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▼ たべてねてわらって

「ごちそうさまでしたー」両手を合わせてそう言うと、「ん」とレイジが短く返事をする。玉狛支部の食事は今日も今日とて絶品である。先日夕食にお邪魔してからたびたびこうして振舞ってもらっているが、今のところすべて当たりである。

「名前、今日はオレがつくったはつめいを見せてやろう」

食事を終えた名前に、陽太郎が雷神丸に乗ったままとことこと近づいてきた。新入りの教育も先輩の務めであるのだと、陽太郎は前に言っていた。

「ほほう、発明ですか」
「見ておどろけ、これはグレートレッドのさいしゅうへいき、イーエックスフライングサンだ!」

「ほおー!」名前が驚いたリアクションを取ると、後ろからひょっこりと出てきた小南が「ただの竹とんぼじゃない」と指摘した。

「今の戦隊ものの武器って竹とんぼなの?」
「竹とんぼというか、本物はもっと派手な見た目だったけど」

「形も竹とんぼに似てるだけというか」「ほうほう」名前が小南に聞くと、陽太郎と一緒に見ていたときのことを思い出して小南が解説する。小南にばっさり斬られてしまった陽太郎が「こらー! こなみ!」と小南を叱った。

「これはまちがいなくイーエックスフライングサンだ!」
「うんうん。飛ばして見せてくれる?」
「ふっふっふ……とくべつだぞ……?」
「とく……べつ……!?」

陽太郎の小芝居に付き合う名前を見て「あんた付き合いいいわねぇ……」と小南が言った。





しばらくがた陽太郎と小南と遊んだ頃、レイジに「そろそろ迅を呼んできてくれるか」と頼まれた。名前は来たときからリビングに迅がいなかったので出かけているのかと思ったが、どうやら今日は休日で自室にいたそうだ。もう昼食時も大きく過ぎ、いくらなんでもお腹が空くころだろう。

「もしもーし、お昼ですよー」ノックとともに声をかける。一回目は返事がなく、もう一度。今度も返事はない。

「迅さん?」

いるんじゃないの?と扉を開けて中を見る。と、電気がついていなかった。

おや、これはお昼寝ですかな。ベッドのほうを見てみると、廊下から入る光で布団がふくらんでいるのが見えた。

「おーい、寝てますかー」

電気をつけて中に入る。寝ているのかと聞いてみると返事は無いので、どうやら迅は寝ているらしい。

普段はトリオン体でいることが多い彼も、さすがに寝る時はゆったりとしたスラックスを着て眠っていた。制服や隊服以外の私服を見るのがなんだか珍しくて見ていると、眠っていても視線を感じたのか、煩わしそうに唸って寝返りをうった。

「迅さん、お昼出来てるよ。先食べちゃったよ」

ベッドの横にかがんで一応声をかけてみる。寝ているので返事はぐう、とした寝息だけだ。随分ぐっすりと眠っているし、起こすのもなんだかなぁという気持ちになる。というか、布団ずれてるし。まったく世話が焼けるわねぇと名前は迅の布団をかけなおした。

ぐるりと部屋を見回してみる。周りにあるのは高く積まれた段ボールのタワーたち。これら全てがぼんち揚げの箱だと言うのだからいっそ不気味である。

「……」

すやすやと眠っている姿に疲れてるのかなぁと名前は首を傾げた。何度も話しかけているのに起きないのだから、ずいぶん寝不足なのかもしれない。実力派エリート様はいつもお忙しいから。頑張り屋さんだねぇ。寝ているからか年相応の子供に見える彼に、そう呟いた。





「…………えっ」

目が覚めた迅の最初の一言はそれだった。自分のベッドに上半身を置いて眠っている名前を発見し、冷や汗がでた。迅に冷や汗を出させている張本人は、ぐうぐうと暢気に眠っている。

え、なんで名前がここに……?ああご飯食べに来たのか……えっでもなんで俺の部屋で寝てんの……?迅が困った顔のまま色々と考える。一応自分は年頃の男のはずなんだけど、なにを考えているんだろうかこの子は。多分なにも考えてなさそうな名前に迅は頭が痛くなった。

「……あれ、」

自分の体に目をやると、普段ならばあっちへこっちへとずれまくっていた布団が綺麗に自分の上にかかっていたことに気付く。もしかして掛けなおしてくれたのだろうか。少しほっこりする。……いやでもこれはなぁ。

「……」

髪の間から、すやすやと眠っているのが見える。疲れてるのかな、と少しその姿を見ていると「ふふ……これがお菓子の家ね……」などという寝言を言われた。随分と幸せな夢を見ているらしく、心配するのも馬鹿らしく思えてきた。

「こら名前、起きろ。寝るなー」
「んー……」

「起きろ起きろー」と肩を揺らすと「うぐう……食べた分は弁償するので勘弁してください……」と眉を寄せていた。どうやら夢の中でお菓子の家の住人に賠償問題にされているらしい。

「う……あ、れ……?」

起きたのか名前が体を揺らした。それから顔をあげて迅の顔を見て、「…………?」と首を傾げる。ぼーっとした顔に「おはよ」と声をかけると「ああ、迅さんか……」と納得したように言っていた。

