07






夜闇に紛れてルパン達はゲイルのビルに忍び込む。排気溝の中は意外と広く、匍匐前進しながら大人たちが通れるくらいだった。そんな静かな空間に…

「きゃっ!?」

小さな悲鳴が響いた。同時にバキッという殴るような音。

「ルパン!てめぇ!」
「いたたた…事故だってぇ、次元ちゃん!」
「破廉恥な…」

実はルパンが目の前にあったイヴの尻を触ったらしい。ゲイルの部屋への道はイヴしかわからないため、匍匐前進の順番がイヴ、ルパン、次元、五ェ門の順番になったがそれが仇となったらしい。

「ルパン!!!何するのよ!!!」
「い、いやぁ〜イヴちゃんそのカッコすっごーく色っぽいからさぁ〜」

今のイヴの服装は初めて会った時にコートの下に着ていたものと同じ。胸元の開いた黒の全身タイツに紺色のアーマー。体のラインが浮き出て確かに美しい。

「ルパン、いい加減にしやがれ!」

なかばキレた次元にルパンは苦笑い。イヴから匍匐前進したまま、蹴りをお見舞いされたのであった。
















「ここがゲイルのオフィス。私は前にここで依頼を受けたわ」

天井の排気溝からルパン達はゲイルのオフィスにたどり着く。広いその部屋には多くの宝石達や女の写真が飾られていた。

「なんという悪趣味な部屋だ」

軽蔑するような眼差しの五ェ門。ルパンはデスクに盗聴機を仕掛けた。その表情は先程のやらしい表情とは全く違った。

「不二子が時間を稼いでる間…俺達はここの宝石類をいただくってわけさ」
「しっかしルパン、こんだけの宝石どうやって運び出すんだ」
「そりゃあ、ゲイルのヘリを借りるのよぉ##35##」

かわいこぶるルパンにため息をつく男二人。イヴはそわそわしたような感じだ。

「…っルパン…やっぱり…私、行ってくる」
「!…イヴ、行くのか?」

自分を騙したゲイルを許さない。イヴは自ら決着をつける気だ。

「ここから先は契約に入っていない。私一人でやり遂げるわ。だからルパン…あなた達は宝石を持ってヘリで脱出して」
「何言ってんだイヴ!お前一人じゃ何があるかわからねえぞ」

ついていこうとする次元。だが、イヴはそれを制した。

「私はこれでも…今まで一人で仕事…してきたのよ?…次元、あなたとは…ただの契約仲間。…でもその契約も、もう終わり。あなたたちの目的は済んだはず。」
「だが…!」














「くだらない馴れ合いは身を滅ぼすだけよ」







冷たく言い放ってイヴは部屋を出て走り出した。








「イヴ!!!」




























ルパン達が宝石を回収するまで時間を稼ぐのが不二子の役目。別の部屋で彼女はゲイルとワインを飲んでいた。

「美味しい。社長はたくさんのワインをお持ちね。宝石みたい」
「ああ。この世には美しいもんが山程ある。中でも宝石は特別だ。裏切らないからな」

ゲイルは満足げに指に嵌めていたダイヤの指輪をシャンデリアに掲げた。

「俺は今でも最高の宝を求めてる…」
「最高の宝?」
「幻の宝石、オッドサファイアだ」

不二子はハッとした。ルパンから密かに聞いた、イヴの本当の秘密。

(イヴの左目の眼球…。フン、あたしだってイヴの目をえぐってまで欲しがらないわよ)

自分を信用しなかったルパンへの悪態を心中で呟く不二子。

「幻…?素敵ね」
「世界に一つしかないサファイアだ。だが、それは特殊な“入れ物”に入ってる。その入れ物をうまく利用したのさ、俺は」
「どういうこと?」
「実はな、オッドサファイアはある女の左目そのものなのさ。その女は殺し屋。俺は元々邪魔だったルパン三世を殺すようにその女に命じたが、どうやら失敗してな。だから俺は今夜、ルパンも女もここに呼び寄せた」
「!?」

ルパン達が来ることを知っていた!不二子は身の危険を感じてブローニングを構えた。

「あんた…!あたしのことも気づいていたわけね!?」
「ああ、そうさ峰不二子。イヴは凄腕の殺し屋だったからな、俺達が相手じゃ敵わねえ。だがあのルパンならイヴに手傷の一つでも負わせてくれんじゃねえかと思ったが…。だからそのためにイヴに女だとわからないような格好をしていけと言った。ところが、イヴはルパン達に拐われ…次元大介と真っ昼間から堂々と町を歩いていやがった。それで調べてみたら驚いたぜ、イヴが次元と軍人時代に会っていたとは」

