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化け物女

人生で一番大事なものとはなんだろうか。どういった人生を送るのかが大事なのではない。どういった死に方を向かえるのかが大切なのだ。かつての、きっと偉い人が言った言葉なのだろう。実に深くしみいる言葉だと思う。ただ頭の悪い自分には、正直どういう意味合いなのかはいまいちわからなかった。

「だって、それってどんなにいい人生を送っててもこんな死に方したら不幸せだったってことになっちゃうでしょう?」

死体まみれの部屋で、女が倒れた死体の髪の毛を引っ張って顔を見る。笑って言うと、「無駄口叩くんじゃねぇ」と雑に返されてしまったので、「無駄な大声」とスクアーロを見て言った。

「殺すぞ糞餓鬼がぁ!!」

キレる上司の声を耳を塞いでシャットアウトする。そんなものでは防ぎきれない馬鹿でかい声が、誰もいなくなった洋館に響いていた。

「全員事故で不審死になったのかな」

レイの言葉に、スクアーロは「んなわけねぇだろぉ」と否定した。洋館にいた人間全員が不審死を遂げるなんてどう考えたっておかしい。まるで、誰かに仕組まれていたかのようだ。

「どっか、恨みのある奴の犯行ってことでいいんだろうな」
「ここまであからさまだと、多分わざとだろうね。怪しまれたいのかも」
「お前、殺しの時だけは頭が回るなぁ」

スクアーロの言葉に、レイが「いやぁ」と頭を掻いた。スクアーロは決して褒めたつもりはなく、逆に貶した気でいたので反応に困った。全く持って、こいつは色々と調子が狂うとつくづく思う。

レイとスクアーロは、洋館全域で不審死の起きた事件の調査に来ていた。ここまで多くの人間を一気に殺すとなると、やはりそれなりの殺しの腕を持つ人物が当たらなければならなかった。

「もし強い相手だったらスクアーロが殺してよ。私、雑魚狩りのほうが好きだ」

「働け」とスクアーロがレイを蹴った。雑魚狩りなんて、それこそ雑魚の部下共にでもさせていればいいのだ。幹部なら幹部らしく、強者の相手をしたらどうなんだ。そう言うとレイは決まって「雑魚を一気に沢山駆除できるよ。燃費最高だから」と自慢なのかよくわからないことを言って来る。燃費とか、そういう問題じゃないと思う。

「あのさぁスクアーロ」
「ああ゛?」
「任務、楽しいね」

いよいよそんなことを言って来たバカに、真面目にやれと剣を首元に当てた。「ひええ、怖い」と言いながらレイは笑っていた。それが本当に楽しそうで、殺す気も失せてしまう。正直なところ、スクアーロだって楽しかったのだ。早く犯人を追い詰めて斬り倒したくてしかたなかった。8年間も任務が出来なかった。楽しくない、わけがなかった。




どこかわかった?通信機の向こうにいるベルフェゴールに聞くと、『そんなんよりどこに沢山殺し屋がいるのか教えろって』という楽し気な声がした。またマーモンに絡んでいるらしい。

「ベル、悪いけど念写の結果が聞きたいんだけど」
『あ? あー、なんだ、読めねぇ』

つうかきもい、とマーモンが念写したであろうものを見てベルフェゴールが言う。じゃあさっさとマーモンに代われ!!とスクアーロの大声が通信機ではなく隣から聞こえる。この距離でもううるさいのに、直接耳に聞こえる通信機で聞かされるほうはたまったもんじゃないなと向こうで耳を痛くしてるであろうマーモンたちに同情した。

『っ……2階の一番奥だよ』

ダメージを食らったような声でマーモンが敵の居場所を伝える。しかしレイがあれ、とあることに気付く。

「私たち、さっき一番奥の部屋見てきたけど敵いなかったよ」
『移動したんじゃね?』
『いやおそらくこれは……隠し、部屋?』

建物の見取り図から少しずれた位置にいる、という情報に納得する。「小賢しい真似しやがって……」と隣でスクアーロがぼやいた。

「まあまあ、これが終われば楽しいパーティでしょ」
「……よくお前が言えるなぁ」

ボンゴレ主催のパーティが近々開催されることをレイが言うと、スクアーロから呆れたように返された。別に、パーティ自体は楽しいじゃないか。参列者が、少々気分を悪くさせる面子なだけで。どうせ出席しなければいけないのなら、楽しいということにしておかないとやってられない。

