涙の終戦




「シャ…シャンクス」

呆然とするベッキー。かつてスペード海賊団を立ち上げた頃、ルフィの恩人だからといって会いに行った事がある。

「赤髪ィ!!?ルフィを海賊の道に引きずり込んだ男」

ガープはルフィを海賊にしたということで険しい表情を見せた。






「赤髪海賊団だァ〜〜〜〜!!!」
「“四皇”カイドウとの小競り合いはつい昨日の事」
「その当人がもうここに………!!?」





シャンクスはしばらく麦わら帽子を見つめていたが空に浮くバギーに向かって投げつける。

「バギー!!」
「ん!!?」
「そいつをルフィに!!」
「“麦わら”!!?」
「お前にあげたい宝の地図があるんだが」
「ホントかオイ!!待ってろ今届ける」

バギーは意気揚々と飛んでいった。赤髪海賊団のクルー、ラッキー・ルウがシャンクスに声をかける。

「お頭ァ、10年振りのルフィだぞ。一目見ておかねェのか!?」
「一目…会いてェなァ…」

最後に分かれた10年前。ルフィの始まりでもあった。









「この帽子を



お前に預ける」






あの日預けた麦わら帽子がルフィの支えとなっていた。ハートの海賊団はいざ潜ろうとしていたところに帽子が届けられる。

「キャプテン!リード!“四皇”珍しいけど早く扉閉めて!」
「ああ…待て何か飛んでくる!」

ローは帽子をキャッチする。だがリードはまだ何かを見つめていた。

「リード、潜るぞ急げ」
「………



(…あの子……)」




リードが見ていたのはマルコ達に囲まれるベッキーの姿。見るからに体はもうボロボロで…自分より若いであろう彼女がここまで必死になってきたことがすぐにわかった。

(あれが……白ひげ海賊団の“王女”ビクトリア………きっとあの子は愛する男を救うために必死になって戦ってきたのね…………なのに……ここまで来て……その男だけじゃなく実の父親を失ったのね…)
「リード!」
「…わかったわ、今行く







(……それはあまりにも、






酷な現実だわ…)」






シャンクスは潜水艦をチラリと見てまた顔を戻す。

「…だが…





今会ったら

………



約束が、




違うもんな




ルフィ」

「おどれ“赤髪”…!!!ドラゴンの息子を…!!!」

赤犬がシャンクスを睨みつけている。その間に青雉が海面を凍らせていくが…

「“氷河時代<アイスエイジ>”!!!」
「!!?」
「潜水艦が狙われた!!海面が凍るぞォ!!!」
「うわ」
「危ねェ!!!」

なんとか氷から逃れようと潜水艦はスピードを上げる。さらに黄猿までもがレーザーを放ち始め、潜水艦を狙う。だがなんとか避けて逃げ切ることができたらしい。ベッキーは海を見つめる。

「ルフィ…ジンベエ…なんとか生きていて!!!」
「くそ…最後の最後まで!!」
「……!!当たってねェだろうな…」
「エースの弟ォ〜!!ジンベエ!!!」
「……!!」

三大将は険しい顔でルフィ達の消えた海を睨むしかない。

「――これでまだ生きてたらァ…あいつらァ運が良かったんだと、諦めるしかないねェ〜〜…!!」
「……」













白ひげ海賊団達がシャンクスに近寄る。

「赤髪……!!!」
「マルコ…これ以上応戦するな。大人しく手を引け。――これ以上を欲しても、両軍被害は無益に拡大する一方だ…!!!まだ暴れ足りねェ奴がいるのなら




来い…!!!おれ達が



相手をしてやる!!!」
「!!?」


赤髪海賊団が凄まじい迫力で立つその姿はまさに四皇の威厳。海兵、海賊達共に怯んだ。

「……!!」
「どうだティーチ……!!――いや……“黒ひげ”」
「…ゼハハハハやめとこう……!!欲しい物は手に入れたんだ、お前らと戦うにゃあ、――まだ時期が早ェ…!!!ゼハハハ…行くぞ野郎共!!」

