05





ニューヨークのとあるビル。最上階の一室には不二子がいた。その手には輝くダイヤの指輪が。

「ンフ##35##社長…素敵なダイヤねえ」
「君のために用意させたダイヤだ。だが君の美しさには敵わないよ」
「あら、うまいんだから##35##」

社長と呼ばれた男は不二子の肩を抱く。内心ため息をついた不二子はふっと部屋を振り返った。

(…!?あれは)

その時、彼女はあるものに目がいった。男のデスクに置いてある書類や写真の中。写真立てに飾られている写真に不二子は見入った。

(イヴ…!?)




































「ん〜いいねえ、ニューヨーク!都会もなかなかのもんよ」

ルパン達は組織の男達を追ってニューヨークに来ていた。ビルが立ち並ぶ大都会。このどこかにイヴの雇い主…彼女のオッドサファイアを狙う人物がいる。

「ねえ、そういえば不二子は?」
「ん〜それがねえ、次元とイヴちゃんがデートに出掛けた後すぐに仕事が入ったって言ってどっか行っちゃったのよ〜。まあそれで奴等の急襲に遇わなかったんだけどねぇ」

苦笑いしながらルパンがイヴの問いかけに答えた。

「心配することはない。不二子はそういう女でござる」
「裏切りばっかしやがるとんでもねえ女だ」

ため息混じりに証言する五ェ門と次元にイヴは不二子の実態が多少気になった。

「ルパン、運転代わる?」
「いや大丈夫やめてお願い。それに俺様がこ〜んなに可愛いレディを運転させると思う〜?」

にやにやと笑いながら運転するルパン。イヴは後部座席で真っ赤なフレアスカートにサーモンピンクのカーディガンを着ていた。勿論、ルパンのプレゼントである。

「…っ」

スカートと同じくらい顔を真っ赤にするイヴ。その隣に座る次元もわずかにイヴに見とれていたが、そんな自分に気づいてすぐに顔を反らした。

「次元ちゃん、どーよ?可愛いでしょ〜」
「ケッ…」

ルパンと違い、女を褒めるといったことをしない次元。隣に座っていながら、次元はイヴをまともに見れないでいた。

「雇い主の名前はわからなかったのか、イヴ」
「名乗らなかった。私も聞こうとはしなかったわ」
「ま、名乗れねえ立場ってやつか」
「ルパン、発信器はどうなのだ」
「ちゃんとわかってますよ〜奴等の巣は……ここだぜぇ」

そう言って一つのビルを見上げたルパン。次元、イヴ、五ェ門も同じようにビルを見る。

「おいルパン、ここは…」
「そうよ。世界的な宝石商バース・ゲイルの本社だ。ま、裏ではマフィアのボス…っての有名だよなぁ」

にんまりと笑うルパン。つまり、イヴの雇い主はバース・ゲイルであるということ。

「ゲイル…っ」
「イヴちゃん、どうする?仕返しする?」
「勿論よ」
「よっしゃあ、俺様一肌脱いじゃおっかな〜」

腕まくりをするルパンに慌てて駆け寄るイヴ。

「ま、待ってルパン!あなた達に協力してもらう義理は…」
「お前一人で行って何ができる?」

そう言った次元にイヴは軽く睨んだ。

「向こうはお前を待ち構える罠を仕掛けてるかもしれねえ。お前一人じゃ無理だ」
「…そうかもしれない…男は…そういうものだから」

そう言ったイヴに対して次元は深いため息をついた。

「そうでござるよ、イヴ。お主は我らが守る」
「そんな…私を守ったってあなた達にメリット…」








プルルルル








ちょうどルパンの携帯がタイミングよく鳴った。

「もしもし?」
『ルパン!今どこ!?イヴはいるの!!!?』
「あらぁ、ふーじこちゃぁん!」
『ルパン!!ちゃんと答えなさい!』
「はいはい。今、ニューヨークよ。イヴちゃんも一緒」
『やっぱり…!今、あたしもニューヨークにいるの。ゲイルっていう宝石商知ってるでしょ』
「!…まさか不二子」

急にルパンの口調が変わった。

『ゲイルはマフィアとしても有名。そして宝石マニア。ねえ、そんな奴の部屋にどうしてイヴの写真があるのよ!!!』
「ゲイルの野郎の部屋にイヴの写真…!?」

口にしたルパンの言葉に次元、イヴ、五ェ門もルパンを見た。

『びっくりしたわよ。まるで恋人みたいに写真立てに入れてあるんだから!』
「間違いねえんだな不二子…。……で、お前なんでゲイルのとこにいんのよ?」
『ゲイルが持ってる宝石目当てよ##35##倉庫に山ほどあるんだからぁ##35##』

