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口の上手いプレッセ

◆◆◆◆


サンジの言葉に、ううん、とレイドが唸った。それを見て、サンジも「駄目かな」と遠慮がちになる。

料理をしたいと言うその言葉は、いつだって受け入れにくい。またお母さんに渡したいんだ、とは言うが、調理場には前の一件で出入りを禁じられてしまった。「ちゃんと見ててくださいね」なんてわざわざ言われたレイドはまたも調理場にサンジを送りこむことに躊躇がある。

今度は綺麗に作りたい、とサンジは言う。それならば調理場でコックに習わなければいけないが、入れない以上どうすることもできない。それを言うと、ぐぬ、とサンジが少し黙り、「……あ!」と思い出したように声をあげた。

「レイド料理できるんだよね!」
「……私、ですか」

あいにく、私は数えるほどしかしたことがありません。そう言って断るも、それでもいいから! とサンジが食い下がって来た。どうしても渡したいらしいが、レイドもそう何度もわがままに目を瞑ってもらえるかは自信がない。

「おかあさんが、また作ってって言ったんだもん」

なかなか許可をくれないレイドに、サンジがそう言った。それを言われると、正直弱い。なにも自分がやりたいやりたくないでなく、母親のためにやろうとしているのだこの子は。それを再認識して、なんというか____断りにくい。

「……サンジ様に料理を教えると、怒られてしまいますので」

レイドの言葉に、サンジが俯いた。これを言われると、人に迷惑をかけたくないサンジが食い下がれないことを、レイドは知っていた。だからこそこう言って自発的に引いてくれるのを待ったわけだが、悲しそうに俯く姿になんだかどんどんこっちが追い詰められている気がする。

「……困らせて、ごめんなさい」
「…………」

ぼそりと言ったサンジに、ギリギリと胸が痛む。ううう……、と胸を押さえながら、止めなければという感情と可哀想という感情がせめぎ合う。

「……サンジ様の部屋で」

ああ、駄目だ。そう思いながらも口が動く。急に脈絡のないことを言い出したレイドに、「……?」とサンジが顔を上げた。

「……たまたま@ソ理をしている私をたまたま<Tンジ様が見ていたのなら……怒られないかもしれませんね」

どう聞いたってこじつけにすぎないそれを口にしてから、後悔した。何を言っているのだろうか自分は。こんな、下手すれば降格になるかもしれないリスクを自分から犯そうとするなんて。言葉を理解したサンジの悲しく暗かった顔が、ぱあっと明るくなる。「内緒にできますか?」ひっそり声を落として聞くと、「うん」とこれまたひっそりとサンジが言った。それから、友達と内緒を共有する子供のように、「へへ」とまた笑うのだ。

「……」

やったー!と喜ぶ姿を見て、レイドはある事に気付いた。それから、とても困った。後悔した気持ちが、しぼんでいくのを感じた。




簡易コンロを部屋へと運び、準備を完了させる。ジェルマは科学水準の高い国なので、便利な機械はたくさんある。簡単な料理をするにあたって問題点はないだろう。前回、王妃に作ったメニューを聞くと「魚とたまごやきとバナナのやつ」と言われた。……まさか、混ぜたんですか?と聞く勇気はレイドにはなかった。

たまごやきなら作れるということだろうか、とまずは作ってもらい、それで料理のレベルを審査することにした。「あ!」「うわっ」混ぜて焼くという、比較的手順の少ない料理だが、過程はかなり悪戦苦闘しており、完成品をコト、と目の前に置かれたときに驚いた。黄色いはずのたまごやきが、真っ黒に成り果てていた。

「……ご、ごめんなさい…………」

盛大に焦がしてしまったことに、サンジが謝罪する。ぱくりと口にすると、砂糖を入れていたはずなのに随分と苦い味がした。全部食べ切ってから、大丈夫ですよと笑って「ゆっくりと慣れていきましょう」と伝えた。う、うん!と頑張ることを宣言したサンジに、「まずは殻の割り方からですね」とレイドが苦笑した。


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