03
「何?イヴ・メイフィールドが失敗した?」
暗い地下室で男が怒鳴るように言った。
「はい。ルパン達に正体を見破られ、拉致されたものと…」
「クソッ!!いくら悪名高い殺し屋でも所詮は女か…!いいか、ルパン達は殺せ!だが、女は殺すなよ!!オッドサファイアは女が死ねばただの眼球なんだ!絶対に生け捕りにしろ!!」
「ひどいわルパン!!あたし以外の女を連れ込むなんて!!!」
アジトに響き渡る不二子の甲高い声。怒りに任せて怒鳴っている感じだ。
「そ、そう言うなよ不二子〜…イヴちゃんはそういうのじゃないんだからさぁ」
「あたしだけを愛してくれてるんじゃなかったの!?何さ、あの格好!そういうプレイなの!?」
二人の様子を唖然として見ているイヴを指差す不二子。確かに仕事の時のままだから服装はタイツのような黒と紺の仕事着で胸元は開いている。そういった類いのものと間違われても無理はない。
「ち、違うって!!イヴちゃんはお宝の秘密を知ってるの!」
「えっ、お宝!?」
苦し紛れにルパンが言った一言に不二子の顔つきが変わる。目を輝かせてルパンに迫る。
「ほんとに!?お宝ってどういうこと!?」
「だ、だからなイヴちゃんは幻の宝石オッドサファイアの秘密を握ってるわけ。で、組織に狙われてる。だから保護してあげてんのよ」
「そうならそうと言いなさいよルパン!ん〜愛してるわ##35##」
(ケッ、よく言うぜ。自分が言わせなかったくせによ)
ソファーでイヴの隣に座りながら煙草をふかしていた次元はそう思ったが、口には出さなかった。今回、ルパンが不二子を呼んだのはとりあえずの服やら何やら、同じ女性としてなにか協力できることがないかとの配慮のためだった。
「あ、あの…」
「ンフ##35##イヴって言ったわね。あたしは峰不二子##35##ねえねえ、あなたってお宝の秘密を知っているんでしょう?これからあたしが色々面倒見てあ・げ・る」
あえてイヴ自身がお宝だとは言わなかったルパン。不二子にバレると面倒くさくなるからだ。
「なら早速私の持ってきた服に着替えてちょうだい!きっと可愛いわよ〜」
「不二子ちゃ〜ん!実はイヴちゃん、次元のコレなんだわ」
「!?」
「なっ…ルパン!!!」
ルパンの突然の戯れ言に驚愕の色を隠せないイヴと次元。
「あらウソォ!!次元ってこういう子が好きなのね。オーケー、とびっきりの美人にしてあげるわ##35##」
次元にわざとらしくウインクしてイヴを連行していった不二子。静まり返った部屋はまるで嵐が去ったよう。
「ヌフフフ…どれっくらい可愛くなるかな、イヴ。今も十分可愛いけど」
「ルパン!何のつもりだ!」
「あら、いけなかったぁ〜?」
ケラケラと笑うルパン。
「俺とイヴはそんな関係じゃねぇよ!」
「そうかな?五ェ門ちゃん、どう思う?」
「……拙者はそのようなことには関せぬ。しかし、昨日のお主らは端から見れば仲睦まじき恋仲にも見えよう」
「五ェ門まで何言ってやがるんだ!!…あいつはな、俺が“死なせちまった”女なだけだ。俺が…罪悪感を感じたあの事件で失ったはずだった命」
今までにないくらい、次元の目が真剣みを帯びていた。彼の記憶でイヴは消せない罪であった。
「五年前、俺はあいつの指揮下である国の軍との戦場にいた。味方の兵士は全滅し、生きていたのは俺とイヴだけ。あいつはそこで…俺の命を救ったんだ」
「イヴが…」
「…だが俺を救った直後、敵兵の爆撃を受けた。イヴのいた洞窟は爆発し…俺はあいつが死んだと思った。あいつは俺を助けたがために死んだと……」
自分の命と引き換えに若い女を…あんなに美しかった女を死なせてしまった。それは今まで多くの敵を殺めてきた次元にとって辛く、消えない記憶となっていたのである。
「その女が…生きていて…自分達の命を狙い…そして今、壁を隔てた向こう側にいるんだ。…世話を焼いて、罪を償いたくもなるだろ」
ふー、と口から白い煙が湧き出る。ルパンは黙って聞いていた。
「………本当にそれだけか?」
「なんだと?」
「お前ほどの男が過去に囚われてるってのがひっかかってな。例え女であろうと、ただの昔馴染みなら…次元、お前は振り返りもしない。だが、もし…お前が気付かずにイヴに…」
「もうやめだ、ルパン。あいつはそんな女じゃねえんだ…あいつの傷が癒えたらおさらばだ」
そう、彼女の傷が治るまで。それ以降はもう関わらない。次元はそう決めていた。ただ、償いのためだけに救った命。
「……わーったよ、お前がそこまで言うんならな。まっ、別の男に盗られても文句言うなよ」
「…ケッ」
再び沈黙。しばらくすると嬉しそうに不二子が走ってきた。
「もうっ!!元が可愛いから全然メイクしてないのよ〜!本当に可愛いわ〜!!」
「おっ、イヴちゃんの出来映えそんなにいいの!?」
「もちろん!ほら、イヴっ、次元に見せてあげなさいよ!!」
不二子は恥ずかしがって出てこないイヴの背中を押してやる。
「うっひょ〜!!!可愛い〜!!」