幾分かいつもの余裕さを取り戻してきたルパンの口調。その口許は笑っていた。

「わーった。情報提供ありがとな不二子ちゃん##35##」
『んもう、ルパンたらぁ##35##愛してる##35##』

そんな調子でルパンと不二子は互いに携帯の電源を切った。

「ルパン、不二子の話…」

内容が気になる次元が急かす。ルパンは振り返ってイヴを見た。その表情は獲物を捕まえたようなにやりと笑った顔。

「ルパン…?」
「イヴ、これは提案だ。俺達は君をゲイルから守る。その代わり、君は俺達に協力してくんねえか」
「協力?」
「俺達はゲイルの持ってる宝石類を頂く。その手伝いをしてほしいってわけよ」

今までに見たことがないくらい真剣で余裕のある笑顔を見せるルパンにイヴはぞくりとした。

「イヴは自分を狙う奴等を消せるし、俺達は宝石を手に入れる。勿論、イヴにも分け前はある。ギブアンドテイクでしょ?」
「……」

少し警戒するような目を向けてくるイヴ。ルパンはわずかに苦笑い。

「あちゃ、信用できない?」
「…男はすぐ裏切るから」
「いやいや、女だって…いやっ、それは不二子ちゃんだけかも」
「…イヴ、ルパンは女に嘘はつかねえよ」

今まで黙っていた次元が口を開いた。イヴは次元に何か訴えるような目を向ける。そして暫く考えた後。








「……わかった…手を貸すわ」
「よし!じゃあ契約成立だな」

ルパンとイヴの手が握られた。

























ニューヨークにあるアジトでルパン達は夜を過ごす。時刻は午後1時。

「あーあ、イヴちゃんこんなとこで寝たら風邪ひくよ」

ルパンが見つけたイヴはリビングのソファーでぐっすりと寝ている姿だった。呟いた直後、チェアーに座って煙草を吸っていた次元が立ち上がり、タオルケットをイヴに掛けてやった。その姿にルパンは僅かに驚く。今までもイヴに対して次元はどこか優しかった。

「次元…お前、イヴがどうしてあんなに…」
「用心深いか、ってか?男に」

イヴの髪を撫でてもといたチェアーに戻る次元。リビングの端には五ェ門もいて、それを聞いていた。

「昔の話だ…こいつを女として見たことなんか無かった。こいつは…『上官』だったからな」






































五年前、2004年。




──あの時、俺は気紛れで高収入の仕事に就いた。まあ、一般人の仕事じゃねえ。米軍の特殊任務だった。








米軍基地。とある施設の一室に大勢の兵士達が集められていた。半数は金で集められた傭兵である。この特殊部隊は非常に危険な任務を行う為、兵士の人員が足りない。だから、傭兵を雇うことになった。その一人が次元であった。

(ったく…以外と人数がいやがるな。この様子じゃ、減給にもなりかねねえ)

部屋の隅で次元は相変わらず煙草を口にしながら感じた。どいつもこいつも体つきがよく、悪人面。金目当ての連中が多い。

(てめえらじゃ、明日にでもお陀仏だろうよ)

いかにこの部隊が命懸けかを知らない奴等ばかり。次元はそいつらとは違い、多くの情報を得ていた。






すると、部屋に近付く足音が聞こえた。軍人特有のブーツの音。









やがてその足音の主は部屋に入ってきた。補佐官が叫ぶ。



「聞け!メイフィールド大佐からのお言葉だ!」















そこに凛々しく立っていたのは黒髪の若い女だった。





「イヴ・メイフィールド大佐。私の部下となったからは死も覚悟だ」


意思の強そうなオッドアイの青さ


艶やかな黒髪



(女…?)

女嫌いの次元は僅かに内心舌打ちした。まさか上官が女だとは彼も知らなかったからだ。そんな次元とは真逆でまわりの傭兵連中はいやらしい目付きで彼女を見て、にやついている。所詮は裏世界のチンピラだ。その視線に気づいているのかいないのか、イヴは冷たい視線で兵士達を眺める。

「いいか、私は貴様らのような傭兵が大嫌いだ。金目当てで忠誠を誓うこともない貴様らがな。だが、我が部隊は人手が足りない。だから仕方なく使ってやっているのだ。…それでも、私は一度部下となった者は見捨てない。





だから私の命令通りに動け!!いいか、我が軍の礎となること誇りに思って戦え!!!」
「「「「「「イエッサー!!!」」」」」」
(フン…女にしちゃあ、なかなかの統率力じゃねぇか。あんな奴等を一気に纏めやがった)




それが、次元とイヴの出会いだった。



next...





■あとがき
ニューヨークに辿り着き、次元とイヴの出会い回想シーンに。
これから回想モードで時間稼ぎ(笑)
ちなみに漫画置き場にある「二人の出会い」はここを描いています。

[ 5/11 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]