開戦






モビーディック号の甲板。気絶したエースを運ぶ大男ブレンハイム。ベッキーは困惑と不安の表情でそれを見るしかない。

「…っ」
「別にそんなに固くならなくていいよい」
「!」

敵に情けをかけられた上に船長が重傷で気絶。ベッキーの肩を叩いたのはマルコだった。

「おれは1番隊のマルコ。別に取って食ったりしねェから安心しろい」
「……っ何故助けたの」
「オヤジだって最初から殺す気なんてないよい。…ただ、オヤジがあいつを気に入った…とだけ言っとくよい」
「…」

息子と娘になれ。白ひげはそう言った。それがどういう意味なのかわからない。ベッキーはただただエースが心配でたまらなかった。すると、ベッキーの顔をのぞきこんできた男。

「きゃっ」
「サッチ!」
「いやァ〜手配書で見るより可愛いなァ〜!」
「驚かせてどうするよい」
「いやァ悪い悪い!あ、さっきのヤツな。ケガはひでェが、命に別条はないってよ」
「!!よかった…!!」

心から安心したようにベッキーは胸を撫で下ろした。それを見てマルコとサッチが微笑む。

「大事なヤツなのか?」
「…この命を預けられる唯一の男よ」
「へェ〜想われてんなァアイツ…」

サッチが呟いた。その感覚にベッキーの警戒心が次第に薄れていく。

(この海賊達…)

何故か、気を許せそうな感じがする。

「…エースは…」
「ああ医務室だ。側にいてやれよい…案内するよい」
「おい待て小娘」
「!!」

医務室に向かおうとしたマルコとベッキーだが、白ひげに呼び止められる。

「……」
「……」

甲板に上がった白ひげはベッキーを強い目つきで見下ろした。

「…っ」

やはりすごい威圧感。ベッキーは怯みながらも白ひげを見上げた。

「…お前ェ…あの小僧とずっと一緒にいたのか?」
「…?」

白ひげが質問してきたのは意外なことだった。

「……そうだけど…」
「どこから来た?」
「…東の海!」
「………」

何かを深く考えるような眼差し。ベッキーはさらに困惑した。

「オヤジ、どうかしたのかよい」
「……小娘」
「……」
「……小僧の傷が癒えるまで一週間。目が覚めんのはいつかわかんねェが…側にいてやれよ」
「えっ」

それだけ言うと白ひげは自室へ消えていく。甲板にいた白ひげクルーやスペードのクルー達は呆然としていた。

「……お前も。気に入られちまったようだよい」
「え、なんで」
「さァ…今まで娘ってのはナースしかいなかったからな。お前のこと、実の娘のように思ってくれるさ」
「………」























それから数日経った頃。エースは目を覚ました。

「…う…?」

見慣れない天井。柔らかなベッド。どこかの船室らしい。

「…ここは……」
「エース!よかった!」

視界に飛び込んできたのは心配そうなベッキーだった。

「ベッキー…?おれは…」
「ずっと気を失っていたのよ…!」
「…!そうだおれは」

白ひげに負けて…ボロボロになって気を失った。エースはすぐさま起き上がり、急いで部屋を出て甲板に向かった。そこは見渡す限り海で既にこの船が自分達を乗せて出航していることに気付いた。

「目が覚めたか!!」
「!?」

いきなり話しかけられてエースはその男をキッと睨んだ。後から追いかけてきたベッキーは急いでその場に駆けつける。

「エース!」
「おおベッキー、コイツ目ェ覚めたんだな」
「うん…」

なぜかその男とベッキーは親しげ。エースはさらに機嫌を悪くしたように頭を抱えて座り込んだ。

「おれは4番隊の隊長サッチってんだよ。仲間になるなら仲良くしようぜ」
「うるせェ!!」
「ハハハ何だよ寝起き悪いな…そうだ気ィ失った後の事教えてやろうか。お前の仲間達がお前を取り返しに来たんでおれ達でたたき潰した…なに死んじゃいねェ。この船に乗ってる…なァベッキー」
「う、うん」

