09






ニューヨークの夜は更ける。相変わらずのイヴと次元。互いに互いを想っていながら、互いの迷惑になるのではないかと口にしない。長年、裏世界で生きてきた二人だからこその感情。ルパンはため息をついた。

(まーったく、どっちも頑固なんだからよぉー)

現在、ルパン達はニューヨークのアジトにて就寝中。明日、トリキシーのもとへ忍び込む予定だ。ルパンはリビングのソファーで横になり、次元はチェアーで、五ェ門は床で座りながら睡眠をとっている。そのリビングと隣接した洋室で不二子とイヴは寄り添うように眠っていた。ルパンだけは目を開けていた。何故か眠れない。それはわかりきっていた。

(おいでなすったな)

ニヤ、とルパンは笑った。アジトに近付く十数人の男達の気配。やがて、そのリーダー格と思われる男がそっとアジトの扉を開いた──…



























ババババババ!!!















一斉に鉛弾がお見舞いされ、アジトは一気に蜂の巣に。ところが、そこには誰もいない。ざわめく男達。






「ざぁんねんでしたぁ〜!!!」






嬉しそうな声が響いた。男達が窓から外を見ればそこには月をバックに立っているルパン達の姿。

「わざわざ来てくれたところ悪いんだけどちょーっと過激だねぇ〜」
「ケッ、トリキシーの野郎の刺客か」
「ちょっとルパン、あたしを巻き込む気なの!?」
「まだ終わってはいないようだぞ…」

いきなりの奇襲にも余裕を見せるルパン達を見て、イヴはゴクリと息を飲んだ。

(これが……ルパン一家……!)

世界に名を轟かす、世紀の大泥棒達。どんな銃弾だって当たらない、どんな敵だって恐れない。イヴは改めてルパン達の凄さを身に染みて感じた。そんな時、













ぐっ











「!!!!」
「イヴ、しっかり掴まっとけ」









再び襲ってきた銃弾の雨に次元はイヴを抱えて逃げだしたのだ。次元に触れられている、それだけでイヴは爆発してしまいそうになるのに…!

「じ、じじ次元っ!!離して…!!」
「ああ?無理に決まってんだろっ!!」

左手でイヴを抱き、右手でマグナムを撃つ次元。イヴは顔を真っ赤にしている。最早、襲われているとは思えない。ルパン達は銃弾の中を逃げ、岩場に身を隠す。

「ふぅー…結構撃ってくるもんねぇ」
「大したことはござらん。それよりも大将をどう引き出すかだ」

斬鉄剣をチン、と納める五ェ門。彼が言うように、ボスのトリキシーのもとへ辿りつくのは容易ではなさそうだ。イヴは少し俯いていたがぱっと顔を上げた。

「ルパン、私を囮に」
「何だと!?」
「…イヴ、危険すぎる。それでもかい?」

慌てたのは次元、ルパンは真っ直ぐイヴの目を見た。…誰もが見とれ、奪い合うサファイアの瞳。それは決意に満ちていた。

「私ならできる……いいえ、













私にしかできない」











「……わかった、イヴ………だが、ひとつ条件がある」
「…?」

ルパンはそう言うと、次元の背中を押す。

「次元も一緒にだ」
「えっ」
「ルパン、お前…」

ウインクをしてみせるルパン。彼は次元の心中を察したのだ。

「いいか、イヴを絶対に守れよ、次元。トリキシーを片付けたら絶対に生きて帰れ。お前もイヴも…」
「………ああ、わかってるさ」

コツ、と拳を合わせた二人。

「イヴ、ちゃんと無事で帰ってきてね!」
「ええ、勿論よ…不二子」












イヴと次元はそっと顔を見合わせて手を上げて出ていく。マシンガンを持ってきた男達が一瞬銃を向けるが降参のポーズを見て少し怯む。

「待て、撃つんじゃねえよ。降参だ」
「なんだと!?」
「ルパン達は逃げちまった。俺とイヴだけ残されたって訳さ」

男達は顔を見合わせ、次元とイヴを連行していく。その際、男の一人がイヴの腕を強く握ったため、イヴが顔をしかめた。それを見て次元が身を乗り出し、さらに別の男達が次元を押さえる。

「痛っ…」
「!てめえ、イヴに何しやがる…!イヴに下手に傷をつけてみろ…俺がてめえら全員マグナムの餌にしてやる…!」

まるで獣のような瞳で男達を睨み付ける次元。イヴも男達もぞくりとした。

「じ、次元私は平気…」
「っ…!」

そんな調子がトリキシーのアジトに着くまで続いた。

























アジトは同じニューヨークにあった。ゲイルはビルだったが、トリキシーは殺し屋性分が抜けないのか、薄汚れた一軒家。リビングのソファーにトリキシーはいた。

「久々だな、次元…まさかお前がいるとは思わなかったよ」
「トリキシー…お前がイヴのサファイアを狙ってる真の存在ってわけか」

拘束を解かれた次元とイヴはトリキシーを睨み付けた。体格の良い、大男。次元が知っていた頃と変わらない悪人面だ。トリキシーは葉巻に火を付け、にやりと笑った。

「で、そこの美人が…イヴ・メイフィールドってわけかい」
「……っあなたね、私を狙ってきた奴…!ゲイルまで使って…ご苦労なこと」
「お前は只者じゃねえからなあ。下手に殺したら目はただの眼球、だが捕まえるにしてもすばしっこそうだからな。そこに現れたのが次元…お前らだ」
「ケッ…」

