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涙をディップしてクラッカー

◆◆◆◆


「ど、どうかな?」

うーん。たまごやきを実食したレイドが、大袈裟に体を捻って唸る。「だ、だめ? まだまずい?」その姿に、サンジが焦って言葉を急かす。すると、険しい顔をしていたレイドが、ふわりと笑った。

「美味しいです」
「ほんとう!?」

心配そうな顔から一転、ぱあっと明るくなったサンジに、「ええ、とっても」とレイドが笑いかける。見た目もだいぶまともになったし、なにより味もよくなった。これなら王妃に食べてもらっても命に別状……じゃない、おいしく食べてくれるはずだ。やったー! と飛び跳ねる子供はさっそく母親のもとに向かおうとレイドの服を引っ張る。まだお弁当になっていませんよ、とレイドが苦笑した。

弁当箱を用意して、たまごやきだけでは心許ないのでトマトやご飯も入れようと提案する。一応サンジと共に炊いたものだから、彼が作ったと言ってもセーフだろう。入れる際に、「お母さんトマト食べられるかな」と不安そうにしていた。彼はまだトマトが食べられないらしい。メインであるたまごやきを焼いて、冷ましてから蓋をする。

「冷ましてから?」
「温かいままだと、湯気でお弁当がべちゃべちゃになるんです」
「べちゃべちゃ」

それは大変だ、とサンジがよく冷まそうと手でお弁当を扇ぐ。確か菌が繁殖しやすいから、なんてのをメイドから聞いたこともあるが、とりあえず冷ますものだとだけ思ってくれればいいだろう。

さて。用意があらかた終わった彼は、暇なのかきょろきょろと自分の部屋なのに視線を彷徨わせている。それを見て、そうだ、とレイドが指を立てた。

「お手紙、書きましょうか」
「……うん!」

久しぶりに会うのだ。手紙も書いて、なにを話すかも決めて、しっかり母親との時間を過ごしてほしい。便箋を出しながら機嫌よくそんなことを考えている自分に、ふと冷静になった。

「レイド?」と呼ばれる。すみません、と笑って便箋を差し出した。

「お一人のほうが考えやすいでしょう。離れておきますので、申しつけたいことがあればお声かけください」
「うん、わかった!」

元気に返事をしたサンジに笑いかけ、そっとテーブルから離れた。うーん、と握ったペンを頭にこつこつとあてながらサンジが首を捻る。なにを書こうかと考えるその表情は、見れば見るほどただの子供だ。

最近の自分は、従者という人物像を演じすぎている。王子に取り入るのはいい、利益に繋がる。ただそれは、演技でなくてはならないはずだ。

____あの子を、よろしくお願いしますね。最近、考え事をしていると、決まって思い出すのがあの声だ。自分の考えを、波のようにかすめて消そうとする。母親とは、なんて恐ろしい呪いなんだろう。





王子の部屋にいるときは、基本的にいつも同じスケジュールをこなす。何時に誰が何の用事で来るのかというのは、いつも同じだ。なので、いつもとは違う時間帯に現れたメイド長に、レイドは少し驚きながら要件を聞いた。

「王子をお呼びしなさい」彼女は簡潔な指示を出す。その表情は、いつもよりも堂々としており、威圧を感じた。

大人しく従い、王子を呼ぶ。手紙を書き終えてバスケットにしまおうとしていた矢先のことだったので、少し怯えた顔をしていた。小さい声で「扉からは見えていませんよ」と笑いかける。大きな部屋でよかったと、本当に思う。

「お前はここにいなさい」どこかへ向かおうとしていたので、着いて行っていいかの許可を取る前に、拒否をされる。その言葉に、何の用事だろうかと疑問を持つ。歩きだすメイド長の後ろで、こちらを振り返ったサンジの不安そうな目と、目が合った。





主人であるサンジがいない部屋にいたレイドのもとに、招集があった。招集をかけた男に話を聞くと、「わからない」と返される。それから、「とにかく、全員呼んで来いって」とも言われた。全員とは、まさか使用人全員ということだろうか? それを聞き返す前に、男は次の使用人を呼ぶため忙しく去っていった。

指示の通りの場所へ行くと、すでに多くの使用人たちが集まっていた。広い城にしては珍しいくらいに人が密集している。少し上を見ると、段差のついた上のほうに、執事の姿があった。やはり、何かがあったのだ。城全体に、王子にも伝えるような大事が。

集まった使用人たちに、執事が伝える。その言葉は、静寂を破り、皆に悲鳴を上げさせた。「王妃様が」ざわつく使用人たちは、パンッ!と大きな拍手で窘められる。これからの仕事についての割り振りが伝えられた。葬儀に関して、今後の仕事内容について、その内容に耳を傾けなければならないのに、どうも頭に入ってこなかった。あの王妃が、そんな急に。そしてなにより、嬉しそうに弁当を完成させていた自分の主人の事が、気がかりだった。


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