なにしてんのへたれ
彼の背後から声をかければ決まって誰がヘタレやねんと返ってくる。
私の気配に気付かないくらい集中していたのか謙也はホントに慌てていた。
………謙也のカバン漁ってたん気付いてないん?めっちゃ音たてたったんに…

『で、なにしとるん?』
「日直の仕事や。お前俺と同じクラスやろ、何で覚えてへんねん」
『や、ちゃうて。今お前なんか別のことしてたやん。嘘つくの下手すぎやで自分、日誌の下の紙隠しきれてへんし』
「う、うっさいわ!」
『なんなん?ソレ。原稿用紙みたいやな』
「期末の国語テストものごっつ悪かってん、補習に作文だされたんや…」
『あほやなー』
「自分かて数学補習やんけ、今その後ろに隠したファイルん中にプリント入ってるんとちゃうん?」
『うっさいわー数学なんてやらんでも生きていけんねん国語があればええやろ足し算引き算かけ算わり算出来ればええねん将来素因数分解だとか円周率だとか二次関数とか学者にならん限り普通の生活で使うわけ無いわ!』
「よく一息で愚痴言えたな。よし、飴ちゃんやるわ」
『おおきに、てちゃうわボケ!このへたれ!お前何で数学得意やねん!ホンマ頭おかしいんとちゃうん!?』
数学とか死ね!ありえへん!と叫びながら俺の前の席の椅子を反対にし、ぶつぶつ言いながらファイルから出した補習プリントの問題を睨む。
数学は生きもんちゃうで、とプリントを隠していた日誌を畳み机の中にしまった。
『謙也…』
「なんや?」
『ウチ数学ほんまに嫌いやわ』
「おん、知っとる。オサムちゃん泣いとったでー」
『知らんがな。どうでもええわ数学なんか知らん』
「俺からしたらお前はなんで国語得意やねん。答えが一つじゃないとか要するにもう全部正解でええんとちゃう?」
『ええわけないやろ。あ、謙也それ漢字の使い方ちゃう。早いは時間とかに使うんやで?物のスピードのはやいは速い使うんよ』
「そうなん?」
『漢字くらい覚えとき』
「自分かて初っ端から符号間違えてるやん、そこ+やのうて−や」
『そうなん?普段使わんからわけわからんわ』
「嫌味か」
『おん』
「なぁ、」
『なに?』
「プリント交換せぇへん?」
『………』
ええけど、と呟いた彼女の言葉を素直に受け取りカサカサと音をたててプリントを交換した。
『で、作文て題材なに?』
「自分の長所」
『さむ』
「国語教師に言えや」
『しゃーないから字も似せて書いたる。謙也も字似せな怒んで』
「しゃーなしやな」
しばらくカリカリと紙の上をシャーペンが走る音が静かな教室に響いた。体育館で汗をかいているであろう運動部員の声が微かに聞こえる。でも一番ハッキリ聞こえるのはやはりシャーペンと時計の針が刻む音だけ。
『終わったわー』
「早っ、国語のくせに早すぎや!」
『落書きしよー謙也あと何問?』
「落書きとかすなや。これでラストや」
『はい、プレゼント』
「こないなプレゼントいらんわ!落書きされと、るし…」
俺はプレゼントと称されて目の前に置かれたプリントの落書きを見て今日は自分の誕生日やと云うことを思い出した。

"Happy Birthday謙也!"

「あ、あありがとう!」
『まさか忘れてたん?』
「おん」
『……今私が言うまで誰にも言われへんかったんか…可哀想なやっちゃ…』
「ほんまに忘れとったわーそんで今日白石とかニヤついとったんか…」
『ごっつかわいそうやで自分』
うっさい、という言葉とプリントを返すのは同時でなんや笑われた。ムキになったと思われたんかな。
補習のプリントは明日の授業前に先生に渡そう。
『プリントおおきに、助かったわ』
「なんも、気にせんとき。お互い様や!」
『あ、謙也。』
「うん?」
『明日はカバンの中整理しぃや、めっちゃ汚いわ。』
「なっ!見たんか?!」
『あんなに音たてて漁ったったんになんも気付かない謙也が悪いんやで!明日はカバン整理しぃや!チェックしたる』
ほなまた明日なーと片手を上げてスクールバックを肩にかけて小走りで行ってしもた。一方的や、理不尽や、そう思て家に帰りカバンを整理しとったらなんや綺麗にラッピングされた小さな包みが出て来よった。
とりあえずよう分からんけどラッピングを解くとメッセージカードとシンプルな俺好みのストラップが入っとってん。
メッセージカードにかかれた文字と、差出人の名前を見て嬉しくもなったんやけど明日ど突いたろって思った。













照れ隠し









(謙也!カバンキレイになったか?)(お陰様で、な!…なんで逃げるん?)(殴られそうやもん!っていうか今完全に叩こうとしたやん!)(殴らんて、)(じゃあその振り上げた手について説明しいや!)(ど突きまわしたろ思っただけや!)(何開き直ってんねん!)(うっさいわ!黙ってど突かれんかい!)(絶っ対にイヤやー!白石助けてー!)

ストラップは嬉しそうにカバンの横で揺れた












100317*紅羽
実は両想いだけど両方ヘタレで想いなんか伝えられない子達。
好きだから謙也の長所をスラスラ書けたことすら分からないくらい鈍すぎる謙也でした。
作文で自分の長所とか拷問だと思ってます!
因みに最後のヒロインとの会話は廊下ですw
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