さらば愛しき父よ


それは元白ひげ海賊団2番隊隊員…エースの部下…。そして、4番隊隊長サッチを殺害し、ヤミヤミの実を奪い…追いかけてきたエースを捕らえ、海軍に売り渡し、エースの死の直接的な原因を作った男。




マーシャル・D・ティーチ……!!!




「ゼハハハハハハハハ!!!」
「あれは間違いなくインペルダウン『LEVEL6』の死刑囚達!!!」
「なぜあいつらがここにいるんだ!?」

黒ひげ海賊団には数か月前までいなかった面々がいた。実は彼らはインペルダウンの最悪の犯罪者達である。

「どいつも過去の事件が残虐の度を越えていた為に、世間からその存在をもみ消されたほどの…世界最強の犯罪者達………!!!」
「一人たりとも絶対に世に出してはいけない奴ら…!!」
「――あんなデカイ生物は他にはいない…!!



海賊『巨大戦艦サンファン・ウルフ』!!!」
「あ…見つかっつった上にバレつった…!!」

――その巨体は何よりも大きい…サンファン・ウルフ。

「『悪政王アバロ・ピサロ』!!!」
「懐かしいシャバだニャー…」

――独特な語尾が特徴的な青い長髪とひげの男、アバロ・ピサロ。

「『大酒のバスコ・ショット』!!!」
「トプトプトプ…!!ウィ〜、こいつら殺してええのんか」

――徳利を飲み、凶悪そうな笑みを浮かべるバスコ・ショット。

「『若月狩りカタリーナ・デボン』!!!」
「ムルンフッフッフッあなた達もスキねェ」

――唯一の女性にして醜悪な顔つきの女囚カタリーナ・デボン。

「――そしてインペルダウンの『雨のシリュウ』看守長!!!一体どうなってるんだ!!?」

センゴクは叫んだ。

「シリュウ貴様………!!!マゼランはどうした!?インペルダウンはどうなった!?貴様らどうやってここへ来た!!!」
「後でてめェらで確認しな…ともかくおれは…コイツらと組む。以後よろしく」

すると、海兵の一人が走ってきてセンゴクに伝える。

「センゴク元帥!!お伝えするチャンスがなかったのですが…先程再び“正義の門”が開き認証のない軍艦が一隻通ったと報告が」
「……それがこいつらか!!どういう事だ動力室には海兵しかおらず異常もない筈」

その疑問に答えたのは黒ひげ海賊団航海士、ラフィットだ。

「ホホホ!!申し訳ない単純な話……!!私が出発前動力室の海兵に“催眠”をかけておいたのです…『正義の門』に軍艦を確認したら全て“通せ”と。他の方々の役にも立ってしまったようですが…」
「海賊として政府に敵視されてちゃあ、『正義の門』も開かずインペルダウン潜入も不可能。“七武海”に名乗りを上げたのはただそれだけの為だ…!!称号はもういらねェ!!!」

ティーチが七武海になったのはインペルダウンの囚人達を解放するためだったのだ。

「………!!!そいつらの解放が目的だったのか!!」
「ゼハハハハそうとも初めからそれだけだ、そしてこれが全て!!今にわかる」
「………!!!」

高笑いが響く中……



「ティーチィ〜〜〜!!!」
「危ない!!船長!!」
「!」




「!!!」
「おわ!!!」


白ひげの攻撃が黒ひげ海賊団にぶつかる。

「………!!!容赦ねェな…!!あるわけねェか!!」
「……てめェだけは息子とは呼べねェな!!ティーチ!!おれの船のたった一つの鉄のルールを破り…お前は仲間を殺した」
「オヤジ…!!」

一人でティーチに向かおうとする白ひげ。マルコが思わず手を出しそうになるが…

「手ェ出すんじゃねェぞマルコ!!!」
「!!」
「4番隊隊長サッチの無念!!このバカの命を取っておれがケジメをつける!!!」
「ゼハハハハ望むところだ…!!!」
(……サッチ……?)

