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ハートのぐつぐつ煮

◆◆◆◆


呼び出しを受けたときから嫌な予感はしていた。予感どころか、前回も前々回も同じだったため今日も同じなのだろうなと思った。「聞いているのか、クロック」はい、と返事をする。くどくどとした中身のない話だが、一応断片でも拾い聞いておかなければ復唱しろと言われた際に困るので少しは聞いている。

「第三王子は訓練で成果も出さず、調理場で遊んでいると聞いたが」
「申し訳ありません」

謝って認めるレイドに、執事は頭を押さえた。「これではお前を推した私の立場がない」恨み言のように言う男はきっと焦っているのだ。可哀想な老人。王族に立派に育てた自分に従順な部下を付けて、自分の実績に箔を付けたかったに違いない。愚かな老人。レイドが従順な部下でないと見抜けない底の浅い男。

「他の王子たちに出来て、なぜ第三王子だけができないのか。よく考えろ。そして、彼の記録も伸ばさせろ」

いいな、と念押しをして、燕尾服を翻して執事は戻っていった。残されたレイドは、すっと姿勢と襟を正して話題の人だった第三王子のスケジュールを頭の中で確認した。自室に一度立ち寄れるほどの時間はあるか、そう判断したとき、ひょこっと物陰から先ほどとは別の男が現れた。「いたのか、お前」大して驚いていないレイドに、「お前さんざん怒られてたなぁ」と楽しそうにセザールが言った。

「自分のこと以外で怒られる気持ちったら、ひっどいねぇあのじじいも」

ぐびっとセザールが酒を飲んだ。いつもいつも酒を持っているが、調理場から持ち出しているのだろうか。そうだな、とレイドが適当な返事をする。

「それにしてもあの出世コースだったお前がねぇ……とんだはずれくじ引いたな」
「はずれじゃない」

レイドの言葉に、厭らしい笑みを浮かべていたセザールが驚いたような顔をした。「ああ……気を悪くさせたなら謝る」と掌を向けてレイドを宥めた。それから、あのお前が餓鬼に肩入れねぇ……とまた楽しそうに笑っていた。

「珍しいじゃねぇか。役に立たねぇ奴は切り捨てるんだろ。お前、性格悪ぃから」

なんか理由でもあんのか? 失礼な物言いだが、この思ったままの言動がこの飲んだくれの男の性格だとレイドは知っている。ただ疑問だ、という顔をする男に、「……理由、か」と小さくレイドがつぶやいた。それから、考えた。

「……辻褄が合わないんだ」
「つじつま?」

なんだぁ? それ。飲んだくれが不思議そうな顔をする。少しだけ黙ったレイドの言葉を、セザールが待つ。しかしレイドは、くだらない話をした、と忘れるようセザールに言った。そのまま歩き出したレイドに、「どこ行くんだよ」と男が聞く。レイドは仕事場に戻る、と言った。待てよ、背後から男の呼び止める声が聞こえる。

「お前、余計な事考えんなよ」
「なにがだ?」
「やだぜ俺、お前の死体みんの」
「そこまでの馬鹿は踏まん」
「お前がいなくなったらあの餓鬼味方いねーぞ」

それでもいいのかよ、珍しいセザールの言葉に、レイドが黙る。間違っても上には逆らうなよ、たかが家族喧嘩だろ。そう続けたセザールは、どうやらその喧嘩があることを知っているらしい。こんな、王族から遠い下の仕事を任されている男ですら。いじめという名の、家族喧嘩。城中が知っていて、黙っている喧嘩を。

「……お前に諭される日が来るとは」

レイドがその場に立ち止まる。「俺ァ昔からお前とは親友だと」いつもの調子でセザールが言った。それに対し、そうか、とレイドが言うと、「素直に認められるとそれはそれで気持ち悪ぃな」とセザールが笑った。


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