08











いつからだろうか







私に不適に笑いかけるあなたに胸が高鳴り始めたのは








あなたのマグナムの音が心地よくて




あなたの帽子から覗く目に惹かれたのは














いつからだった?
























ゲイルの事件から一日。イヴはルパンのアジトの窓から空を覗いていた。その表情はぼーっとしている。

「ねぇちょっとルパン、あなた話しかけなさいよ!」
「無理言うなよ不二子ちゃ〜ん…さすがの俺様でもあんなイヴちゃんに話しかけるなんて無理でしょぉ〜…」
「何やら複雑な表情…食事もロクにとらずにおる…」

恐る恐る部屋の外からイヴを覗き見る不二子、ルパン、五ェ門。百戦錬磨の彼らでも、今のイヴには何故か話しかけづらかった。




「何やってんだお前ら?」

そう声をかけたのは次元である。不二子は振り返るなり、次元の胸ぐらを掴む。そして小声で叫ぶ。

「次元!!あなた!!」
「な、なんだよ」
「あなた、イヴに何をしたのよ!!」
「は?」

全く身に覚えのない次元。さらに五ェ門まで賛同する。

「左様!お主、それでも男か。イヴに何か言ったのであろう!」
「何言ってんだか知らねえが…イヴに何かあったのか」

急に表情を変えた次元に彼の胸ぐらを掴んでいた不二子は怯んだ。

(次元…ほんとにイヴのこと…)
「イヴは部屋か」
「あっ、ちょっと!」

不二子の手を払ってずかずかと部屋に入っていく次元。











「イヴ」





「あ………っ」










部屋に入ってきた次元に目を見開くイヴ。二人の目が合うと、イヴの表情がまるで辛く悲しいかのようになった。

「イヴ…?」
「………っ」






(やめて






私を呼ばないで)








「イヴ…どうした…?」
「………なんでも、ない…」






(お願いだから





私を見ないで





気づいてしまったら最後
私はただの女になってしまう








あなたを愛してしまいそう)







ふっと顔を反らして次元を見ようとしないイヴ。次元は不思議そうにイヴを見た後、ソファーに座るイヴの目線に合わせて座り、俯く彼女の顔を覗き込んだ。その行為にイヴは驚き、頬を染める。

「…なっ!!じ、次元!?」
「何があった…?」

そっと頬に手を当てて呟く。

「…次元…っ」
「昨日の今日だからな…ゲイルの野郎はもういねえ…安心しな」

今にも泣いてしまいそうなイヴ。頬に触れる次元の手が温かい。








(違うの、次元…



あなたの温もりが愛しいから
甘えてしまいそうになる






ねぇ次元
私は五年前のあの日から
気付かずにあなたに恋をしていたのかもしれない



あなただけは助かってほしくて



私はあなたを廃墟から突き落とした





あなたの体が炎に焼かれるよりいいと
あの高さなら助かると






私の体は焼かれても構わないから
だからあなただけは助かってほしかった









全部全部あなたが好きだったから)













あの爆発の後、イヴが目を覚ましたのは現地の村で。

「娘さん!大丈夫かい?」
「ここは村だよ、お嬢さんは爆発に巻き込まれたんだ。いやあ、でもよく生きてたね」
「お嬢さん…軍人の戦争に巻き込まれたんだね、可哀想に。おっと、動いちゃダメよ!ひどい骨折なんだ、生きてるのが不思議なくらいだよ」


爆発によって崩れた壁や柱に挟まれ、炎で焼かれはしなかったが身体中の骨が砕け、身動きひとつとれない状態だった。その村で一年半の療養をし、ようやくアメリカへ帰ってきたイヴ。

(軍に戻る気なんて無かった。私は一度死んだ…軍に居たって意味は無い。




次元のいない場所なんて皆同じ…




私は正体を隠すため、マスクを付けて殺し屋をすることにした。性別もわからないようにコートを着込んでボイスチェンジャーを付けて。暗殺は手慣れてる。…でももしかしたら、心のどこかで次元の情報を聞きたかったのかもしれない







そしてやっと)


「ああ、最近ここいら騒がしくてね。アレだよ、ルパン三世」
「…ルパン、三世…」
「そうそう。ルチアーノんとこのマフィアからダイヤ盗んだのさ。あんたも知ってんだろ?いやぁ、しかも強いのなんの。ルパン本人だけでなく、向こうには次元大介もいるからな」
「…!!!次元、大介…!?」
「おや、珍しい。あんたが食いつくなんざ。正体不明の殺し屋さんが」
「…」