ティーチは笑いながらマリンフォードを後にしていった。それを睨むセンゴク。

「……」






戦争が終わる……ベッキーは脱力して膝をついた。

「全員、――この場はおれの顔を、




立てて貰おう」










……戦争が終結した。この戦争において失った人命はあまりにも多い。白ひげ海賊団は涙を流し、海兵達も俯くばかりだ。長く…辛かった戦い。傷だらけの者達……シャンクスは続けた。

「“白ひげ”“エース”二人の弔いはおれ達に任せて貰う。戦いの映像は世に発信されていたんだ…!!これ以上、そいつらの死を晒す様なマネはさせない!!」
「何を!!?この二人の首を晒してこそ海軍の勝鬨は上がるのだ」
「構わん!!」
「!?」

センゴクは将校を止め、言った。

「お前なら…いい赤髪…責任は私が取る」
「すまん」
「負傷者の手当てを急げ…!!」









マリンフォードの戦争はついに……




「戦争は……!!!



終わりだァ!!!」


――かくして“大海賊時代”開幕以来最大の戦い、“マリンフォード頂上戦争”はここに幕を閉じ――歴史に深く刻まれる――。









「………」
「ベッキー………」

立ち上がったベッキーにマルコ達が近付く。だが、ベッキーは呆然としたままある場所へ歩いていく。その足取りは重たいように見え、海兵ももう誰も手を出さずに見ていることしかできない。彼女の向かう先は誰もが予測できた。





「………」



彼女が足を止め、そっと膝をついたのは……もう息をしていない、エースの亡骸のもとだった。

「…エース……」

小さく呟いてエースの頭を抱え、






ぎゅうっと抱きしめた。




「………エース……」

もう温かくない……冷たい。もう…抱きしめてくれない…キスしてくれない……笑って、くれない――……

「…………」







すると、ベッキーの肩をそっと抱いたのはシャンクスだった。シャンクスはしばらく何も言わずそうしていたが……諭すように言う。

「……もう…我慢するな、ベッキー……もう泣いたっていい。…戦争は終わった………




もういいんだ…!!泣いていい…!!!」
「……っ」

ベッキーはエースや白ひげが死んでからまともに泣いていなかった。だが今すべてが終わり……溢れ来る涙。目の前で実の父と…結婚したばかりの夫を失った。それは…この海だけじゃない、この世界でだって…





―――ベッキー!!おれは死んでもベッキーが好きだっ、絶対離さねェからなっ。





―――グラララララ……まったく、とんだじゃじゃ馬な娘だぜ……










「……っ…




わぁああぁああああぁあああぁあああああああ――――!!!!」











エースを抱きしめてマリンフォード中に響き渡るようなベッキーの泣き声は悲痛すぎた。全世界の人々もその映像を見て、海軍勝利に騒いでいた人々もシーンと静まる。その中で、突然若い女性が泣き崩れたのだ。

「ウウ…!!」
「!?オイ、どうしたお前!?」
「私…!!あの子の気持ち…わかるの……!!あの子は…っあんなに必死になって恋人を助けようとしてた…たとえ体がどれだけボロボロになっても…!!それで、やっと助けて……結婚したのに!!なのに彼女は目の前でその夫を失ったのよ…そして…実の父親までも……愛する人を一度に二人…目の前で失ったの…あの子…どれだけ辛い思いを…!?海賊なのはわかってるわ…でも…あの子、女としてひどくつらい思いをしている…!!もし…私が…あの子の立場だとしたら…


死んでしまいそうになるわ…!!!」

同じように涙を流してしまう若い女性が世界各地で多く見られた。これは、後に頂上戦争と共に語られる現象…











『悲劇の王女の涙』である。



涙の終戦




■あとがき
ついに終戦。連載も残りわずかとなりました!
長かったような…後半は連続upしましたので意外と早かったような。
エースと白ひげという大きな犠牲の先にベッキーが出した答えは…


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