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純金のタプナード

◆◆◆◆


ノックと共に名前を呼ばれた。声で誰だか判断したレイドは「何か用か」と珍しく敬語でなく返事をした。扉を開けにやけた顔で入ってきたのは自分の同期の男だった。男は「祝いにきたのに冷てぇ奴だなぁ」とへらりと笑っていた。

「祝い? 酒飲みの理由欲しさにか」
「かーーーっわいくねぇなぁマジで」

上のデブとじいさんにするみたいに笑顔振りまけねぇの?と案の定どこで手に入れたのか酒瓶を傾け喉を鳴らす。デブ、というのはこいつの言葉で「メイド長」、じいさんというのは「執事」を指していた。

この昼間から酒を飲む男の名はセザール。同期で共に城に入った男だ。といっても、必要最低限の金が稼げればいいというこの男はだらだらと最下層の仕事を不真面目に行っているため地位はレイドのずっと下だ。こんな男が、未だクビにならず城で働いているのが不思議で仕方ないが、力仕事を行う下位の仕事では案外役に立っているらしい。

「お前、第三王子についたんだって? 勝ち組じゃん」
「お前よりはな」
「どうだ。金払いは」
「それが狙いなら他をあたれ。お前にやる金はかけらもない」

そういうこと言ってんじゃねぇだろうが、とレイドの態度にとくに機嫌を悪くすることもなくセザールが笑う。彼に対しレイドの態度が悪いのはいつものことだ。セザールもどこぞの下町にいたのがここに移ってきたくちらしく、「きたねぇ者同士仲良くやろうぜ」となにかと絡みにきている。

「にしても従者とは。知ってるか? 王族につけるのは見目のいい奴だけなんだとさ」
「そうか。それは得をした」

くくっと喉で笑いながら「否定しろよ」とセザールが言う。レイドが自分の見た目がいいことに気付いたのは城に入り身なりを整えるようになってからだ。女性からの視線で、ああ、自分はよい見た目なのだと気付いてからはそれを売りに情報を集めたり知識を得るため本をもらったりしていた。見た目が綺麗だと言われ恥ずかしがるほど純情ではないのだ。

「……ああ、もうこんな時間だ」
「ああ? なんだ?」
「サンジ様が昼食を終える頃だ。悪いが帰れ」

「悪いがって言ったあとは、普通命令語がでねぇんだよ」と顔をしかめたセザールに「お前が普通じゃないからな」と酷いことを言って部屋を追い出した。セザールの座っていた椅子を定位置に直し、鏡で見た目を整えてから、食事を終え部屋に戻るであろうサンジを待つため自室を後にした。




部屋に戻ってきたサンジはいつものように本を開き、隣にレイドを座らせた。以前は話しかけるタイミングを計っていたようだったが、今では本を読みながら軽い会話を交わせるようになってきた。彼は誰かと話がしたかったらしく、ここ最近の彼は上機嫌だ。

「どんな葉っぱの事?」
「そうですね。……こういう」
「レイドって絵も描けるんだ」

すごいね、と簡単に紙に描いてみせたレイドをサンジが褒める。ありがとうございます。と笑って軽く頭を下げた。

「レイド」
「はい」
「元気になる食べ物ってなにかな?」

サンジの質問は脈絡がないものが多く、それがさらに子供らしいとレイドに感じさせていた。しかしそれの相手をするのも、自分の務めだ。そうですね、と思い出すように視線を彷徨わせる。ひとえに元気になるといっても体調が関係してくるだろう。だが、一般的に元気になるといえば、やはりタンパク質だろうか。それを伝えると「たんぱくしつ」と初めて聞いたという顔をされる。

「お肉やお魚のことですね。それから、チーズや卵など」
「たんぱくしつ、が体にいいの?」
「あとは……エネルギー補給とするなら、バナナとか」
「おやつの?」
「はい。おやつの」

そっか、と呟いた後、考え込むように顔をさげたサンジに「どうかなさいましたか?」と聞くと、はっとしたように「な、なんでもない」と焦ったように返事をされた。あきらかになにかあるような気もしたが、何もないと言われた以上は「そうですか」としか従者のレイドに許された言葉は無かった。


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