とりあえず仲間達は無事。ベッキーの様子を見ても悪いようにはされていないらしい。だが…

「錠も枷もつけずに……おれを船に置いていいのか…!?」
「ん?」












その後、エースは何度も白ひげの首を狙った。ところが、さすが白ひげ。寝込みや不意打ち、だが全て白ひげに返り討ちに遭ってしまうのだ。

「毎日毎日たいした根性だなアイツ…お前も疲れるだろ」
「…エース…」

ビスタは髭をいじりながらベッキーにそう言うほど。








甲板で座り込むエースに温かな食事を置くマルコ。エースは顔を俯かせたまま呟くようにたずねた。

「!マルコ」
「ベッキーも食うといい。ずっとそいつにつきっきりだろい」
「…お前ら何であいつの事。“オヤジ”って呼んでんだ…?」
「……あの人が…“息子”と呼んでくれるからだ」
「!」
「おれ達ァ世の中じゃ嫌われ者だからよい……嬉しいんだなァ…ただの言葉でも嬉しィんだ」
「……!!」

父親から与えられなかった無償の愛。エースは震えた。ベッキーもなにか感じるのか、それを黙って聞いている。

「お前命拾いしてこんなことまだ続ける気かよい。そろそろ決断しろい」
「……」
「今のお前じゃオヤジの首は取れねェ。この船降りて出直すか…ここに残って



“白ひげ”のマークを背負うか…!!」


















そしてエースは決めた。










「うおおおお〜!!」
「またやりやがったエースの奴〜〜!!ドーマの一団降伏させたってよ!!」
「ベッキーが船長を追い詰めたってよ!!」

そう、彼は白ひげ海賊団として生きることを決意したのだ。ベッキーも仲間達も一緒に。エースは背中に、ベッキーは脇腹に白ひげの入れ墨を入れた。それ以後、二人は凄まじい活躍を見せ始める。それは全世界に知れ渡っていった。そして、しばらくした頃エースにある話が舞い込んできた。

「おれが2番隊を…!?」
「ずっと欠番だったんだお前ならみんな納得だとよ」
「すごいじゃないエース!隊長なんて」

ベッキーは嬉しそうに笑い、エースの腕に抱きついた。白ひげ海賊団の2番隊隊長。それは名誉なことである。

「お前は随分古株だろティーチ」
「ゼハハハいいんだ気にすんなおれァそういう野心がねェのさ!!やってくれエース隊長」

2番隊の古株ティーチは豪快に笑った。そしてエースの2番隊隊長就任が決まり、白ひげ海賊団は一層盛り上がった。…その夜、エースは白ひげに自分の出生についてを話した。彼はきっと船を追い出されると覚悟をしていたのだが…

「グラララ…――そうか驚いたな。そうだったのか…性格は親父<ロジャー>と似つかねェがなァ」
「敵だったんだろ。おれを追い出さねェのか」
「大事な話ってェから何かと思えば小せェ事考えやがって。誰から生まれようとも…人間皆海の子だ!!グラララ!!」
「………」











「やめろよい!!!エース!!!頭を冷やせ!!!」

それはある天気の悪い朝のことだった。仲間が殺されたのである。それは、エースに初めて話しかけた4番隊隊長サッチ。殺したのはあのティーチだった。

「オヤジは今回は特例だって言ってんだ!!!ティーチは追わなくていい!!」
「放せ!!!おれの隊の部下だ!!!これをほっといて殺されたサッチの魂はどこへ行くんだ!!!」
「エース…いいんだ今回だけは……妙な胸騒ぎがしてなァ…」
「あいつは仲間を殺して逃げたんだぞ!!!何十年もあんたの世話になっといてその顔にドロを塗って逃げたんだ!!!何より親の名をキズつけられて黙ってられるかおれがケジメをつける!!!」

最早誰の言葉も聞かないエース。仲間たちが止めていると…

「!!オイベッキー!?」
「!?」

見れば、帽子を被り、旅支度をしたベッキーが泣き腫らした目のまま、真剣な表情で甲板に歩いてきた。きっとたくさん泣いたのだろう、だがその瞳は決意の眼差しだった。

「私はサッチのために…必ずティーチを見つける」
「ベッキー!!」
「行くなベッキー!!」
「サッチの死体の側に…花があった……私の好きな花よ。……それとリボンも……。……今日は…私の誕生日だった…サッチはきっと昨日の夜…私の為にブーケを作ってくれていた…彼は器用だったから…」