ゲイルは楽しそうに笑った。

「あいつも所詮、女だ…おそらくあいつ自身気付いていないだろう。あいつは次元大介に惚れたんだ」
「…あら、あんた今頃気付いたの?」
「何?」

なんとかこの状況を打開するため、不二子はハッタリを言った。

「イヴと次元は昔から付き合っているのよ?つまり、イヴに手を出せば次元が黙っちゃいないってこと」
「…ほう」
「オッドサファイアはずっとイヴの左目にあるべきなのよ。あんた達みたいな奴等に渡ることはないでしょうね」

不二子がにやりと笑ったが…




















「ゲイル!!」









部屋に響き渡る可憐な声。だがそれは怒りと憎しみに溢れていた。

「あ…!!イヴ!!!あなた、なんでここに来たのよ!」
「ほう…イヴ…自らやって来たな」

キンバーカスタムをゲイルに向けるイヴ。

「ゲイル…よくも私を騙したな!」
「お前自身気付いていたんじゃないのか?俺がオッドサファイアを狙ってるんじゃないかと──」

イヴはゲイルを強く睨んだ。同時にゲイルが指を鳴らすとあたりにざっと30人程の部下達が。

「ちょっとぉ、あたしまでぇ!?」
「悪いな不二子。恨むならイヴを恨め。イヴ…お前のオッドサファイアをいただいた後、眼帯なりなんなりでもしてやるぜ。いくら隻眼とはいえ、見かけは…美しいからな」

部下に言ってイヴを拘束させ、顎を掴む。

「入れ物も十分に可愛がってやるさ」
「…っ」






















その瞬間














ダァァンッ!!!













聞き慣れた銃声






その銃口は怒りに満ちていた












「そいつから離れろ…」










マグナムの銃弾はイヴを拘束していた男二人に一発ずつ当たり、二人は倒れた。

「な…なんだと!?てめえは!!!」















黒いガンマンの黒い帽子からは鋭い目がのぞいていた。

「その女、返してもらおうか」













「次元大介!!!てめえ、この女に用はねぇはずだ!」
「いいや、たっぷりとある。俺はまだこいつに償いきれてねえ」
「なんだと?…そうか、てめえ…この女にあらぬ幻想でも抱いてるってのか!?こいつに惚れてるから、命を懸けて守りたいってわけか!!!」
「え…!」

イヴは驚いて次元を見つめた。







(次元が私に…惚れている…?)









ゲイルは続けた。

「ハッ、世界一のガンマンともあろう男が…こんな“宝石入れ”に惚れるなんざ!!!こいつは所詮、オッドサファイアの入れ物に過ぎねえ!!!」
















「黙れ」

















ダァァンッ!!!














その一発は









見事にゲイルの心臓を貫いた。





「がっ…はぁ…!!」
「……いいか、イヴは…入れ物なんかじゃねえ」





次元は座り込んでしまっているイヴの手を引き、その腰を抱き寄せた。もう片手にはマグナム。






























俺が愛した女だ























「次元…!?」

驚いて次元を見上げるイヴ。いつもと変わらない顔のはずなのに何故か男らしさを感じた。

「……」

何も言わず、イヴを見つめ返す次元。








(違う…私は……






私は次元よりも先に…)



















「イヴ、次元!!」
「無事であったか!」

部屋に駆け込んできたのはルパンと五ェ門。次元はぱっ、とイヴから離れて何事もなかったかのように振る舞う。

「ああ。野郎は片付けた」
「イヴちゃん、大丈夫?」
「え、ええ…」

そんなルパンの足を踏みつけたのは怒っている不二子。

「いったぁあ!何よ、不二子ちゃん」
「ルパン、あなた本当なデリカシー無いのね!」

その台詞にルパンは何となく彼らの身に起きたことを理解した。

「あちゃ、お邪魔だった?」
「いーや、別に?さて、ヘリの準備はできてんのか、ルパン」

本当にいつもと変わらない態度の次元。部屋を出ていこうとするその背中をイヴは見つめていた。











(違う…







次元……私はあなたより先なの






私は…



















あなたより先にあなたを好きになってた)



next...





■あとがき
イヴが自分の想いに気づきました。これからクライマックスに入っていきますよ!

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