×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -









トリガー


照屋さん、優しかったなぁ……。ノートを抱えながら、優希は口元を少しゆるめる。あの後、おどおどしながらの噛みまくりの質問にも、照屋は嫌な顔一つせず答えてくれた。おかげで突撃銃型トリガーとその通常弾の対策もばっちりだ。あとは他の弾手と、弧月と……あとで資料室を訪ねてみよう、と優希がふふと笑った。

ああ、楽しいなあ。優希は機嫌よくスキップしたい気分だった。対策ができただけでなく、人とも話せた。思えば、まともに会話したのなんて家族以外ではボーダーに入ってどころかここ最近で久しぶりだ。

次会えたら、ランク戦、さ、ささ、誘っちゃおうかな。それまでに他をまとめないといけないけど。ああ、でもわたしから声かけるなんて照屋さん困るかな……。機嫌よく、それでもネガティブなまま資料室に入る。最近はもっぱら資料室とラウンジが優希の定位置になっていた。

優希は資料室が好きだった。理由は調べものができるのと、なにより監督者がいないという点だった。機密性の高い書類以外はここでいつでも誰でも閲覧できる。うふふ、と軽く歌いながらトリガーについて書かれた資料を取る。

「いーいーないーいーなー、今日は機嫌がいーいーなー」くまのこ見ていたーというやつである。替え歌を大声で歌う優希は、正直機嫌がいいを通り越して少し変なやつではあるが、そんなことが気にならないほどに優希の機嫌は良かった。

「頑張っちゃおっか、うふふふふんふっふーん」「ぶふっ」優希が見つけた書類を手にして、そう歌ったときだった。……え。急に全身の血が引いていくのを感じた。い、いま、笑い声……。書類を持った体がガタガタと震えはじめる。

声のしたほうを見ながら震えていると、棚越しで見えなかった位置から男の人が出てきた。「わるい」と言って片手をあげた男の人に、優希は目に見えて狼狽えた。

男の人。大人。隊服。正隊員の人。金髪。たばこ。怯える点が軒並みピックアップされていく。あああああ……と恐ろしいものを見たという顔をしながら優希が「ご、ごめ、ごめなさ……」とあわあわと謝罪の言葉を口にする。

「いや……くくっ、悪ぃ、」

急に鼻歌になったのが面白くてつい……、と片手で顔を隠し男の人はくっくっと笑ったままだ。資料を抱えたまま震える優希の横を通り過ぎ、男の人も目当ての書類を取った。

「C級で資料室にまで来るたぁ、たいした新人だ」
「ひ、ひぇ……」

とりあえず返事をしなければと返すと、返事にすらならない声が出た。男の人は気にした様子もなく、ぽんっと元気づけるように優希の背中を叩いた。それにすら「ひぃ!」と情けない声が出る。

「今日は機嫌がいいんだろ? がんばれよ!」

最後にそんな爆弾を笑顔で落とし、男の人は去っていった。じわじわと歌詞までしっかり聞かれていたことに気付き恥ずかしさで死にそうになった優希を置いて。