サッチ……白ひげ海賊団4番隊隊長。船に乗ったばかりのエースやベッキーにも親しくしてくれた。…愛すべき男だったのに。そこでジンベエに抱えられていたベッキーはようやく正気を取り戻す。

(…サッチ……………エース……!!!)
「!!ベッキーさん!!!」
「…ジンベエ!!……!!!ティーチ!!?」

ベッキーが振り返ると白ひげと対峙するティーチの姿が見えた。ベッキーはジンベエの腕から抜け出す。

「ベッキーさんダメじゃァ!!!」
「ルフィを…お願い!!!」
「ベッキーさん!!!」






「“闇穴道<ブラックホール>”!!!サッチも死んだが…エースも死んだなァ!!オヤジ!!」

ティーチが体から黒い闇を生み出し、地面に這わせていく。それは白ひげの足元にも及んだ。

「おれはアンタを心より尊敬し…憧れてたが…!!アンタは老いた!!処刑されゆく部下一人救えねェ程にな!!!」
「!!!」
「バナロ島じゃおれは殺さずにおいてやったのによォ!!!」
「……」

白ひげが拳を振るって地震を起こそうとするが…

「おっとっと無駄だぜ!!おれの前では“能力”は全て無駄!!!“闇渦<くろうず>”!!!」

ティーチが白ひげの腕に触れるとエースの時と同じように能力が一切使えなくなる。

「ゼハハハどうだもう地震は起こせねェ…」

地震を封じたティーチは優位に立ち、笑い声を上げた。


…すると



「っぐわアァアア!!?」
「!!!」


ベッキーがいきなり飛んできて今までにないほどの圧力を帯びた刀でティーチの腹を斬った。

「ぐあアッアァアア!!!てめェエエ、ベッキー!!!」
「…!!!」
「ティーチ、許さない…!!お前だけは…絶対に許しはしない!!!お前は……私が殺す!!!!」
「ベッキー!!!」
「ベッキーちゃァん!!!」

叫ぶ海賊達。ベッキーは怒りしかない…ティーチへの恨みで溢れかえっていた。先程の白ひげと同じように……。ティーチがサッチを殺さなければすべては起きなかった…エースが死ぬこともなかった。

「お前が……!!!お前が全ての始まり…!!!お前が!!!エースを殺したのよ!!!!」

ベッキーの怒りの攻撃は止まらない。ティーチが焦りを感じ始めたが、それでもまだ手段はあった。

「ゼ…ゼハハハ、ベッキー!!!やっと現れたかァ!!!お前を探したぜェ!!」
「!?」
「ティーチの奴、何を!?」

海賊達が叫ぶ。

「!?何を…」
「ゼハハハハ、おれァお前が欲しかったんだよ!!ベッキー、お前をな!!!」
「な…」
「何!?」

ティーチの発言は周囲を驚かせる。

「…!?」
「ティーチ…てめェ…」
「エースが死んだ今!!お前はおれの女になるんだよ!!!」



――それはエースとベッキーが白ひげ海賊団に入って少ししてからの事。まだティーチはナリを潜めていた。

「んー?ベッキーがなんだって?」
「幸運の王女だよ。ベッキーはおれと、おれの兄弟達の間で幸運の王女って言われてた」
「幸運の王女?すげーな!!」
「ベッキーを手に入れたヤツが最高の名誉を得られるってな。へへ、おれは幸せ者だよ…」


嬉しそうにクルー達に語っていたエース。それをティーチはそばで聞いていたのだ……



「ゼハハハハ!!エースが死んだ今!!!お前はおれのものになるんだ!!!

幸運の王女は世界一最強の男のものになるのが筋ってもんだろォ!!?」
「……ティーチ!!!」



その途端に白ひげがティーチの体を薙刀で斬った。

「グワァアアア!!!痛ェ…!!!この…“怪物親子”がァ!!!死に損ないのクセに!!!…黙って死にやがらねェ」
「!」

白ひげは何かを感じてベッキーの体を掴む。

「え」
「…………」

そのまま





白ひげはベッキーをマルコ達のいる対岸へ放り投げたのだ。

「!!!」
「パパ!!!