必死に涙をこらえるその姿は悲しく、儚かった。

「…私、それを思うと…どうしてもティーチを許せない!!!!」
「ベッキー…」

マルコも名前を呼ぶしかなかった。エースはしばしベッキーを見つめていたがすぐ自分もリュックを掴むとベッキーと共にストライカーに乗った。

「おい待て!!!戻れ!!!エース!!!ベッキー!!!」






















…そして今。エースは処刑台の上で仲間達と恋人を見つめていた。

「オヤジ…みんな…おれはみんなの忠告を無視して飛び出したのに…




何で見捨ててくれなかったんだよォ!!!おれの身勝手でこうなっちまったのに…!!!」
「エース…」

ベッキーがそっと彼の名を呟く。だが白ひげは…

「いや…おれは行けと言ったハズだぜ息子よ」
「………!!?…!?ウソつけ…!!!バカ言ってんじゃねェよ!!!あんたがあの時止めたのにおれは…」
「おれは行けと言った……そうだろマルコ」
「ああおれも聞いてたよい!!とんだ苦労かけちまったなァエース!!この海じゃ誰でも知ってるハズだ。おれ達の仲間に手を出せば一体どうなるかってことくらいなァ!!!」
「お前を傷つけた奴ァ誰一人生かしちゃおかねェぞエース!!!」
「待ってろ!!!今助けるぞォォ!!!」


仲間達が…必死にエースを助けようとしている。エースは唇を噛んだ。





すると、ベッキーが靡いていた自らの髪を赤いシュシュで束ね、きっと正面を見据えた。そしてそのまま甲板を強く蹴り、宙へ飛んだ。

「!!!」
「飛んだ!!」
「なんて高さだ!?」

海兵達が口々に叫ぶ。ベッキーの跳躍は凄まじいもので、はるか上空まで一蹴りで飛んだ。センゴクが海兵達に向かって大声で言う。

「いいかあの娘をナメるな!!!あの娘は“プレプレの実”の圧力人間!!!
「えっ!?」

困惑する海兵達だったが…


「“圧力<プレッシャー>”!!!」

ベッキーが上空から手を海兵達に向けた。すると海兵達がいきなり強い圧力をかけられ、上から押し潰されるような感覚に陥り、立っていられなくなる。

「ぐわあぁぁ!?」
「なんだァ!?お、押し潰されるゥ!!」

倒れるのは一般の海兵ばかりで、覇気使いの将校達や三大将、センゴク、ガープらは堪えている。

「あららら…結構強い力だねェ…お嬢」
「圧力如きが…」
「オォ〜…凄いパワーだね〜…あんな細い体で」

三大将は圧力の動きを自然系の能力で打ち消しているらしい。ベッキーが地上に物凄い圧力をかけて下りてくる。だが海兵達が倒れていく姿はまるで…

「あの娘は圧力を自由自在に操る圧力人間!!軽い気持ちでいる奴等は皆あの娘の前に跪くように倒されるぞ!!それが“王女”たる由縁…




白ひげ海賊団2番隊隊員、“白い王女”




エンターズ・ビクトリア!!!!」


センゴクの叫びが響き渡る。

「……この場にいる海兵全員






私の足元に跪かせてやるわ!!!」




“白い王女”の表情はいつもの彼女とは全く違った。エースはベッキーを見つめて苦しそうな表情をする。




その時、突然として地鳴りが起こった。

「そら来たぞいあいつがさっき仕掛けた“海震”が…“津波”に変わってやって来る…!!!」
「“グラグラの実”の『地震人間』。“白ひげ”エドワード・ニューゲート!!!勢力で上回ろうが勝ちとタカをくくるなよ!!最期を迎えるのは我々かもしれんのだ…あの男は





世界を滅ぼす力を持っているんだ!!!!」


「始まるぞ……戦争が…!!!」

シャボンディ諸島で見守る人々は息を飲む。


「行くぞォォ!!!」

攻め入るは――「白ひげ」率いる新世界47隻の海賊艦隊。迎え撃つは――政府の二大勢力「海軍本部」「王下七武海」




誰が勝ち誰が負けても




時代が変わる!!!!




開幕





■あとがき
ついに戦争始まりましたよヒーハー!!これから楽しくなりますな〜!!
エースの過去編はきっと短編で番外編書きますね。


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