エンディング1









――17年後。





「こら!!!待ちなさい、アダン!!ちゃんと準備はしたの!!」
「もう準備万端だっつーの、心配性直せよおふくろ」
「アンタのせいよ!!!」

白ひげ海賊団の新たな船で騒がしい声が響く。見覚えのあるオレンジのテンガロンハットを被った若者がリュックを抱えて縄梯子を下りようとするのを、ひとりの女性が止める。

「全く、今日くらい静かにしねェのかよい、お前ら」
「マルコ、寂しいんだろ!おれがいなくなるのがよ!」
「うるせェ、さっさと行きやがれクソガキが」
「しかし、アダンが17歳とはな!!昔はあんなに小さかったのに」
「へへ、おれは成長が早ェんだよ」

…その若者こそ、かの海賊王の息子ポートガス・D・エースの実の子、17歳にまで成長したポートガス・D・アダンだ。アダンは今日、17歳の誕生日を迎え、白ひげ海賊団の船を下りて独立する。それは父エースと同じだった。母親のベッキーはやれやれと溜め息をつくばかりだ。

「ホントにこの子を海へ出しても大丈夫なのかしら…お母さん心配なのよ、わかってるのアダン?」
「だってオヤジだって17で海へ出たんだろ!?だったらおれも行ける」
「ハァ…ほんとあなたってエースにそっくり。無茶するとこも」
「へへっ」

アダンは本当にエースによく似ている。容姿も性格も全て。黒い癖毛やたくましい体つき。そばかすは無く、瞳は白ひげと同じ…ベッキーの黄金の瞳。ベッキーは成長した我が子を心配しながらも愛しそうに眺めていた。

「………行くのね、アダン」
「あァ!!おれは行く!!みんな、今までありがとな!!」
「このクソガキ〜!!!」
「泣かせんじゃねェよォ、アダン〜〜!!!」


海賊達はいざとなったら寂しさのあまり泣きわめく。アダンの頭にある帽子は父の形見だ。幼い頃はブカブカだったが、今では頭にジャストフィットしている。彼はこの帽子と共に旅へ出ることになった。

「じゃ…おれは行くよ、おふくろ」
「……おいで、アダン」

ベッキーはそっとアダンを抱きしめてやる。身長はとうにベッキーを越したアダン。最初は慌てて照れたが、すぐにそのぬくもりに抵抗をやめる。

「……行ってらっしゃい……たまには帰って来るのよ」
「…おふくろ………」
「いつだってあなたはお父さんとおじいさんに見守られている。…きっとあなたが辛くなった時でも…お父さんとおじいさんが側にいるわ……この海で一番偉大な海賊の血をひいているあなたは…いつだって愛されている」

嬉しそうにアダンは笑い、ベッキーを抱き返した。そしてしばらくして体を離す。



「行って来るよ!!」
「ええ、楽しんできてね!!!」


ボートに下り、アダンは手を振った。ベッキーやマルコ達もそれを賑やかに見送った。

「頑張ってこいよー!!!」
「何かあったら戻ってこいなー!!!」

彼らにとってもアダンは息子同然の存在。少し遠くへ行ってから、アダンは振り返って叫んだ。








「おふくろ!!!おれはいずれ、オヤジやじいさんのような大海賊になる!!!


そしてオヤジがおふくろを愛したように、おれも最高に愛せる女を見つけて




オヤジとおふくろみてェに生きるよ!!!!」
「……!!!」


その言葉にベッキーは目を見開いて…涙を浮かべてふっと笑った。息子の顔が愛する夫と重なって見える。本当によく似て育った…。

「…全く!!あなた達親子はどうして私を泣かせるのがうまいのかしら…!!!」




火拳のエースの息子、アダン。彼は新たな冒険に出ようとしている。父と祖父の想いを胸に…ボートは海を進んでいく。船からだいぶ離れたところでアダンはバッグから写真を取りだした。そこには、実父エースと白ひげ…そして若かりし頃の母と多くの白ひげ海賊団クルーが写る写真だ。アダンは父や祖父の顔を写真でしか知らない。ただ、昔からみんなに『偉大な海賊』として教えられてきた。アダンにとって父と祖父は誇り。誰よりも尊敬していた。

「…オヤジ、じいさん…!!おれは二人みたいな海賊になってみせる。……オヤジとじいさんはおれやおふくろを守るために命を張った。…おれの誇りだ…!!





見ていてくれよ、おれは必ず海賊の“高み”へ登りつめてやる!!!」




太陽のような笑顔と共に、アダンの声が広いグランドラインに響き渡った――……


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