マーモンの指示通り、2階に移動し、さらに最奥の部屋を目指す。先ほどと同様、部屋に目当ての男の姿はない。隠し部屋って、どこを探したらいいんだろう。適当に部屋を荒らしてみてもそれらしきものはなかった。

早く終わらせてボスに会いたいのに、とレイが溜め息をついて壁に寄り掛かった。瞬間、がこんっと壁がレイの肘に押されてへこんだ。

「お、……お?」
「……当たりだな」

がこっ!がこっ!とパズルのように壁の一部が移動し始め、二人の前に扉が現れる。雑にその扉を開けて、ずかずかとスクアーロが奥に続く廊下を歩いた。互いに無言なのは、この先の敵を見据えてのことだ。逃げたのなら念写に映ることはない。ということは、籠城。こちらの狙いはもうばれているだろうから、迎え撃つ、つもりだろう。

スクアーロもそれはわかっているのか、ある程度のところに来ると指でレイに先に行かせるよう指示を出す。盾にする気か、最低だな。心の中で愚痴を言った。私だって痛いということは知っているだろうに。

どんっ!目的の部屋の扉を蹴り、中に飛び込んだ。





酷い爆発だった。シェルターから少しだけ顔を出して部屋を見る。部屋一つはこのシェルターを残し完全に消滅したようだ。何かあればここに逃げ込めと言われてきたが、こんなものを用意していたなんて。前に言っていた兵器がこれだろうか。敵が入れば作動すると言っていたので、敵が誰か侵入したらしい。これでは生きてはいないだろうが。爆発の余韻としての煙が晴れてから、安全が確保できたら外に出よう。

父は無事だろうか。こうして誰かに侵入される騒ぎになっているのだ。事情は知らないが、ファミリーのみんなはどうなった。ああ、まったく、おれにどうしていつも事情を知らせないんだ。だからこんなことになっただろう。口に出さずに文句をたれる。いつもいつもおれを世話している気でいるのだ。おれがそれを受け入れているだけだというのに。

「ここにいたんだ」

ぞわっ。思わず悲鳴を上げそうになった。

嘘だろ。考えていたことが、すべて頭の中で霧のように消えていく。恐怖で、がちがちと歯の根が合わなくなる。振り返ったほうが怖いのに、振り返ってしまった。

振り返ると、女がこちらを覗き込んでいた。嘘みたいに綺麗な顔をした女が、にっこりと笑っていた。唇が、赤い。

あれで死なない人間なんているわけがない。父は確かにそう言っていた。だというのに、この女はなんだ。ひっひっと聞こえるのは、おれの声か?呼吸がおかしい。息が、うまくできない。

笑顔のままの女が、おれに拳銃を向ける。その腕からは尋常じゃないほどの血が流れていて、鉄の匂いがした。まるで、今からおれもああなるみたいだ。ああ、違う、それはおれが人に向けるためのものだ。決して、向けられていいものじゃない。無礼な奴め。誰か、殺せ。

あれで死なない人間なんているわけがないだろう。走馬燈のように父の言葉を思い出した。はっきりとした映像が、頭の中を流れる。周りにはデッジも、アレッシオも、ロディーアもいて。ああ、楽しかったなぁ。葉巻なんて吸ってる。おれにもくれよ、それ。うちのファミリーが作った、一番の兵器ですから。ああ、そうだなデッジ。お前の兵器は何度もおれたちを救ってくれた。いたとしたらそれは、ソファに腰掛けたままの父が口を開く。

「バイバイ」

きっと化け物だ。父の言葉と女の笑顔が、おれの人生の最期だった。

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