(まさか……)」







「やっちまえェ!!!」








黒ひげ海賊団全員が一気に、白ひげの体に攻撃をし始めたのだ。銃で撃ち、刀で斬り、槍で突き……白ひげといえどもう耐える力は無い。ベッキーも、彼女を抱えたマルコも、すべての海賊達が涙を流した。愛するオヤジが殺されていく姿。あまりにも辛すぎる。

「オヤジィ〜〜〜〜〜!!」
「ゼハハハハやれェ!!!ハチの巣にしろォ!!!」








薄れゆく意識の中……白ひげはロジャーとの会話を思い出していた。






「お前が死ぬって?ロジャー…」
「……ああもう長くねェ、ラフテルへの行き方でも教えようか白ひげ」
「聞いても行かねェ、興味ねェからな」
「近頃政府の奴らが…おれを何と呼んでるか知ってるか?『ゴールド・ロジャー』だ。……違う!!おれは“ゴール・D・ロジャー”!!!」
「時々会うな、“D”を名に持つ奴ら…ウチにも一人ティーチってのがいる。“D”ってのは何なんだ…」
「おお知りてェか、よし教えてやろう…」











「…んあっ、弾切れだ……」

銃弾が尽きてティーチらは攻撃を中止した。もう白ひげは死んでいる。そう思っていたが…

「お前じゃねェんだ……ハァ、ハァ」
「!!…まだ生きてんのかよ!!!」
「ロジャーが待ってる男は…少なくともティーチお前じゃねェ…」
「あ!?」
「ロジャーの意思を継ぐ者がいる様に、いずれエースの意思を継ぐ者も現れる…“血縁”を絶てどあいつらの炎が消える事はねェ…――そうやって遠い昔から脈々と受け継がれてきた………!!ハァ、そして未来…いつの日かその数百年分の“歴史”を背負って、この世界に戦いを挑む者が現れる………!!!」
「――――!!」
「センゴク…お前達『世界政府』は…いつか来る…その世界中を巻き込むほどの“巨大な戦い”を恐れている!!!興味はねェが…あの宝を誰かが見つけた時…、世界はひっくり返るのさ……!!誰かが見つけ出す、その日は必ず来る…



“ひとつなぎの大秘宝<ワンピース>”は



実在する!!!」
「!!!?」
「…………っ!!!貴様っ!!!」


白ひげの放った一言が世界を変える。今まで疑惑に過ぎなかった海賊王の宝の存在が…白ひげによって断言された。




(…許せ息子達…とんでもねェバカを残しちまった…おれはここまでだ。


お前達には全てをもらった)






「おかしいぜ海賊が財宝に興味ねェなんてよ。お前一体何が欲しいんだァ?」
「……」
「おいニューゲートォ!!」
「……ガキの頃から…欲しかったものがある」
「?」
「おお!!あるのか教えてみろ!」
「…………



家族」



死はもうすぐ側だ。朦朧とする中、白ひげは涙を流すベッキーを見つめた。

(……すまねェ……おれはお前の婿を助けられなかった………おれは…あの日からもう二度とお前には会えないと思っていたが……お前はおれを見つけた……)


「お前ェ…あの小僧とずっと一緒にいたのか?」
「…?」




(…あの日…おれは)


「パパは






私の本当のパパなの?」










(お前にとって“父親”でいられたのか…………なァ、ビクトリア)



そしてそっと目を閉じる。



(感謝している、さらばだ息子達………!!…………我が娘よ…)



















「………ん?………あ……!!…し…死んでやがる………立ったまま!!」

ティーチが驚きを隠せない。白ひげは倒れなかった。

「……!!………オヤジィ………!!!」





“白ひげ”死す!!!死してなおその体屈する事なく――頭部半分を失うも、敵を薙ぎ倒すその姿まさに“怪物”。この戦闘によって受けた刀傷実に――二百六十と七太刀――受けた銃弾百と五十二発――受けた砲弾――四十と六発――さりとて、――その誇り高き後姿には…あるいはその海賊人生に、







一切の“逃げ傷”なし!!!





「パパアァアア〜〜〜〜〜!!!!」



さらば愛しき父よ




■あとがき
白ひげの死…。悲しみに暮れまくりますね。
戦争も終盤…悲しすぎますー…!!!
この長編を読んでくださる方、ぜひ感想とかくださるとやる気が出ます(笑)


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