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歌川くん


ふふ。嬉しそうに優希が端末を見ながら微笑んだ。端末には、次回のシフトの連絡が回って来ていた。そしてそのシフトの同じ時間帯の任務に、「柿崎隊」の文字があったのだ。

照屋が柿崎隊に入隊したこともあり、その文字を見るたびつい「おっ」と思ってしまう。ようやく一緒に任務をする立場になれたのだ。嬉しくないはずがない。

照屋には、柿崎隊入隊後に「隊員を紹介するよ!」と言われたが、知らない人の集団に囲まれるのは気が引けてお断りさせてもらった。代わりに、照屋からよく話を聞かせてもらっている。柿崎隊はまだ結成して間もないが、すでにチームの空気が出来上がってきているそうだ。それから。

「か、風間隊だぁ……」

スクロールして画面に映ったその文字を口にする。最近、めきめきと頭角を現しているのが風間隊だ。カメレオンという隠密トリガーが存在する。それを、菊地原のサイドエフェクトとともに使用することで、風間隊は他の追随を許さない唯一無二の形を作っていた。

すごいなあ、菊地原くん。菊地原のサイドエフェクトについては、前回の個人ランク戦後に知った。強化聴覚、という、非常に耳がいいサイドエフェクトを持っているのだそうだ。たまたま会話の中でその話題になったのですごいねと言うと、「別にたいしたことないから」と流されてしまったのを思い出す。

菊地原とは、たまに、本当にたまに話す程度だが、数少ない会話をさせてもらえる人のひとりだ。相変わらずおどおどとした態度に嫌な顔はされてしまうけど……ああ、いけない。ぶんぶんと首を横に振って暗い考えを散らす。今日はこれから、とってもとっても楽しいのだ。








資料室の扉を開く。最近はここに来るのも任務の合間をぬってではあるが、それでもやっぱりここが好きだった。今日の目的は、正隊員用の詳しいトリガー一覧。B級隊員になった特権であるオプショントリガーが、これで目いっぱい調べることができる。任務に出るにあたって訓練室にこもっていたから、結局今日まで見に来れていなかった。

検索機で検索をして、資料の置かれている場所を確認する。D-28、と。位置番号を心の中で繰り返しながら資料室の中を歩いた。

あ、あった。顔を上に向けた状態でそれを発見した。少し高いな、と思いながら手を伸ばす。ぶんぶん。つま先立ちで手を振ってみるが、手が本に当たらない。

だ、台を探したほうがいいのだろうか……。だけど、資料室に来るようになってから台を使ったことはないのでそもそもあるのかわからない。

「んっく……!」

つま先の限界、というところまで頑張ってみる。ぶんぶん。そのまま手を振ってみる、が、指は本に引っかかる気配を見せない。かろうじて指が本の棚板に当たる程度だ。う、足、痛い。ぷるぷると足が震えた。

「……大丈夫か?」
「えっ」

ぐらっ!とバランスを崩す。うわっ!?と後ろからも驚いた声が聞こえた。後ろに倒れたところを支えられて、「ご、ごごごごごめっなさっ!?」と慌てて飛び退いた。

「いや、俺も急に声かけてごめん」

飛び退くと、向こうからも謝られてしまった。そこで相手が歌川であることに気付き、さらにひいい……っ!?と怯えた。菊地原くんと同じ、風間隊の。こ、こわい……。

「これか?」
「う、う、うん……」

身長の違いなのか軽々と資料を取った歌川に少しの敗北感を覚えながら資料を受け取る。人に取らせてしまった……深々と頭を下げてお礼を言うと、「そんな腰低くしなくても」と苦笑していた。

「久野、セットトリガーでも変えるのか?」
「えっ……う、うん」

心の中では「名前知られてた……!?」と思いながらも、前回菊地原に嫌そうにされてしまったのでそれは口にしなかった。また怒られてしまうかもしれない。そのことを思い出していると、「そういえば、こないだ菊地原とランク戦してたよな?」と歌川が話題にした。

「えっし、知って」
「なんか珍しい組み合わせだなって思ったから、見てた」

見てた、と言われてそ、そか……と視線を下げながら答える。歌川いわく、菊地原がランク戦ブースに来ていること自体珍しいらしい。あと久野もちゃんと戦闘みるの初めてだから見ていた、と。

「いい手だったな、あれ。壁斬るときの勢いで移動したの」

咄嗟にやるの難しいと思う、と歌川が頷く。「あ、あり、ありがとう……」褒められたお礼を言いながら、もしかして歌川くんって優しいのかもしれない……と気付いた優希だった。