐったりとしていることしか出来なかった。


「ほな、ありがとうな謙也。今日の部活頼んだで」

「気ぃつけて帰りぃや?」

私はふらふらする足をなんとか歩かせ謙也くんに手をふって門を出た。蔵は自転車を素早く持ってきて籠に私の荷物を入れて後ろの荷台に乗せてくれた。


「ちゃんとつかまっとき、ほな行くでぇ」

『うん…』

蔵のワイシャツをきゅっと握ると発車した。
あぁ、風邪の原因は何だろうか。体育の後汗をきちんと処理しなかった事が原因だろうか…それともなんだかアイスが食べたくなって食べたせいだろうか…
なんだかワイシャツを握るだけなら凄く不安だ。落とされるとかそういうんじゃなく、心的な意味で。

「もっと、」

『え、何?』

「腕ちゃんと回さな落ちるから、もっとくっつけって言うた」

『うん…じゃあそうするね…?』

「おん」

『……蔵の背中、』

「んー?」

『おっきいし広いし温かいね…』

「まぁ女の子よりは広いなー」

そう言った蔵の声が背中から響いて聞こえる

『…の声と……の、せなか………すき……』

蔵の背中、めっちゃ安心する







名前を後ろに乗せて腹に腕を回させて自転車を走らせていると名前がおかしなこと言い始めた。

『……蔵の背中、』

「んー?」

『おっきいし広いし温かいね…』

「まぁ女の子よりは広いなー」

あたりまえやん?中三にもなって女の子より背中小さいとかどないやねん俺なら恥ずかしくて嫌や。

『…の声と……の、せなか………すき……』


ぼそぼそと微かに聞こえたその声は凄く弱々しく、でもどこか安心した声だった。
名前は聞き取れなかったが状況からして俺やと思う。
かわええやっちゃな。
これから看病したるさかい早よ治してな?
治さなキスもデートも出来へんし…

早よ良くなればええんに…











風邪の淋しさ







((よく風邪の時淋しくなるって聞くけど、))(患者じゃなくて俺が淋しくなってどないするん)(蔵の背中があったら淋しくないなぁ…)(俺って男らしくないなぁ・・・なんや悲しくなってきたわ)(蔵にずっとこのままでいたいって言うたら怒るやろか…)(ついたで)(おおきに)(離れないん?)(………)












100330*紅羽
患者も淋しくなるんじゃないだろうか!←何
や、ネタにしようとしたのは私が咳をしたからです←←
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