息子と娘





「ベッキー――――!!!」

エースの叫び声がマリンフォード全体に響き渡る。モビーディック号の船頭に現れたベッキーに向かって叫んだもの。悲痛な願いと共に…。

「何故来た…!!!どうしてだベッキー!!!おれはあの時、お前を逃がして安心したのに!!!」

バナロ島でベッキーを逃がすことがどういう意味なのか。エースはわかっていた。

「どうしてだ…どうして…ッ」
「………」

ただ見守るだけのガープ。彼の脳裏には幼い頃のエースやベッキーの姿。エースをまっすぐ見つめるベッキーがようやく口を開いた。

「……私が!」

響き渡る声。

「私が海賊になったのは…何故だったか覚えてる?」
「ベッキー…!」









「私は父親を探しに行くの!いずれ強くなって女の海賊になって、





私の本当の父親に会いに行く!」


コルボ山で言ったベッキーの言葉。

「それでも…エースと一緒に海に出るって決めたのは…私なんだから…。私は…エースのことが大好きで…ずっと一緒にいたかった…一緒に海に出て…もっともっと好きになった…」
「……」
「それなのに…どうして助けに来ちゃいけないの!!!




夫になる男を助けにきて何が悪いの!!!」
「「「「「「!!!?」」」」」」








その映像を見ていたシャボンディ諸島の人々。

「夫って言ったか…!?」
「け、結婚するつもりだったのかあの二人!!」












マリンフォードはざわついていた。ミルクティー色の長髪が風に舞う。

「ベッキー……」
「だから助けに来た!!!それが理由よ!!!」

外見は若く、細い体の美少女。だがその威圧感は凄まじい。エースは辛そうに表情を歪めた。




「ティーチを片付けたら結婚しよう」
「…えっ?」


ティーチを追っていた中…バナロ島へ向かう途中。エースはベッキーにそう言った。偽りなんかじゃない、本当の愛の証。

(ベッキー……ッ…!!)
「私は絶対!!!諦めない!!!」
「グラララララ…」

白ひげの笑い声が続いた。

「……聞いたかセンゴク」
「!」
「エースとベッキーは……てめェらごときには計り知れねェ絆ってのがあるんだ……グララララ…」
「…っ白ひげ…!!」

白ひげを睨むセンゴク。すると、白ひげがいきなり両手を左右に殴りつけるようにした。

「!?」

大気にヒビが入り、バキバキという音がする。

「何だ!!?大気にヒビ!!?」

同時に海が大きくうねり、巨大な水が高く上がる。

「!!?」
「何だあの爆発!!?」
「まずいぞあの水面の高さ…!!!」
「海震!!!」

















…三年前、東の海コルボ山。

「気をつけろよエース、ベッキーー!!」
「ああ!じゃあなルフィ…!!おれは先に行くぞ!!」

17歳になったエースとベッキーは海賊として船出。この二人はつい最近付き合い始めたばかり。

「うん!!おれだって三年経って海へ出る時はもっと強くなってるからな!!」
「ルフィー!!!ダダンによろしくー!!みんなに迷惑かけちゃだめよー!!!」
「おー!!」







そしてエースはスペード海賊団の船長として名を売り出し、ベッキーは副船長になった。賞金首となった二人の名は海軍にも知れ渡る。

「あいつらめ海賊になどなりおって……!!!ソフィーさんになんと言ったら!!!」

ガープは新聞を見て怒りを露わにし、

「“D”……!!どこの出だ!?」
「素性がよくわからないのですがルーキーにして男は自然系の能力を…!!女の方は超人系です!!」

センゴクが二人の素性を探ろうとする。そして白ひげにもその情報は届いた。

「“偉大なる航路”に威勢のいいガキ共がいやがる。グラララ…七武海への勧誘をケッたって?コイツら何年目だ?若ェのが…そんなに急いでどうする」

白ひげの手にはエースとベッキーの写った新聞があった。












ある冬島。エースとベッキーは白い息を吐きながら赤髪のシャンクスと会っていた。

「おれに、挨拶?」
「いや…そういう意味じゃねェんだ!!」
「ルフィって覚えてる…?」
「そのルフィ…弟が命の恩人だってあんたの話ばっかりするんで一度会って礼をと…!!」
「!」

