友達の、連絡先を、手に入れてしまった……。端末の画面を何度確認しても消えていないそれは、先日の一件が妄想でないことを示しており、優希はにやけるのをおさえながらそれはそれは大事に両手で端末を握りしめた。
昼休みの教室で、優希は相変わらずぽつんとひとりで席についていた。端末を大事に鞄にしまうと、優希は本部でいつも広げているボーダーのノート、ではなく、学校の授業のノートを開く。優希は放課後をボーダーでの訓練にあてるため、昼休みはほとんど授業の復習あてていた。
かりかりとシャーペンがノートの上を走る。今日の数学難しかったなぁ、少し前からやり直したほうがいいかも?問題集をまたも鞄からごそごそ探して、今日の単元の分に付箋を貼った。これはボーダーが終わって家に帰ってからやろう。
「……あっ」
鞄に問題集を戻そうとしたとき、机の上にあったペンがカツンッと落ちた。そのままころころと転がっていったペンにま、待って……と優希が立ち上がる。
ころころ、こつん。ペンが転がった先の机の足にあたったことで止まる。それを優希が拾おうとした前に、ひょいと伸びた手が拾った。顔を上げた優希と、その人物とが目があう。
「っ……」
きく、ちはらくん。優希はその人物を認識し、一気に体が緊張が走った。
同時期にボーダーに入隊した、入隊時からポイントの高かった子。同じスコーピオン使いではあるが、菊地原と優希ではポイントは全然違っていた。少し前に、ランク戦ブースで正隊員の人に声をかけられているのを見たことがあるくらいに、優秀な子だった。
「あ、あり、ありがと……」
とりあえずお礼を、言わなければ。視線を外した優希が礼を言うと、菊地原は無言でペンを差し出してきた。あ、ありがとう……ともう一度礼を言ってそれを受け取る。
「……なにそんなびくびくしてんの」
うるさいんだけど、と言われてしまい、「う、うる。ごご、ごめんね……」とあいまいに優希が謝る。じとっとした目で優希を少し見た菊地原は、それを最後にふいっと視線を外した。多分いまので、会話が終わったらしい。
優希は申し訳なさそうに菊地原の傍から離れると、すごすごと自分の席に戻る。うるさいってどういうことだろう。椅子に座りながら心の中で少し、疑問に思った。