ふてぶてしい態度の次元に笑いかけながらトリキシーは言う。

「お前らを利用してイヴのオッドサファイアを奪う予定だったが…ははは…まさかここまで辿り着くとはな!」
「私を殺すためにルパン達を…次元を巻き込んだって言うの!?」

愛する人が自分のせいで事件に巻き込まれた。それがイヴはどうしても許せなかった。

「ああ…だが誤算だったな。お前ら二人がデキるとはなあ」
「な…ふざけるな!」

内心動揺しつつも冷静を保とうとするイヴ。その時、次元が動く。

「ああ…だがもうひとつお前には誤算があるぜ」
「ん?」

















「それは俺からマグナムを押収しなかったことだ!!!」











次元は得意の素早い動きで腰のマグナムを抜いた。そう、武器は奪われていなかったのだ。マグナムから放たれた銃弾が窓ガラスを破壊した。ところが…










「何!?」






そこにトリキシーの姿はない。まさかと思い、振り返れば…






「!!!イヴ!!」

イヴの首を締め上げ、銃を突きつけているトリキシーの姿が。次元は舌打ちする。何故、気付かなかったのか。トリキシーは素早い身のこなしで有名だった。何故、忘れていたのかと。

「さあ、どうするよ次元…俺なら今ここで女を殺し、一瞬で左目をえぐることもできる。それならギリギリで眼球はサファイアのまま取り出せるからな。だが…てめえが銃を捨てるならもう少し長生きさせてやってもいい」
「っじ…げん……っ」

苦しそうなイヴの声が次元を迷わせる。イヴを助けたい。今、銃を捨てればイヴを助け出すチャンスがあるかもしれない。だがそれはガンマンのプライドといったものを捨てることになる…

(俺はイヴを助けてやれない…っ!畜生…!ルパンならどうする!)

いつだってヘラヘラしてる相棒。だがそんな男も女の為なら喜んで銃を捨ててきた。

「…ああ、わかった」
「!ダメよ次元!!」

そう、次元はマグナムを下ろした。彼は命を賭してイヴを守る道を選んだ。その姿にトリキシーは豪快に笑った。

「ハハハハハ!!!さすがの次元大介も女を人質にとられてはただの男か!おもしれぇ!!」
「次元っ!!」

トリキシーの腕がほんのわずかに緩んでイヴは叫んだ。

「次元!!聞いて、聞くのよ!!!銃を撃って!!!あなたはそんな弱い男!?違う!!どんな状況でも、どんな敵でも、例え誰が人質になっていても…っ








自分の敵なら誰だって引き金を引く!!それが…


私の愛した次元大介のはずよ!!!







「!!!」




その言葉ひとつで



次元がマグナムを握る力が強くなった。

「この女…減らず口を!」

再び首を締め上げるトリキシー。だがふと殺気を感じて次元を見た。






次元は再びマグナムをトリキシーに向けていた。目に迷いは無い。







「ああ、そうさ




俺は狙いは絶対に外さねえぜ」









にやりと笑い、引き金を引いた。










ダアァァン!!!















「ぐああっ!!!」

弾はトリキシーの肩に命中した。衝撃でイヴは転げるように倒れ、すぐさま次元が抱きかかえる。

「じ…次元…」
「大丈夫か!?」
「ええ…ゴホッ」

だが、まだトリキシーは生きている。痛む右肩を押さえてマシンガンを構えた。

「なめやがって…!!!てめえら二人ともこの場で蜂の巣にしてやらあ!!!」

狂気の目。だが、イヴは腰からキンバーカスタムを抜くとそれを構える。次元もまたマグナムを構えた。



「続きは地獄でやりな!トリキシー!」
「私は入れ物なんかじゃない……私だって生きてる!!!」















ダアァァァン!!!









ニューヨークの夜更けに銃声が響き渡った。


































ルパン達が急いでトリキシーのアジトに着いた時にはアジトは赤く燃えていた。古い家だったため、あっという間に燃え広がったらしい。

「イヴー!!!」

不二子が叫ぶが、反応どころか人がいるとは思えない燃えようだ。ルパンと五ェ門も深刻な表情でアジトを見る。

「…次元…」
「………!ルパン、不二子」

何かに気づいた五ェ門がルパンと不二子を呼ぶ。二人も目を凝らすと…









「イヴ!!次元!!」

まるで泣きそうな不二子の声。炎の中から現れたのはイヴを姫抱きにした次元だった。二人は煤だらけで次元に至ってはスーツもボロボロ。火の中でイヴを庇ったためだろう。

「よお、どうしたんだ幽霊でも見るような面しやがって」
「…………よお









じゃねーよ心配させやがって!!!

再会ムードが一変し、ルパンはいきなり次元の頭を殴る。

「いてっ!なんだよこっちは傷だらけなんだよ!!」
「こんにゃろ、誰が燃やせっつったよ!!!おっかげで冷やっ冷やしたかんな!!!」
「あの状況でか!?ハッ、無理なこった!!第一、銃弾が弾薬庫に引火したんだ!!!止められるか!」

ルパンと口喧嘩を始める次元。だがその腕は意識を失ったイヴを決して離すことはなかった。



next...




■あとがき
次、最終回?イヴの「私の愛した〜」のセリフが個人的に大好き。


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