S寄りのM





「はっはっは、久しいな我が肉奴隷よ!!!」
「はぁああ、お会いしとうございました、蜻蛉様!!」
「今日もまた一段と物欲しそうな顔をしておるな!!ははは、悦いぞ悦いぞ!!このメス豚が!」
「…で、君は誰だ!?」




数分前。凛々蝶が妖館に双熾と共に帰ってきた時であった。

「あの、すみませんが」
「?」

ふと声をかけられて二人は振り返った。そこには20前後の女性が一人。頭に青い牡丹の花を付けている、美しい人だった。

「青鬼院蜻蛉様はいらっしゃいますでしょうか?」
「…な、君は…彼の知り合いなのか?」

凛々蝶が驚いていると、女性ははっと双熾を見る。

「って…双熾じゃない!」
「お久しぶりです、牡丹さん」
「???」

突然の二人の反応に驚きを隠せない凛々蝶。驚きと困惑で二人を交互に見る。

「凛々蝶様、この方は幼少の頃からのお知り合いの方で…」
「双熾、それよりも蜻蛉様に!!」
「え、な…どういう…」
「お話は後ですね」

凛々蝶、双熾揃っての発言。若干引き気味の凛々蝶に対し、双熾は相変わらず笑顔だが。

「確か…昨日また帰ってきていたな…」
「ではご案内致しましょう」





そして冒頭に戻る。先程までの清楚そうなイメージから一気に女性は変わり、相変わらずの蜻蛉にまるで文字通り下僕のような感じに…。

「なあにあの子!あいつは気に食わないけど、可愛い顔して下僕キャラ!?メニアック!!」
「やっほぅ、ぼたたーん!」

野ばらが興奮し、残夏が牡丹に駆け寄り、色々とテンションが半端ないラウンジ。そのテンションに凛々蝶はついていけない。

「ははは、どうしたメス豚、突然!」
「蜻蛉様が妖館に帰られたと聞いて私いてもたってもいられなくて…!!」
「寂しかったか!?無様だな、私にいいように振り回されていたようだ!」
「……………」

呆然とする凛々蝶に残夏がくるくると回りながら解説を始める。

「ちよたん、ぼたたんはボク達の幼なじみの紅一点なんだよ〜」
「え。…彼女もか?」
「そうそう〜彼女おもしろくってねー」
「…面白い…」

改めて凛々蝶が蜻蛉と牡丹を見れば相変わらず…そこでひとつ気付いたことがある。

「…夏目くん。…彼女は」
「うん、すっごいMだよ」
「………」

背筋をぞわわっとする何かが駆け巡った。自称Sの蜻蛉にとってはまさに最高の玩具的な人が現れてしまった。ぐるぐると頭の中に危ない展開が予想されてしまう。その時、すっと凛々蝶の前にいつの間にか牡丹が来ていた。

「!?」
「先程はいきなり取り乱してごめんなさい、白鬼院凛々蝶様。魚海月牡丹です、一応人魚の先祖帰りですのよ」
「…あ、ああ、君も先祖帰りだったのか」
「蜻蛉様の下僕兼残夏、双熾、卍里とは幼なじみです。凛々蝶様のお噂は予々♪ほんとに可愛らしいお方…」
「…ふんっ。自ら下僕と名乗るような奴は好かんな。…よろしくお願いします」

やっぱり最後はデレてしまう凛々蝶。そんな彼女に牡丹はにこりと笑いかけた。すると残夏が付け足し。

「あ、ちよたん実はね、ぼたたんは」
「どうした肉奴隷よ!!私を放置プレイか!?」
「………ちょっと黙ってくれない、蜻蛉」
「え」

いきなり牡丹の声色が変わり、凛々蝶がビク、と反応した。先程までの下僕っぷりはどこへやら、蜻蛉を振り返る牡丹の態度は…

「私は今凛々蝶様とお話してんのよ、アンタちょっと黙ってて変態仮面」
「悦いぞ悦いぞー!!最高だ、この快感!たまにはMも悪くはないなー!」
「はぁ…全く、何を言ってるのかしら」
「な……何が起きたんだ…」

もはや状況についていけない凛々蝶。

「魚海月たんはねー、Mとノーマルの二重人格なんだよー」
「本人は無意識らしいです」
「無意識の二重人格……」

にこにこと解説をしてくれる残夏と双熾。幼い頃から何度も見慣れているのだろう。普通なのにドMの二重人格者、凛々蝶は気が遠くなったとか…




















その晩、屋上に牡丹はいた。冷たい冬の風を浴びて牡丹は眼下の町を見下ろす。

「放置プレイもなかなかだろう?」
「蜻蛉」

声がした途端、牡丹は振り返って蜻蛉の胸に飛び込んだ。その瞳にはうっすらと涙が。

「会いたかったのに…っなんでいっつも出かけてるのよ…」
「わざわざ貴様と会わないようにしてやったのだ、これぞまさにドS!貴様が寂しがる様が見れなかったのが残念だ」
「意地悪…」

人前では見せない、素直な気持ち。ノーマルでもMでもない、もう一つの心。





幼い頃から牡丹は蜻蛉が好きだった。人魚の先祖帰りである彼女も一般人から遠ざかり過ごしてきた。時に寂しく、悲しい気持ちで泣いていた牡丹をいつも笑わせてくれたのは蜻蛉だったからだ。

「で、これから貴様はどうするつもりだ?」
「…ここで働くの。……そうしたら、ここで待ってられるし」
「肉奴隷のくせに待っていると?ふはは、生意気だな!ドMが!」
「……バカ」

牡丹がMの心を持ったのは、年頃になるあたりだった。蜻蛉の言動に惹かれ、次第に言いなりになることが多くなった。だが、元の性格も残っており、自分が知らない間に入れ替わっているらしい。それでも蜻蛉は自分に構ってくれる、それだけで…。

「…牡丹」
「……ん?」

仮面をつけた顔が近付いてくる。そして夜の闇に二人の影が重なる。



「愛している」




それは彼なりの精一杯の愛情表現。



S寄りのM




■あとがき
いぬぼくシリーズです。お相手は蜻蛉様。牡丹は人魚の先祖帰りで通常性格とドMの二重人格者(というか性格が変わるだけ)。
続くというか、同じヒロインでいろいろ書けたら書きたいです。やっぱり更新率は不定期(泣)



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