「おはよ迅さん……あれ、なんで迅さんが私の部屋に? 不法侵入だよ?」
「俺の部屋ですよ名前さん」

指摘するとむにゃむにゃとした顔のままぐるりと部屋を見て、「ああ、こんな恐ろしい部屋は確かに迅さんのだわ」と失礼なことを言って来た。ぼんち揚げの箱買いがせいぜい20箱くらいのどこが恐ろしいと言うのだろうか。

「お前なあ、男の部屋でぐーすか寝こけるのはダメだろ」
「男の部屋じゃないよ。迅さんの部屋だよ」
「屁理屈言うんじゃありません」

反論してきた名前になおも「ダメ」と念を押す。名前はえー、と文句ありげだが、やはりこういうことは駄目だと認識してもらいたいものである。

「別にいいじゃん。迅さんを男と認識したことはないよ」
「おっ、まえ言っていい事と悪いことがあるだろ……」

せめてそういうのはもっと遠回しに言ってほしい。ド直球で「お前タイプじゃない。すまんな」と言われたようなものである。あ、なんか腹立ってきた。俺だってタイプじゃないわいと言ってやりたいが、そこは年上としてぐっと我慢した。

「ていうか、そういう話じゃありません」
「へいへーい」

適当に返事をする名前にこのやろう……と迅が睨みながらようやくベッドから出た。名前はぐでーんとまだベッドに寄りかかって「迅さん寝てるときは純粋そうに見えたよ、ひひ」と言っていて、反省の色が全く見られない。部屋から追い出してやろうか。

「……お前がそんなんだと、迅さんは心配だよ」

はあ、と溜め息をつく。子供っぽいところがあるのはいいが、年頃なんだから距離感とかをもっと考えてほしいものである。まさかよそでもこんななんじゃないだろうな……と迅が考えていると、視界の中の名前がぼけっとした顔をしていた。「どしたの」と迅が言うと、「……迅さんって」と名前が口を開いた。

「なに」
「お母さんみたい」

がんっと頭を殴られた気分になった。言うに事を欠いて、男子高校生にお母さんは流石にないんじゃない。そう訴えると「最上級の褒め言葉なんだけどなぁ」と言って名前は首を傾げていた。

「いやいや。大体、レイジさんのほうがよっぽどお母さんでしょ」

迅の言葉に、「うーん、そうなんだけど」と名前がなにかを考えるように視線をさまよわせた。

「でもやっぱ、迅さんはお母さんっぽいよ」

お小言言うから、と名前がいい笑顔で言った。それに対してあのなぁ……と迅が返そうとしたとき、ぐうううと自分の腹が鳴る。ああ、そういえば寝過ごして食事を取り損ねてたか。空腹を感じてそれに気付くと、手を口元にやり明らかになにかを忘れてましたみたいな顔で「あ」と名前が言った。

「ご飯! 忘れてた!」
「うおっ、え?」

急に手を引かれた迅が驚いた顔をする。早く早く! と名前に手を引かれて、迅は部屋から引っ張り出された。


▽▼▽


リビングに行くと、小南と陽太郎がテレビを見ていた。戦隊ものがこの時間にやってはいないだろうから、録画していたものだろう。皿を磨いていたレイジは名前を見つけると、「迅を呼びに行ったんじゃなかったのか?」と呆れたように言った。

「戦略的睡眠をちょっと……」
「……寝てたのか」

名前の言葉に察しがついたレイジが苦い顔をする。えへ、と笑ってごまかす名前の後ろから迅がご飯がどこにあるのかを聞くと、冷蔵庫にもう入れてしまったそうだ。まあこれだけ時間が経っていては仕方がない。迅が冷蔵庫からラップのかかった皿を取り出していると、つつつ、と名前がレイジの隣に歩いてきた。

「レイジさんさぁ、お菓子の家作れない?」
「お菓子の家……?」

「クッキーとマカロンで形作ってさー」温めるため電子レンジに入れた皿がぐるーと回っている。中身を見るためのガラス部に反射して見えるレイジとその横に立ってお菓子の家をねだっている名前の姿はまさしくお母さんと子供のようだ。

正直、レイジを差し置いて自分が母親扱いなのは非常に不本意だと迅は思った。せめてイケメンなお兄ちゃんくらいの扱いをして欲しい。多分名前に言ったら鼻で笑われるだろうけど。

お小言とかなんとか言っていたが、そんなに言っているだろうか。自分はただ、常識の足りない名前が心配なだけである。学校やら自分のいないところで困ってしまわないかとかそういう……そこまで思って、「……あ」と迅は少し名前の言った意味を理解した。

…………まあ、いっか。

母親なんて立派なものにはなり得ないけれど。自分にもその真似事くらいはできるだろう。彼女の、心配をするくらいは。

「……レイジさん作ってやってよ。この子夢に見ちゃうくらいお菓子の家が食べたいんだよ」
「えっ」

「なんで迅さんが私が見た夢を知って……?」と驚きのまなざしが向けられる。夢透視のサイドエフェクトでもあるのかと疑いだした名前に、「ママはなんでもお見通しよ」と笑っておいた。

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