×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -









友達


「アステロイドは受け続けるより避けることを重視して……」「突撃型は間合いを詰める必要があるから、追い込まれる前に対処を……」ソファに座ったままぶつぶつと念仏のように対策を唱える優希に、近くを通った者が「ひっ」と避けていく。それに気付いていないのか、優希はいまだぶつぶつと昨夜ノートに書いた内容を復習していた。

先日照屋と初会話を果たした優希は、トリガーについて徹底的に調べた。それこそ、ノートにびっしりと文字が埋まるくらいに。その後、実際にブースに入り全てのトリガーと一旦戦ってみてから、またそれをもとに対策、戦闘、対策、と繰り返した。そう、すべては。

「ごめん、待たせた?」
「まっまままって、なっす!」
「ナス?」

笑顔のまま首を傾げた照屋に「な、なん、でもない」と優希が視線を外して言った。

そう、すべては今日、照屋と戦うためである。

あれから少し経って、たまたま本部でまた再会した照屋に「ランク戦今度一緒にやろうよ」と誘われた優希は、ひたすらに照屋対策に明け暮れた。照屋が万が一メイントリガーを変更した場合も考えて、すべてのトリガーの対策にも時間を割いた。「久野さん、思ったより弱いんだね……」と照屋に失望されては悲しいからである。優希がそこまでの気合を入れてきていることを知らないであろう照屋は優希の顔を見て「寝不足?大丈夫?」と優しく心配していた。





なにを、話そう。だらだらと冷や汗を流しながら無言で優希は穴が開くほどに目の前のジュースのカップを見つめた。

個人ランク戦の結果は、対策の甲斐もあってか五分五分、やや照屋優勢といった内容だった。やはり彼女の戦闘の勘のよさは見習うべきものがある。また戦闘の型がしっかりと形成されていたので、次に戦うときは……逃避したところでこの状況は変わらないが、逃避しないと心臓が持たなかった。

ランク戦の後、ここで話すのもなんだから、との照屋の提案によりボーダー内ラウンジに移動した。優希はランク戦が終われば解散だと思っていたので、ラウンジに行こうと言われた瞬間予想外のことで頭がぱーんとなってしまい、思考回路がうまく機能しなくなってしまった。

「久野さんって」
「えっ、あっはい!」
「もしかして、戦術の本とか読んでる?」

照屋の質問に、焦った優希は「せんじゅつ」とは一体なんだっただろうかと言葉の意味から考え始めた。せんじゅつ、戦術?あっ戦術。頭の中でひとりごとを言いながら、「えと」となんて返そうかと考えた。

「ぼ、ボーダー、はいって、から。たまに……」

参考にしたいと考えて探したが学校の図書室では見当たらなかったので、近所の図書館で戦術についての本をいくつか借りて読んだ。といっても部隊戦術がメインで書かれていたので、1対1の対人戦では基本的な内容しか得られなかったが。

「今後の参考に、おすすめの本とかあったら教えてくれない? 久野さん見てたら、私もいろいろと勉強したいなって」
「あっあの、あ、少し、しか、読めてない」
「私も初心者だから、同じくらいの知識の人からのおすすめが知りたいんだ」

そそ……いうこと、なら。ぎこちなく返した優希に、ありがとう、と照屋が笑った。

どうして照屋さんはこんなにも優しいんだろうか。優希は不思議で仕方なかった。照屋からの話にただ返事をするだけの(しかもおどおどした返事)自分と話しても、楽しいとは到底思えない。

「……優希」

「っえ?」照屋が自分の下の名前を呼んだ気がして、優希が驚いた声で聞き返した。照屋は少し照れたようにはにかむと、「名字呼びって少し距離があるから、下の名前で呼んでもいいかな」と言った。それがさらに、優希を混乱させた。

「い、いいいけど……あの、えっなんで」
「え? 久野さん、あっ違う……優希ともっと仲良くなりたい、から?」

自分の予想以上に驚かれた照屋が理由を伝えると、優希はさらにわからないという顔をした。

「えっだっだって……? 下のなまえ、で。なっ仲良くって、友達、みたい……えっ?」

頭を抱えだした優希に、「友達みたい……というか、友達になりたいんだけど……」と照屋が苦笑する。その言葉が聞こえた瞬間、優希が目を見開く。それから、頭を抱えていた両手が徐々に下におりてきて、口を覆った。

「私のことも、文香って言ってくれると嬉しいな」

言われた意味を少しずつ理解する。「ふ、ふふ、ふみ、」小さく開けた口でもごもごと言うと、「ゆっくりでいいよ」と照屋が笑った。

「ふみ、ふみゃきゃ、ちゃ」

うん。照屋が頷いた瞬間、大きく見開いていた優希の目からぽろっと涙が一粒落ちた。慌てて照屋が大丈夫!?と立ち上がる。「ご、ごめ。なんで、も、ない」とじわあと浮かんだ涙を優希がぬぐう。

「と、友達、う、うれしいぃぃ……!」

途切れた言葉で泣きだした優希に、最初は驚いた様子だった照屋が「これから慣れてもらえるよう頑張るね」とふふと笑った。