(生きていてくれた
それだけで嬉しかった







そんなある日、私は依頼を受けた


ターゲットは教えてもらえなかった)



「大英博物館にあるエジプトファラオの棺を盗ってこい。必ず、邪魔しに来る奴が来るはずだ。そいつらは確実に殺せ」



(依頼主はマフィアのボスとしか名乗らなかった
私達の世界じゃ身分を明かさないなんてよくあることだったけどそれはゲイルだったのね


そうして私は大英博物館に忍び込み、ルパン達と会った──
だけど大英博物館では暗闇にいて相手がルパン達だとはわからなかった


正体に気付いたのは二度目
棺を奪うためにルパン達のアジトへ向かった時
私はルパンの罠にかかり、五ェ門に斬られた




その時初めて





ターゲットがルパン一味だったこと



次元がいたことに気付いた





私は次元を知らずに殺すつもりだったの?
でもあなたは






そんな私を受け入れてくれた)







「…ごめん…ごめんね…次元…っ」

そっと涙を流し、謝るイヴ。

「なんで謝る…?」
「…っ言えない…」



(言ってしまったら




今までの私全部ダメになってしまいそう


次元を好きな“女の私”





女なんてとうの昔に捨てたはずなのに





ならば私はここにいてはいけない…)










ただ泣き続けるイヴに次元は黙っていた。彼自身、気付いているのかもしれない。

「……イヴ……」









次元はそっと、それでいて強く




イヴを抱き締めた。



「…!!次元…」
「……何があったか知らねえが


お前らしくねえだろ」




短い抱擁だったが、それは何よりもイヴの心に響いた。あまりにも愛しくて、部屋を出ていくその背中にすがりつきたかったがイヴにはそれが出来なかった。































その夜、パソコンをいじるルパン。何やら調べているらしく、真剣な表情だ。

「…何をコソコソやってんだ?」
「…あら次元ちゃ〜ん!まだ寝てなかったのォ?」

ころっと表情を変えて笑顔で振り返るルパン。背後には次元がいた。

「ケッ、何が引っかかるっていうんだ。そのデータ、イヴのだろ」
「…実はな、ゲイルの野郎が黒幕じゃねぇっぽいんだ」
「……なんだと?」

イヴのオッドサファイアを狙っていたゲイル。さらにその上がいるというのだ。

「いんや、ゲイルを調べてたらヤツはただの組織の末端に過ぎなかったってわけ。で、ハッキングしていったらコイツが現れた」

ルパンが次元に見せたパソコンの画面には顔に傷のある大柄な男がいた。

「コイツは!」
「!次元、知ってんのか」

見覚えのある顔。何年も昔の話だ。

「俺が殺し屋時代に何度か仕事を一緒にした。名はトリキシー。…金のためなら手段を選ばねえ野郎さ」
「成程な。そのトリキシーがゲイルのボスだ。その証拠に、トリキシーの部屋に仕掛けた盗聴器からトリキシーの声が聞こえた」

ポチ、とパソコンのキーボードを押すと盗聴器の声が再生された。

『申し訳ございません、ボス!ゲイルさんが次元大介にやられ…』
『次元…久しぶりに聞く名前だ。そうか、奴が女を守ってんのか。ククッ、あいつ…ルパン三世と組んでるって聞いたが。オッドサファイアを横取りというわけか。あの女を必ず捕まえろ!次元は…





俺が殺る』



「……」
「イヴはまだ狙われてんだよ。守ってやれんのはお前だけだろうが。次元」







──次元













次元…













「……俺は女なんか…好きにならねえって…思っていた…」

ぽつりぽつりと呟くように言った次元。明らかに態度が違った。ルパンはただ黙って聞いてやる。

「女は裏切り、欺き、欲ばかり…少なくとも俺はそういう女にしか会ってこなかった。女なんか全て同じだと思った





それなのに──…あいつは俺の前に現れて…俺の命を救い…再び現れた。その強さと優しさが何度俺を救ったか。……血にまみれた俺に笑いかけた…」

微笑んでいる姿が愛らしく
泣いている姿が憐れで
その全てを愛したくなった










「好きだ…」












そんなイヴが
愛しくてたまらない



next...





■あとがき
キャハー!!!なんか感情を大事にするって難しいアル!(笑)
次元の気持ちも書いてみました。あの女嫌いをいかに惚れさせるかスゴク迷いました。とりあえず、彼は戦友で命の恩人なら心を許すのかなって(笑)
つーか今回短すぎる!ごめんなさいね!(泣)
次回、もう一人のボス・トリキシーとバトります!そろそろ終わらそう。


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