シャンクスの目が輝く。

「ルフィの…!?へェ…!!兄貴なんていたのか!!そうかよく来たな〜〜あっそこのお嬢さんは彼女かな?話を聞かせてくれ」

朝まで赤髪一味と飲み明かしたこともあった。











そしてある時、エースは七武海“海峡のジンベエ”と対峙した。

「エース、ムチャよ!!」
「ベッキー下がってろ!!――デケェの……おれは“白ひげ”ってのに会いてェんだよ!!」
「こんな人斬りナイフみてェな小僧を…オヤジさんにゃあ会わせられん!!わしは“白ひげ海賊団”でもありゃあせんが…義理あって…お前さんの相手をする」
「エースそいつ!!“ジンベエ”だ”!!!」

スペード海賊団のクルー達が叫ぶがエースは止まらなかった。













「ハァ…ハァ」
「ハァ…ハァ…」

エースとジンベエの闘いは五日間続いた。互角の勝負だった。クルー達やベッキーは心配そうに見守るしかない。

「…もう五日も勝負がつかねェ…!!」
「死んじまうよ二人とも!!!エース〜!!!」
「…っ」

たまらず、ベッキーが走り寄った。

「エース!!!」
「!!バッ…ベッキー!!」
「ハァ…どかんかい小娘…」

ベッキーがどんなに強くても、例え手負いとはいえ七武海に敵うはずが無い。ジンベエがベッキーを見据えた。ベッキーは腰から名刀“鬼撫子”を抜いてジンベエに構えた。




その瞬間。


「おれの首を取りてェってのはどいつだ?望み通りおれが相手してやろう……!!」

その場に現れたのは巨大なモビーディック号。甲板には白ひげや幹部達の姿があった。

「!!!」
「白ひげ海賊団……!!!」
「おれは一人でかまわねェ」

白ひげが陸地に辿りつき、クルー達に凄まじい力を見せつける。

「ぎゃああ!!」
「お前ら!!」

それを見たエースはすぐさま炎の網を張った。

「“炎上網”!!!」
「!!」
「船長!!!」
「エース船長ォ!!何すんだよ」
「お前ら逃げろ!!!」

クルー達はエースから完全に引き離される。ベッキーが炎の向こうから叫んだ。

「エース!!」
「来るな!!あいつらと逃げろ!!」

叫ぶエース。白ひげはそれを見て何かを考えているようだった。

「………何だ…今更腰が退けたか…」
「仲間達は逃がしてもらう…!!!そのかわり…おれが逃げねェ…!!!
「ハナッタレが。生意気な…」

ニヤリと笑った白ひげ。エースは全ての力を出して向かっていった。

「うォォああァアアア!!!」
「……」
















「エース、エースっ!!!」

炎上網が弱くなった。それはエースの力が弱まって来たということ。

「ダメだ行っちゃあいけねェよベッキー!!」
「ベッキー副船長!!」
「放して!!私は…!!」

クルー達の制止を振り切ってベッキーは弱くなった炎を抜けて走っていってしまう。そこで見たのは血を流して膝をつくエースと、傷一つない白ひげ。

「エースー!!!」
「!!!ベッキー来るな…!!!」

白ひげがチラリとベッキーを見る。

「なんだ…小僧。お前の女か」
「ゴホッ…あいつに手を出すな…!!」
「エース!!」

エースに駆け寄り、心配げにその肩を抱くベッキー。もう片方の手で鬼撫子を抜き、白ひげに構えた。

「よくもエースを…!!!」
「……グラララ………まだ立つか…今死ぬには惜しいな小僧、小娘」
「………!!?」

何を言うのか、という表情のエースは白ひげを睨む。

「まだ暴れたきゃこの海でおれの名を背負って好きなだけ暴れてみろ…!!!」
「………!!!」








「おれの息子と娘になれ!!!」





…………









「フザけんなァ!!!………」



息子と娘





■あとがき
過去の回想シーン。ベッキーはスペード海賊団では副船長やってました。女の子なのに。スゴい(笑)

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