「……!」
「……(可憐だ…)」
そこには清楚そうなブラウンのワンピースを着たまるでどこかの令嬢のようなイヴがいた。顔をほんのり赤く染め、ルパン達の反応を見ていた。
「…ど、どう…?」
先程の仕事着や、次元の記憶にある凛々しい軍服とは違う。見たこともないような『女』のイヴ。次元はあまりの美しさに声も出ない。
「何よ、せっかく彼女が可愛く着飾ったっていうのに何か言ってあげなさいよ!」
ルパンだけ賛辞の言葉を言ったのが気に食わないらしい不二子。
「バカ!違うっつってんだろ!…いや、まあ…だが……似合ってるとは思うぜ」
「…!次元…」
驚いたような表情をするイヴ。今まで着飾って、男にこんなに素直に褒められるということが無かったからだ。
「…あ、ありがと…」
かあああっと顔を真っ赤にして俯くイヴ。こんな女を誰が元軍人の殺し屋だと思うだろうか。そこでピンときたルパン。
「次元ちゃーん、買い物頼むわ!」
「はあ!?なんだいきなり!?」
「いや〜俺っち、突然ワイン飲みたくなってね〜」
「嫌だね、自分で買ってきな」
速攻でジャンケンが始まり、毎度のことながらルパンが勝利。
「あっ、あとイヴちゃん、トマトの缶詰買ってきてくれない?今夜のパスタに使うんだけっどもよ〜」
「えぇ?」
「ああ、言っとくけどお二人さん!
ワインが売ってる酒屋も缶詰が売ってるスーパーも隣町に行かないとないんだよね〜##35##」
「「………」」
「ったく、ルパンのやつ…」
現在、次元とイヴは次元の運転する車で隣町へと向かっている。
「俺一人でも良かったんだぜ?」
「ルパンは『私』に缶詰を頼んだの。自分の仕事は最後までやりきらなきゃ」
「ククッ…そういうところは軍人から変わらねえな」
ハンドルを握りながら次元は笑った。助手席でイヴは次元を睨む。
「あなたってほんと…っ!これは私の性格よ!」
「ははは、熱くなるなよ。お前さんの性格なら仕方ねえ。クールに見えて実は恥ずかしがり屋…ってか」
「ど、どこが!!!」
「そういうとこだよ」
普段は冷静沈着だが、極端に照れ屋。
「……っ私が照れ屋ならば次元は意地悪ね。あなたは昔はそんな人じゃなかった。確かに一匹狼のようなところはあったけど」
「『お前は組織じゃ生きられない人間だ』ってどっかの誰かに言われたことがあったよ」
「確かにその通りね…あなたは飼い犬が似合わない」
ルパンとまだ敵同士だった頃に言われた言葉。イヴもそれが当てはまると感じていた。
「イヴ……自由ってのはいいもんだぜ。何者にも縛られず…やりたいように生きる。…お前だってそうなりたいと願っているんじゃねえのか」
「……」
殺し屋なんて所詮、飼われている身。金で雇われ、自由とは程遠い。イヴは昔の次元そのものだった。
「………わかってるわよ…!でも私は………ッ!止めて、次元!!」
その時、イヴが次元に車を止めさせた。いきなり言われたものだから次元は急ブレーキを踏む。
「なんだ!?」
イヴは車から降りると何やら路地裏でしゃがみこんだ。次元が走り寄ると…
「…猫、か」
「捨てられてたから…」
イヴの目線の先には段ボールの中に一匹の猫。所謂、捨て猫。
「…お前ってこういう…可愛いとこあったんだな…」
「何よそれ!だってこんなに可愛いのに捨てるなんて!!」
かなりムキになっているイヴ。どうやら彼女は無類の動物好きらしい。意外なイヴの一面に呆然としている次元。
「ったく…」
次元はスーパーで買ってきたばかりの高級マグロをなんと捨て猫に放り投げたのである。そしてそっと捨て猫の頭を撫でてやった。
「…次元」
「飼い主が見つかるといいな」
「ええ…」
その時のイヴの笑顔といったら…。次元が思わず、煙草を落としてしまうほどだった。
「…じゃあそろそろ帰…」
バババババババ
凄まじい風圧と独特のプロペラの音。二人の頭上にはヘリがいた。そこにはこちらにマシンガンを向ける男が!
「「!!!」」
発砲してきた男。同時に次元とイヴは身軽にかわす。
「なんだ、あいつら!?」
「私の雇い主!!私が用済みってわけ…!」
イヴは車に乗り込み、エンジンをかける。次元も飛び乗るがその時…
「おお〜い!!待ってくれぇ〜!!!」
聞き慣れた声。二人が振り返ると同じようにヘリに追われて走ってくるルパンと五ェ門がいた。
「な、何だとぉ!?」
「ちっ…ルパン、五ェ門!早く乗って!!!」
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■あとがき
次元とのロマンス?編でした。これからも次元とはイチャイチャ(笑)しますが次回は謎の組織からの逃走!!イヴの意外な一面明らかに!
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[mokuji]
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